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神の加護

「そうか、切断しても復活したか」


 戻るなり報告した俺に対して、ダンは大笑いしていた。


「ドラゴンの水平断面なんて、そう見物できるものじゃないから良かったね」


 いや、見ていない。血の噴水くらいしか見えていない。

 あとは綺麗に落ちた頭の重量感ある音くらいしか覚えてないぞ。



「どうするんだよ、アレ。殺しても死なないぞ」


「心配しないで、ナベ。反省してくれたら殺さないから」


「じゃなくて死なないんだぞ」


「だから殺さないって言ってるでしょ。聞いてる?」


 ダメだ。話が通じない。

 あれは実際に見ないと実感できないか。


 魚なら二枚下しじゃなくて骨の真ん中に沿って腹部と背に分断した状態だぞ。まな板へ横に寝かせた魚なら、包丁を真上から入れて口から尾びれに切断する、チョー豪快な切り方だぞ。

 世界中の料理を探しても、そんな切り方しないだろ。

 そこから復活って生命力云々じゃないだろ。



「これでも喰ってろ」


 アンドーさんが林檎を投げる。

 あっ、ティナ特製の林檎か。有り難い。

 俺は指示通り林檎を噛じる。口の中が幸せだ。

 このまま黙っておけばいいんだな、アンドーさん。



「さて、アンジェのお陰でヤツも少しは焦っているだろう。これからは少しは手応えがありそうだな」


 焦る?そんな素振りはなかったぞ。


「ナベ、気を付けろ。狙われるのはお前」


 アンドーさん、あなた、言葉と違って笑顔なんですが。

 絶対、俺をいじめて楽しんでいるだろ。



「神の加護って何だ?さっき竜が復活する時にアンドーさんが言っていたけど」


 俺はティナに訊く。

 アンドーさんじゃ教えてくれないかもしれないし、あいつ、興奮しないと長く喋らないからな。


「文字通りよ。神様の力を分けて貰っているの」


「神の力?」


「そうだ。肉体的に傷つかないとか、魔力が尽きないとか、死んでも復活するとか、色々とあるがな」


 お前ら、俺に加護を与えろよ。

 アンドーさんが呟かなければ知らないままだっただろ。



「ナベも欲しいの?」


「もちろん、ティナさん」


 俺は満面の笑みで答える。


「んー、そうする?でも、デメリットもあったりするから、まだ要らないんじゃない?」


「ナベ、聞いてくれ」


 ダンが真剣な顔で言う。


「加護は簡単だ。しかし、余りに強大な力を持つと生きることに飽きてしまうのだ。お前は弱い。だからこそ、もっと人生を楽しめる」


「しかし、弱くて死んだら、元も子も無いぞ」


「そのスリルがいいんじゃない」


 死ぬことはないとか断言している奴が言うなよ。

 俺が死ぬかどうかのスリルを、お前が楽しんでいるって意味じゃないだろうな。



「俺も人間だった時期がある。苦しくて辛い時期もあった。しかし、最も充実していたかもしれない」


 ダンの言う通りなら、人間から神様になるのか。

 それとも、力がある人間、いや魔族かもしれないから、生物が神と名乗っているだけなのか。

 疑問は尽きないがそれは置いておこう。



 それよりも、500人も嫁を抱えている今が充実していないのなら、人間時代はどれだけのハーレムを築いていたんだよ。

 クソ羨ましい。



「ナベ、加護をやってもいい」


 アンドーさんが言う。


「ただ、我々の奴隷になるぞ」


「そうそう。加護に頼るから、どうしても今より力関係がずれるわよ」


「今もお前らに頼りっぱなしじゃん。変わらんだろ」


「違うぞ、ナベ。手に入れた強大な力の与奪権を握られるのだ。お勧めはしない」


「よくあるパターンで、奪われたくない気持ちから来る不信感で私たちと敵対することもあるわよ」


「敵対した瞬間に蒸発させる」


 蒸発って何ですか、アンドーさん。


 でも、ここまで反対されたのは初めてかも。

 そんなにダメなことなのか。

 諦めるよ。

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