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火炎魔法

「じゃ、今から開けるからね」


 休憩を終えて、通路全面を塞ぐように付けられている大きい金属製の観音開きの扉をティナが両手で押そうとする。あんな重そうなものを押せるのだろうか。錆びも入っているぞ。


「ナベ、端に寄っておいてね。開くと同時に来るよ」


 そこまで言うなら何が来るか教えてくれよと思う。だいたい、突然言うなよ。休憩中に教えてくれ。心の準備が出来てないだろ。


 俺は素直に壁に背中を付ける。念のために扉からだいぶ離れたところでだ。

 加えて、ダンが俺の前に向かい合わせで立つ。

 背の高いダンが手を広げて壁に付けているので、俺の顔はダンの胸付近にある。

 何かから守ってくれるのだろうが、できれば、ティナとダンで役目を変えて欲しい。

 あっちの胸とごっつんこしたい。


 アンドーさんは俺より更に扉から遠い所で、普通に通路に立っている。



「行くよ」


 ティナがもう一度確認してから扉を開けるのをダンの脇越しに見た。



 と同時にティナが紅蓮の炎に包まれる!

 続いて轟音。


 炎は一気に勢いを増して、通路の左右上下に広がり進む。

 俺の方にもすぐさまやって来た。


 焼け死ぬ、と思う間もなく炎は俺とダンをも包み込む。

 アンドーさんがどうなっているかは炎からの眩しすぎる光で見えない。

 視野は全て赤色に染まっている。


 が、熱くない。

 俺に火の熱は届いていなかった。


 ダンの体の向こうで炎が暴れ続けているのが見える。

 俺はダンの顔を見上げる。



 ダンと目が合う。

 何回も思うが、俺が女だったら、若しくは、そういう性的趣向なら恋に落ちるかもしれない。


 が、生憎、俺はそうじゃない。



 ダンが軽く笑みを俺に向けたが、俺の意識はティナに向かう。


 相変わらず視野一面を炎が支配している。

 炎の勢いは一向に(とど)まる気配がない。



 たまに石が弾ける音がして驚く。

 熱で壁とかの石が砕けているのか。天井も一部焼け落ちる音が聞こえる。

 このままでは生き埋めになる可能性も有り得るのか。


 俺は見上げるが天井は炎で隠れて見えなかった。

 更には、ダンと目が合い、助けてもらっているはずなのに気色悪かった。すまんな。



 どれくらいの時間が経ったのか、時計がないために分からない。2分くらいなのか、5分くらいなのか。はたまた10分なのか。


 炎の舌の動きを見る余裕も出てきたくらいの所で、火が収まり始める。

 火勢とともに発せられていた光も弱くなり、扉付近に黒い物体が転がっているのが見えてきた。


 それがティナだと俺は確信していた。

 あれだけ身軽に魔物を倒していた彼女でも死ぬ時は一瞬かと、死の実感ではなく軽い感想がまず心にあった。

 神様は死なないって前に言ってたのにな。



 火が完全に無くなったところでティナに駆け寄ろうとした。

 しかし、ダンは太股を上げて俺の移動を阻止する。


「待て。まだ床が熱い。靴から火が移って死ぬぞ」


 ダンは俺を見ながら言う。

 こいつは壁の方を向いているから黒いアレが見えないのか。


「ティナが!!」


 俺はダンに叫ぶ。ダンは動かない。


 しばらく沈黙が続く。




「こっちの心配は?」


 扉とは反対方向からアンドーさんの声が聞こえる。


 すまん、忘れてた。

 でも、巨体のドラゴンを真っ二つにする人なんだから大丈夫だろ、と言い訳を思う。


 アンドーさんの周り1mくらいの床は炎の影響を受けていないようだ。他の場所は熱変色や割れが入っているので一目で分かる。

 何らかの方法、魔法だろうが、ダンも同じくそれで俺を保護してくれていたんだろう。


アンドーさんが短く続ける。


「あっちに行く」


俺達は扉の向こうに転移した。



 ティナが一人立っていた。

 手を後ろに組んで疲れた様子もない。


「ティナ、ナベが心配していたぞ」


 ダンが言う。恥ずかしいから()めろ。止めてください。


「聞こえたよ。ありがとうね、ナベ」


「ありがとうね、ナベ」


 アンドーさん、根に持っているのだろうか。ティナを真似して棒読みで言ってきた。


 余熱で室温が上がっているのもあるが、妙な汗が出る。



「無事で良かった。アンドーさんもジャージが無事で良かった」


「あぁん?」


 煽ってみた。

 アンドーさんも怒ってなさそうで良かった、きっと。


 お尻を蹴るくらいで許してくれた。

 結構痛いな、鋭く良い蹴りだった。

 アンドーさん、運動神経も悪くないんだもんな。

 怒らないよね、これくらいで?

 怒っていたら、いつかの盗賊さんみたいに背骨ボキッだもんね。

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