ユニコーンの素材
俺は脳天から真っ二つになっている白い馬たちの横を通り過ぎて前に進む。ダン、強いな。一刀両断かよ。
よく見たら、この馬、角有りだ。
ユニコーンだったのだろうか。
俺のイメージでは聖獣なのだが、この世界では違うことを祈っておこう。
ユニコーンであっても、その血溜まりは気持ち悪い。
飛び越えようとしたが失敗しで、べちゃんと飛沫が立った。止まれないので、そのまま前進。
後ろを振り向くと、俺の足跡が赤黒く残っている。
俺の服にも血が跳ねた。
汚ない。変な菌とか持ってないだろうな。
俺には狩りは無理だな。草を刈るのが性にあってるかもか。
それはそれで地味だから嫌だ。
そうだ!
「こいつの角って貴重なんじゃないか?」
「えっ、まぁ、そうかもね。薬とかの原料になるかな」
「切っていい?」
「ギルドに持っていくの?」
「そう。お金になるなら持って行ってもいいかなって」
神の加護の話を聞いて、逆に少しずつでも神様から独立していかないとなっていう思いが出てきたのだ。
「ナベ、そいつの肝臓を干すともっと良い薬」
アンドーさんが言ってきた。
「腹を切り裂くのは無理だよ」
こんな薄暗い所でスプラッタシーンなんかしてたら、お化けが出そうだろ。
「仕方ないわね」
ティナが血だまりに屈んで馬の腹を弄る。毛を掻き分けてるのか。
それから、ナイフを突っ込んで、ぶちぶち体内組織を切っていた。
「はい、肝臓」
ほっぺたに血を付けて笑顔で渡すな。猟奇しか感じません。
それから、肝臓でかすぎ。
「すまん、捨ててくれ。いや、そのユニコーンが無事天国に行けるように祈りもお願いするな」
素材を手にするには慣れが必要と分かったけど、解体が平気になるのなんか、ハードルが高過ぎるだろ。どれだけ感覚を麻痺させたらいいんだ。思わず、牛肉の業者さんを尊敬したぞ。
それに内臓を持って帰るには専用の容器がいるな。絶対、いつも使っている鞄には入れたくない。
ユニコーンの墓場を越えて、何回か曲がると扉が見えた。墓場っていうか、ダンの殺戮の跡だな。
立体地図ではまだゴールではないが、向こうに部屋がある。立派で大きい扉であるので、何か大切な部屋なのだろう。
その部屋の奥からは二つの通路が出ていて、一つは竜の方向へ向かう目的の通路で、もう一つは更に別の部屋に続いていた。
この行き止まりになっている奥の部屋は何だろう。竜のいる場所よりは狭いけど、このダンジョンの中では有数の広い空間だ。
俺は扉を開ける前に休憩を申し出た。
アンドーさんがムカデジュースを出してくれたので、受け取って、無言で床に捨ててやった。
そのままにしておくと今晩の食卓にも乗りそうだからな。
代わりのティナ製林檎を食べる。
最初からこっちを出しておけ。
俺は食べながら考える。
ここまで魔物たちに挟まれての襲撃が多かった。
あの二酸化炭素で充満した通路より前とは違う。
しかも、規則正しい隊形で攻めてきている感じがする。
「そうだよ。主にナベを殺しに来てるよ」
そのままティナに訊いたら、簡単にそう言われた。
俺、絶句。
「あの蟻もナベを狙ってたよね。弱いのを見付けるようにちゃんと学習させてるね」
「ナベを倒すしか勝ち目がないと気付いたんだろう。あのドラゴンの仕業だ」
「生きろ、ナベ」
なんで?アイツ、死なないだろ。
俺を殺さなくともいいじゃん。聖なる竜が無垢な俺を襲うなよ。
あと、アンドーさん、お前のコメントおかしいぞ。お前のせいで向こうを本気にさせたんだぞ。そこは「ごめん」だろ。




