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アンドーさんの力

最近は1000~2000文字の短めの話が多くなったとはいえ、ついに100話となりました。

お読み頂いている皆様、ありがとうございます。

 臭いで分かった。

 俺とアンドーさんは、あの暗い大部屋にいる。白いドラゴンの居場所だ。


 更にアンドーさんが指を鳴らす音がした。


 光が灯る。煌々と部屋全体を照らす。


 あれ、もしかして、今までは手を抜いてた?最初からこれくらい明るくしておいてよ。


 辺りが見渡せる。

 部屋と呼ぶのはおかしいくらい、広い空間だ。天井ははるか上、左右奥行きも距離感が掴めないほど。


 竜が存分に戦えるようにという構造なのか。



「見ろ。あれが証拠だ」


 白い竜がいらっしゃいました。

 竜は泰然とこちらを見ていた。

 横に茶色い小山が出来ているのが、アンドーさんが見せたかったものだな。


 いきなり大量の土が降ってきただろうに、なんと立派な、神々しい姿だ。さすが聖なる竜。


 生きていてくれて、本当に良かった。



「おい、トカゲ。次は殺す」


 アンドーさんは捨てゼリフを叩き付けて、例の魔法で俺を連れてダンの所に戻った。



「どうだったか?」


 ダンが俺に問う。


「アンドーさんは実行していた。間違いない」


「では、ドラゴンはどうするだろうか?」


「何故あの状況で平然とできるのか分からない。切り札があるのだろうが俺には見えない。それともドラゴンというのは悪足掻きをしないものなのか?」


「切り札かぁ。早く使って欲しいな」


 満面の笑みで言うな、ティナ。

 ワクワクするな。

 あと、動く度に首飾りのドクロ同士が当たってカチカチ鳴るのが無駄に恐怖感を俺に与えるから外せ。


「試す」


 アンドーさんが短く言う。

 指を鳴らすと立体図に部屋がもう1つできた。

 おい、まさかドラゴンの部屋を完全に埋めるつもりか!?


 しかし、ドラゴンの部屋というか空間には立体図上は変化がなさそうだ。



「行くぞ、ナベ」


 俺はまた白い竜の前に立っている。

 先程来たときにはあった小山がなくなっている。


「なかなか」


 アンドーさんがドラゴンに話し掛ける。


「神の加護」


 アンドーさんが謎の用語を追加するが、竜は動かず黙っている。頭も床に付けて伏せたままだ。

 眠っているのか、余裕を見せつけているのか。



「土を食べた。自分の力とした」


 アンドーさんが喋るが、竜は静かだ。

 食べるというか吸収みたいな意味だろうな。いくら大きくてもあんな量の土は一気に食えないだろ。


「アンドーさん、あのドラゴン、強そうだぞ。勝てないぞ」


「あぁん?」


 とてつもなく嫌らしい顔でアンドーさんが俺を見る。

 その表情は完全に悪魔だよ。

 もっと言うと、そんな顔とセリフでは1話目から主人公にやられ続ける三下の引き立て役だよ。


 アンドーさんが指を鳴らす。

 俺は竜から目を離していなかった。というより、存在感ありすぎて目をやる場所がそこしかなかった。



 えっ!

 ドラゴンの下半分が消えた。体の中心線から下が突然なくなったの!


 残った上側が宙に浮かんだように見えたけど、やっぱり重力に逆らえず、そのまま床に落ちた。

 首を寝かせている姿勢だったから、頭の大半も無くなっているよ。

 小さな角とその付根だけが転がっていた。途中から無くなった首と尻尾から血が溢れてる。

 床に接したところからも血が滲み広がるのが見えた。



 気付くと背後でも液体が溢れる音がする。

 振り返ると消えたドラゴンの下半分がありました。


 そっちからは、上部の切断面から血を出して、床を叩いていた。

 一部の大血管からは勢いよく赤い液体を噴き出して噴水みたいとか、呑気に思ってしまう。血飛沫が床を濡らしていく。

 しばらくしたら血はドラゴンの肌を流れ落ちるだけとなり、切断された頭がゴトリと床に倒れる。

 丁寧に今、首を切り落としましたよね、アンドーさん?

 締めの一発だよね。



 マジか、アンドーさん。

 ほぼ一撃でドラゴン倒しちゃったよ。

 聖なる竜が永遠の眠りに付いてるよ。

 ガインじいさんの憧れが今逝きました。



 俺は立ちすくみながらも、辛うじて声を出す。


「……アンドーさん……やりすぎ?」


「明日からステーキ三昧」


 食べれるかっ!!それ、聖竜さんだぞ!


 温厚な巫女長でもご立腹だぞ!!

 竜の尾の一閃とかをゴリゴリ連発されるぞ!


「冗談。躾だ、ナベ。ヤツは生きている」


 また無茶を言うと思ったものの、黙ってみているとドラゴンの死体が光に包まれ消えた。

 そして、元の場所に体が繋がった状態で出現した。


『無駄だ、魔族よ。滅ぶが良い』


 良かったと思う間もなく、竜が首を上げ、口を大きく開ける。白い牙の奥に光が集まっているのが見えた。


 アンドーさんが指を鳴らして、俺は紫光の箱の中に戻った。

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