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絶対に助けろよ

 俺はどうしたものかと立ち尽くしていた。

 罵倒したい気持ちはあるが、ティナも俺を助けるためにしてくれたのだろうし。



「ハイヒールは無駄。呪いはあと一時間。頑張れ」


 アンドーさんが炭に話し掛ける。

 呪いって、ダメだよ。どこまでしてるんだよ。

 俺が耐えきれなくなるぞ。



「呪いって、何の呪いだ?」


「その炭が回復しない呪い」


 炭って言うな。女の子だろ。


「一時間後に解けるから、その時に自力の魔法で回復すればいいのよ」


 魔法で回復するという事がお手軽なのか、そうじゃないのか、この世界の感覚が掴めない。

 今はこんなにひどい体の状態でも、余り重く考えなくて良いのであれば、まだマシなのだが。

 っていうか、回復魔法とやらが使える人間なのか、こいつは。



「本当に大丈夫なんだな?」


「問題は体温だけだね。定期的に血液の水を外の水と交換できれば大丈夫だけど」


「私がやる」


 アンドーさんが言う。

 下僕にさせるそうだ。

 もう悪魔的なことはするなよ。


 『血液型間違えました、てへぺろ』とか、『空気って血管に入っちゃダメなんだ、てへぺろ』とか止めろよ。



「で、この娘さんは誰なんだ?何故、こんな所にいたか分かるのか?」


「何故かは、先程も言った通り、そちらの部屋にいる者たちを守ろうとしたのであろう」


 何を守ってたんだよ。

 こいつも、そこの扉の奥に隠れていたら助かっただろうに。

 


 ティナが更に俺に衝撃を加える。


「確か、この子の名前はメリナよ。ナベも今日出会ったじゃない」


 おいっ!あの巫女さんかよ!!

 問答無用で炭にするなんて言語道断だろ!!


「マジかよ。マジでひくわ……。俺、もうお前たちと一緒に行く自信がなくなったぞ」


 本気だぞ。あり得ないぞ。

 メリナからは疑いの目で見られたり、辛辣な言葉を貰ったりしたけど、焼かなくてもいいだろ。


「こっちだってびっくりしたわよ。そこから、いきなり湧くんだから」


 虫けらみたいに言うな。

 メリナの親が聞いたら泣くぞ。俺も泣きそうだ。



 ティナが指す部屋の片隅を見ると、二、三人が乗れるくらいの丸い魔法陣がほんのり輝いていた。

 あれは転移するためのシステムか。たぶん、そうなんだろう。


 だとしても、何故こんなとこにいたんだろう。

 いや、それはいい。あっちの部屋に大事な何かがあったんだ。それを追求して考えても仕方ない。

 先にはっきりさせないといけない事がある。



 焼いた理由だ。

 ティナが意味もなく、こんな事をするとは思えない。必要がないだろう。

 何か、俺が知らない事情があるのかもしれない。

 そちらを考えた方が俺のためだ。躊躇なく、更に理由も軽く、人間を焼く連中じゃないと思いたい。


 あの娘はカレンちゃんの頭を触ったり、『不吉な事が』とか言っていた。善良そうな顔をしながら、この炭がカレンちゃんに何かしたのではなかろうか。



「この子がカレンの獣化を早めたのか?」


「違うぞ。竜に心酔していたものの、とても良い娘であったな」


「じゃあ、何故ここまでひどいことをした!?」


 思わず自分の語気が強くなって、内心びっくりした。

 余りのことに俺は怒っていたのだろうか。それとも、こいつらへの警戒感が俺を焦らせているのか。



 ティナが答える。


「んー、ナベを殺そうとしたからかな。倒さなきゃ、ナベが焼け焦げて死んでたのよ」


 ちょっと俺は怯んだ。

 やはり、あのかわいい顔をした子に俺は殺されそうになっていたのか。

 それで正当化できるとは思わないが、理解できる理由が有って、安堵した。

 安堵しちゃダメなんだけどな。ティナの言葉の真偽は不明なのに。

 俺は安心したいのだろう。悪魔と旅している訳ではないと。



 巫女長にも申し訳ない気持ちがある。仲良さそうだったし。

 俺が出来る事と言えば、はメリナの姿が元に戻るよう、こいつらに念押しすることくらいか。

 それにしても、あんな美人にとんでもない事をしやがる。



「扉を通り越しての殺意、レア」


 アンドーさんがぽつりと言う。

 そんなの感じなかったぞ。

 レアとウェルダンを掛けている気がしたが、そこはスルーだ。ちょっと俺も疲れてきた。


「適当なことを言うなよ。あの娘に殺されるようなことはしてないぞ」


「今、可愛いお尻とその近くを見てたよ?」


「待て!尻しか見てない」


 しまった。

 これでは、意図的に尻を見ていたことになる。

 もう二度と街であの娘とは会いたくないな。私怨も加わったニ度目の殺意を受けそうだ。


「やらしいわね」


「ふざけるな。尻の穴も見てない」


「『も』って、その発想自体が最悪じゃない」




「ティナ、ナベよ、言葉で嬲るのはもう止めろ。その娘も耐えられまい」


 え、俺もなの?不満だ。


 しかし、確かに動けない上に自分の裸を見られるのは若い娘には可哀想だ。

 布を掛けたアンドーさん、グッジョブ。


「ナベを殺そうとした。こっちは応戦した。事情は分かっているから一時的な罰で済ませた。過剰じゃないでしょ?」


 その詳しい事情を俺は知らないがな。

 でも、それが無かったら未来永劫に続く罰を与えるって言うなら、俺はもう、お前たちとは一緒に行けないぞ。



「ナベ、身に危険が及ぶときは躊躇してはいけない。その炭になっているのがお前だったのかもしれないのだぞ」


「お前ら、目茶苦茶強いんだからそんなことしなくていいだろ?」


「だから、被害が増えるでしょ。馬鹿は一度で懲りないのよ」


「ナベ、行く」


 アンドーさんが既に次の通路に向かおうとする。

 先には入った時と同じような扉が見えた。



「賢くて強い敵は情に訴えてくるものだ。こちらも敵を助ける度に次もと考えてしまう。如何なる時も敵には必殺を心掛けよ、ティナもだ」


 それじゃ邪神を崇拝してるみたいだろ、ダン。


「はいはい」


 ティナが適当に返答した。

 俺はもう一度ダンに確認する。


「絶対に助けてやれよ。髪の毛も燃え尽きてるんだから、元に戻せよ」


「分かっている。その者であれば、解呪され次第、自力でなんとかすると思うが、我々も最善を尽くそう」


「約束だからな。で、誰を守ろうとしてたんだ?」


「そこの部屋にいるが見ない方が良いぞ。神殿が保護している獣人だ。我々は、そいつらにとっては完全な仇だ。そいつらが状況に気付いて向かってくれば、この娘と同じことになる」


 俺はダンの指す扉を見る。

 巫女長も言っていた、カレンちゃんも保護しようとしていた場所か。

 メリナも獣人を助けたいか。俺と同じじゃないか。


「見ない。お前たちは容赦がない。絶対に見ないぞ。下手したら、俺がそいつらを庇うために、そのメリナみたいになってしまいそうだ」


「そうかもな」


 ダンは大笑いしてアンドーさんの方に進む。なんで笑えるんだよ。

 こいつら狂ってるな。焼かずとも記憶操作でもして何事もなく済ませばいいんじゃないのか。


「ナベも戦場に立てば分かる。敵の命は軽い」


 分からなくていい。

 それにメリナを敵にしない方法もあっただろ。


 ……敵か。


 今、気付いたよ。

 敢えて焼いたんだろ。竜を苦しませるために。



「ダンは厳しいね」


 ティナが俺の肩を後ろから軽く叩いて言った。

 微笑んでいたが少しだけ口調が平坦だった。

 あれだけやっておいて思うところがあるのだろうか。


 俺は踞った炭にごめんと一言掛けてから小走りでアンドーさんの所に向かった。

 この先で気持ちを切り替えられるかな、凄く不安だ。精神がゴリゴリ擦り減っていくよ。


 アンドーさんがメリナを助けると言ったんだ。

 とりあえず、ダンジョンを抜けるまでは忘れよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先程読み終えましたのいくつかの章で質問をお許し下さい・・・。 [一言] 戦闘狂のメリナさんが「良いとこ無し」かつキャラが経っていない段階で御退場にはショックを受けました・・・。
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