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虫の話

 出発前に俺がトイレに行きたいと言うと、アンドーさんが嫌な顔をしながら指パチンした。

 すっと尿意と便意が消えた。本当に便利だな、転送魔法。

 魔法を覚えられるなら、絶対これを習得だわ。

 寝たきりになっても看護師さんに恥ずかしい姿を見せなくて良いし。



 ちなみに、転移は自分も移動する魔法で、転送は自分を含まない時を意味するそうだ。

 アンドーさん曰く、仕組みとしては大きな違いはないらしい。



 俺たちはまた進み出す。

 壁がぼんやり光っているので通路が先まで見えて、俺の歩みも幾分か良くなった。そのため、全体の進みも早い。

 俺がこのパーティーの律速だったからな。



「前から馬3、鳥2。後ろからサソリ10」


 アンドーさんが言う。

 大きかったり、手足が多かったり、何か通常の動物と違うものをアンドーさんは魔物と呼ぶみたい。

 馬車の馬に見せていた優しさは一切ない。

 甲斐甲斐しく世話する動物と容赦なく叩きのめす魔物との区別をどうしているのかは、聞いても謎だな。六本足の大人しい馬がいたら、どうするのだろうか。

 敵意があるかないかで判別してるのかな。


 アンドーさん曰く、自然でない部分に魔力が余計に宿っているのが、魔物の語源らしい。まだ遭遇した事がないが、当然、植物や物質のものもあるらしい。

 ガインじいさんの説明や定義とはまた違う。じいさんは魔法を使うのが魔物だとか言っていたような記憶がある。


 しかし、さっきまでは多くても4匹までだったのに、しかもほぼ前方での遭遇だったはず。15匹って多すぎない。



「後ろは私ね」


 ティナが黒フードを被ったまま、振り返る。

 手には黒くて禍禍しい意匠の入った小刀を持っている。サングラスは付けたままだ。

 それは却って見辛いのではなかろうか。


 通ってきた通路の奥から大きなサソリが何匹か床と天井を這ってくる。前方の鋏をカチカチさせたりして好戦的なヤツだな。

 天井を走っている方は完全に物理法則を無視だ。

 その不自然さに脳が追い付かず、俺は恐怖を感じる。



 ティナはサソリの鋏と針状の尾を踊るように避けながら、頭や胸部に小刀を刺していく。

 毒でも塗ってあるのか、一撃で動かなくなる。もしかしたら、俺が持つこのナイフと同じ効果で、相手の体内に魔力干渉させているのかもしれない。


 天井を這っていたものは高さ的に手が届きそうになかったが、ティナは横壁を蹴って軽々とジャンプし、次々と仕留めていく。よく漫画で見る三角跳びってヤツだ。

 浮遊魔法を使った方が楽だと思ったが、それだと絵にならないな。


 ティナに突き刺されたものは硬直し、その後に落下していく。

 蠍の足がじわっと内側へ縮こまるのが気持ち悪い。虫の死骸って、どうして足が綺麗に揃うのだろう。蠍は厳密には虫類じゃないけどさ。



 サングラスは余分だが闇魔導士みたいな格好をしている癖にティナは忍者みたいだ。巨乳くのいち、どこかで需要がありそうだな。少なくとも俺に。



「ナベ、ジャンプ」


 ずっと戦闘は傍観役だった俺は油断していた。

 アンドーさんの言葉にびっくりする。

 言われるがままに跳んだ。


 アンドーさんが指を鳴らす。俺のいた地面が少し削られる。


「アンドーさん、何だったんだ?」


「これ」


 アンドーさんが小瓶を取り出す。中に蟻がいた。

 サソリを始末し終えたティナも戻ってくる。


「あら、小さい奴だね。ナベが危ないわね」


 この小さい蟻に刺されると昏倒するらしい。昏倒した相手に卵を産み付けて巣とするのが目的だ。

 きつい虫がいるな。さすが異世界だ。



 ダンも戻ってきた。

 向こうに馬が真っ二つになって倒れているのが見える。


「このタイプの蟻は歩き回らないものが多いんだがな。体内に虫が湧くなど、考えたくもない。おぞましい」


 ダン、俺もだ。

 想像するだけで背筋が凍る。何とかして欲しい。


「蚊の大群とかも、羽根音だけでゾッとするよね」


「あぁ、でかめの虫の羽根音もビクッとするよな」


「カレンも蜂」


 そうだった。すまない、カレンちゃん。


 しかし、カレンちゃんの羽根もスズメバチみたいな音になるのだろうか。

 そもそも人間の体を浮かすには、かなり大きな羽根にするか、時間当りの羽ばたき回数を増やすしかないだろうし、魔力で翔ぶのだと信じたい。そうであれば、音がしなくて済むな。

 魔力で翔ぶなら羽根も要らない気もするが、そこはご愛敬か。



「虫対策は何か無いのか?」


「安心しろ。もう対策済みだ」


 さすが!もっと早くしろよ。ドラゴンに気でも遣ったか?


 ……いや、そういう事なのか。

 ダンのヤツ、竜が俺に手を出すまで我慢した可能性があるぞ。

 あと一歩だって言う時に、『はい、残念でした。知ってましたよ』とかされるのが、ゲームとかスポーツじゃ凄い悔しいからな。

 しかし、なんだ、そこは深くは聞かなくて良いか。俺が囮みたいにされた事をはっきりさせたくないしな。


 それよりも虫対策の件だ。



「何をしたんだ?」


「アンジェが作った部屋に全て移した」


「ここか?」


 俺は立体地図に先ほどアンドーさんが竜の部屋を埋めるために土を転送させて出来た部屋を指して訊ねる。


「うむ。今、その部屋はこのダンジョン中の全ての小虫が蠢いている。想像するだけで地獄絵図だ」


 絶対入りたくないな。トラップ部屋としては最悪の部類だ。


「襲ってくる虫以外のヤツも全て移したらいいじゃん。さっきのでっかいサソリとか、足が六本ある鳥とか」


「それだと可哀想でしょ」


「殺すのはもっと可哀相じゃん」


「向かってこないのや、途中で逃げるのは見逃してるわよ」


 んー、なんか釈然としない。

 ティナの主義なのか。俺が優しすぎるのか。


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