メリナの事を考える
しばらく通路を進む。
俺は割り切りたい気持ちと憂鬱な気分との葛藤から無言になっている。
メリナの炭化の事を忘れられるはずがなかった。
足が重い。
「暗いわね。イジイジしないでよ」
元凶が言うなよ。
「次に会った時に謝ればいいのだ。あの娘も滅んだ訳ではないだろ」
でも、今すぐに笑えるかよ。そこまで俺は非道になれない。
っていうか、どんな顔で会うんだよ。
自らの意思で、この街から出て行きたいぞ。
俺が沈黙を続けたら、更にダンが言葉を発する。
「女々しいぞ、ナベ。戦うということは死と隣り合わせであるのだぞ」
それは聞いたことあるし、そうかもなと思っていた。
でも、実際に体験すると違うんだ。
「ナベ、戦った上でお前がメリナに先程のような炭にされたとしよう。どう思う?」
ダンが俺に訊く。
「……生きた上での炭か?」
「もちろん」
「それでいて、俺は死なないのか?」
「もちろん。半日掛からず、元の体にも戻ろう」
そうだとすると、敗けを認めて終わりだ。俺の性格的に勝敗に関しての蟠りは持たないだろうな。
「悔しいだろうが敗けは敗けだな。でも、それだけだ」
「そうだろうよ。メリナも同様だ」
本当に?
でも、少し楽になった。
メリナは気が強そうな女性だったけど、悔しいと思う程度が違うだけかもしれない。
「裸を見られたら、どうだ?」
俺がメリナに?
何とも思わないな。強いて言えば、『今、俺の大事な部分の皮が被ってないよね』かなくらいか。
……バカだな、俺。
「その程度だ。気にするな、ナベ」
答えてないぞ、俺。いや、答える勇気もないけどな。
しかし、女性は色々違う感情が入ってくるだろ。
お前の嫁が他人に裸を見られたら、嫁がどんな思いをするか考えてみろよ。
恥ずかしいって思うだろ。
あっ、その程度か。俺の皮と変わらんな、きっと。
「しかし、自分が負けた事で崇拝するスードワットに危機が迫ると考えたら、死ぬよりも辛いぞ」
「そうか?」
当たり前だろ?
でも、それはメリナがあそこに居なくても竜は殺すんだよな。
許して貰えるかな。
「アンジェを守るための戦いでナベが負けたら、ナベはどう思うの?」
その質問はズレているぞ、ティナ。
別に俺はアンドーさんを信仰していない。
それに目茶苦茶強いから、俺が守る必要がない。
守れって言われたら、耳を疑うな。いや、いつもの悪戯だろうと思うか。
そっか。
メリナも聖竜より強いはずがないし、彼女もそんな事は微塵も思っていないだろう。
なら、スードワットの依頼であっても、それが『竜を守れ』であるはずがない。
守れっていうなら、相当おかしな話だ。
あの竜はアンドーさんに一瞬で切断されているんだからな。それであっても、メリナに守れと命令したのなら、つまり、そんな根性のヤツなら、こいつらにボコられてしまえと思えるわ。
やはり、ダンが何回も俺に言ったように、メリナにとって守りたい物が奥の部屋にあったのだと考えた方が自然だな。
それは無事だったのだから、メリナは敗北したけれども多少は満足か。
考えが纏まるまでに時間が掛かったが、ダン達は俺が喋るのを待ってくれた。
「いや、分かった。メリナは悲しんでいないだろう」
「どういう事だ。おい」
途中の思考を飛ばして返答したから誤解されたな。
まぁ、いいじゃん。
「アンドーさんの危機なんて面白すぎるだろ」
「尻出せよ、おい」
「生尻出すぞ」
「止めろ。炭にされて並びたいか」
それは中々シュールな光景だな。
「元気になって良かったね、ナベ」
「あぁ、しかし、もう止めてくれよ」
「闘いって、こんなものよ。場数を踏んで一皮剥けたら、ナベも分かるわよ」
それを理解する日は来なくて良いな。




