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炭の正体

「あの黒いのは何?」


 俺は蹴られたお尻を擦りながらティナに訊く。


 炭はアンドーさんが扉の傍から部屋の中央に転送させていた。

 廊下からの熱量が凄いので扉も閉めてくれている。ホラー作品の恐怖の館の入口みたいに、誰もいないのにバタンと。



「中にいたのよ」


 ティナは平然と言った。

 炎で巻かれた瞬間に中に入り、何かを蹴り上げて立ち位置を変え、火炎魔法を唱えて逆に焼いたらしい。

 あぁ、あの炎は途中からティナの魔法か。

 ダンが居なければ、俺はティナに殺されていたな。



「いい感じに制御できたかな」


 ティナは満足げに笑った。


「うむ。酸素量の調整、熱伝導の制御も完璧だな」


 ダンがティナを誉める。

 俺は凄い勢いで炎が出ていたことしか気付かなかった。

 玄人同士でしか分かり合えない、いい色の炎とかあるのか。分かりたいと全然思わないのも、また凄い。マニアック過ぎ。


 が、一応訊いてみる。


「そんなに、今の炎が良かったのか?」


「あぁ、いや、その黒ずみな、ティナの妙技で、まだ生きている。なかなか出来るものではないぞ。皮膚の表面を動けない程に固く炭化しつつ、内部は破壊しないとは」


 生きてるの、これ!?完全に炭だぞ、これ。

 今生きてるだけで、すぐに死ぬだろ。残酷すぎる。



「首の所が秀逸」


「うむ、血管が近いにも関わらず血流に影響が出ないように、且つ、皮膚は完全に炭化させている。この艶はそう出ないぞ」


「頭も凄い」


「うむ、生命維持に必要のない顔や頭の皮膚は完全に炭化させている。それでいて形は焼く前を維持している。唇の粘膜をここまで形を維持するのは正しく神業。水の蒸発分を炭素で埋め、細胞一つ一つの大きさを維持している。髪を燃やし尽くしているのが、また頭部の美しさを引き出して侘びさえも感じさせる」


 すまん、力説してもらったが興味ない。

 むしろ、避けたい話題だ。


 火から身を守ろうとしたのか、体を固く丸めているので、見たくもないが、顔は俺には確認できない。

 ダンが観察するために寄ってきたので、俺は炭の後ろに回る。



 炭の下半身部に目が行き、それが雌のものだと分かった。

 尻が大きく丸みを帯びているからだ。

 きっと魔物でも人間型のタイプなら一緒だろう。



「変態」


 俺の視線を見てアンドーさんが言った。


「違う!尻を見ていただけだ。こいつは雌だったのかと」


「変態そのものじゃない」


 ティナも言う。

 しまった、言葉が足りなかった。

 しかし、そもそも魔物に欲情する訳ないだろ。



「ダンが説明してくれていたから、無視するのも悪いなと思って見てただけだ」


「見る必要ないじゃない。しかも、そこって最悪すぎるわ」


 くそ、侘びを感じるほどの炭を作った張本人に言われたくなかった。千利休に謝れ。

 その間にアンドーさんが布を出して炭に掛ける。



 俺は気を取り直し、ティナに訊く。


「これで生きているって本当なのか?」


「本当よ。瞼も炭化して動かないでしょうが聴力は残しているわよ。だから、今の会話も聞こえてるはず」


 魔物でも人間の言葉が理解できるヤツはいるのだろうな。

 でも、今は『日本語』で喋ってないのか。

 あっ、カレンちゃんのために標準をこっちの言葉にしたんだった。そのままの設定だったかな。



「死ぬだろ、このままじゃ」


「んー、もって三時間かな。体温調整をどれだけ自分で出来るかだね。転送系は得意そうだから空気は自分の肺に送り込めるんじゃない。それくらいの魔力は残っているかな」


「うむ、これは刃向かった罰だ」


「目茶苦茶だな。やり過ぎとしか思えない」


 俺はダンに反論した。


「これは仕方ないのだ、ナベよ。敵意を向けられたならば、躊躇なく潰さないといけない。出来るだけ立ち上がれなくなるように、他者が恐怖で避けるように。さもないと、別の者からも舐められて被害が広がるのだ」


「全く納得できない。いっそのこと殺した方が良いんじゃないか」


「うむ、ナベがそういうなら今からこいつの首を落としても良いが。ティナが折角助けたのだ。許してやろうではないか」


「これで助けたつもりかよ。虫の羽根を千切って遊ぶくらい、残酷で気持ちの良くない事だぞ」


 と言っても、ここで殺してしまうのは可哀想過ぎる。

 俺はダンに加えて言う。


「こいつは助けてやれよ」


「無論だ。ティナに任せた時点で、そのつもりであった。竜からの依頼でもあっただろうが、この炭はそちらの部屋の者達を守ろうとした。死んでも良いとの覚悟していたのが分かる程にまで、全身の魔力を練っていた。その心意気は素晴らしい」


 ダンは奥の部屋を指差す。広い空間があるところか。


 しかし、部屋の者達を守る?

 魔物でも仲間意識とか自己犠牲みたいなものを、持っているのか。



「そいつがちゃんと明日からも生きていけるように治した上での話だぞ」


「分かってるわよ。女の子をあんな姿のままにしないわよ」


 ティナが言う。自分でやっておきながら、その配慮はなんだ。優しさアピールか?


「女の子って言うなよ。人間を意識して変に罪悪感を持ってしまうから止めてくれ」


「人間の女の子だよ」


 ずっと魔物しか出ていなかったから、勝手にゴブリンとか豚顔のオークみたいなものかと勘違いしてた。


 マジ、鬼畜の所業だ。聖なる竜の言う、魔族疑惑が濃厚から漆黒になったわ。

 ゴブリンであっても良いわけがないが、人間と聞くとゾッとした。

 なんだろう。同族意識が本能として存在するのか。

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