第二の人生でも腐れ縁
思い切り突っ込んでから二人のいる場所まで下りて行き、まぁ、落ち着けよとのことで三人で輪になって、かねて持参のクッキーなどを摘まみながら話をしていった。
三人共こんな時間に学校の外れ(ここ)にいるのは、それぞれがそれぞれの授業で〝特別措置〟を取られているからだった。
オレは魔法、ディートハルトは紋章学(その道の研究者からも助言を求められる程の知識量だとか)、エレオノーラは礼法(家族が「これだけは!!」と必死になって叩き込ませたそうで、今やマナー教室も開ける達人っぷり)の授業を受けないから出来た空き時間だ。
この場にいる理由を明らかにした所で、改めて自己紹介をする。
すると、思った通り、ディートハルトは佑也、エレオノーラ嬢は爽介だった。
…ディートハルトはともかくエレオノーラって…。神様本当に爽介を許していなかったんだな…
恐らく転生先を選んだのは神様だろうから、この廻り合わせには悪意しか感じられない。
その根拠は二つある。
まず、性別が変わって(女になって)いる事。
いくら生まれ変わったにしても、前世の記憶があるまま女として生きるってのは中々酷だ。
オレも生まれ変わらせてくれるって時に、神様に出した条件で〝男なのは譲れない〟って言ったからな。
そして、エレオノーラは比較的良心的なプレイヤーからは〝救いの無い悪役令嬢〟と呼ばれ、涙を誘っていた存在だった事だ。
確かにエレオノーラは、性格は驕慢、腹黒、人を人と思わない、と「育てられ方どっかで間違ってない?」と首をひねりそうになる程酷い性格だったが、そういう意味での〝救いの無い〟じゃない。
エレオノーラには〝侯爵令息ルート〟のどのENDでも残酷な結末しか用意されていない。
原作の設定ではエレオノーラとディートハルトは幼馴染みで、お互い悪どい思考の持ち主な為に昔から息が合い、常に一緒におり、悪だくみも一緒にしていた。
しかし、ヒロインに悪事を見つかり滔々と、根気強く言い聞かせられ続けたディートハルトは自分の罪深さ、醜悪さに気がつく。
…そしてHAPPY ENDではディートハルトの悪事を知っていて止めず、むしろけしかけたとしてエレオノーラが罰を受け、裁判に送られる。
裁判とは名ばかりで、即刻処刑だ。
罪状は〝魔女である〟との事。
ディートハルトが悪逆の限りを尽くしたのは傍らにいたエレオノーラが狂わせ、操ったからだ、そういう理屈らしい。
……TRUE ENDではヒロインに更生されたディートハルトに捨てられ、そのせいで自分の父親からも見放され、縁を切られる。
父親同士が親友だったことから、二人は幼い時からの許嫁だった。
それなのにディートハルトとエレオノーラの縁が最悪の形で切れた事で父親同士の友情にもヒビが入り、共同経営していた事業も上手くいかなくなったから、その責任を取らされてだ。
最終的には国外追放になるが、旅の途中で山賊に襲われて殺される。それも惨たらしい殺され方で。
…………BAD ENDでは正義の心(笑)に目覚めたディートハルトが直々にエレオノーラを成敗(攻撃魔法で細切れに)し、それを知ったヒロインの勧めで自首し、最終的には自分の屋敷の地下牢で生涯幽閉の身に。
…と、どのルートでもエレオノーラは全ての罪を被せられて殺される。
そのどれもがあんまりな理由からだ。
妹(前世)はR-18どころかR-15でプレイしていたからこの程度だが、R-18では本当に酷かったそうだ。
そこで初めはエレオノーラ憎しになり、むしろ進んで彼女に破滅の道を歩ませていたプレイヤーも「はっ!?」と我に返り、「す、救いは無いのですか…」と必死になってコントローラーを操作するようになるという。
〝エレオノーラを幸せにしようぜ〟スレや〝ちょっと本気出してエレナ(原作でのエレオノーラの愛称)の幸せ考えてみた〟スレや〝エレナの幸せはここにあった…らいいな…〟スレは原作のキャラについての考察スレでは一番の盛り上がりだったとか。
そんな「とことん救いが無い」、と全プレイヤーに言わしめたエレオノーラに今現在爽介が転生している。
…今度こそしっかり死ねと?かつ報いを受けろと?
そう神様による配役に頭を抱えながらも、二人の話を聞いていく。
聞くと二人は父親同士が仲が良い関係で、物心つく前から引き合わされていたそうだ。
で、ディートハルト(佑也)がエレオノーラ(爽介)に気づいたと。
「しっかしお前らは転生しても幼馴染みなんだな」
前世でも佑也と爽介は幼馴染みだった。
オレと二人の付き合いは小学校からだ。
小学校からの付き合いのオレらは〝女っ気ナシーズ〟って呼ばれてた。
…オレには相手がいたよ。……許嫁だけど……。
その許嫁というのは、オレが小三の時に生霊を祓ってやった女の子だったりする。
その事でウチに来て家族一同でお礼を言われ、あれよあれよという間に許嫁とされていた。
あっちは次女だから長男のオレと一緒になっても大丈夫、という理屈だったが、それはどうかな、と思った。
何しろあちらの家は縁結びの神様を祀っていて、恋愛成就で有名な神社だ。
ご利益があるとのことで繁盛していたが、その祀っている神様がその子の守護神をしていた。
『…結婚したらついて来るんじゃないかな…』、そう思っていた。
結局は相手が死んだから取り越し苦労だったわけだが。
『 』といったその許嫁はとても可愛くて、オレにはもったいない位の女の子だった。
どうか幸せになってもらいたいもんだ。
オレは二人にこの世界が乙女ゲーの世界だと言った。そしてディーが攻略対象者だとも。
するとすかさずエレン(中身が爽介と知って〝エレオノーラ嬢〟と呼ぶ気を失くした)が自分を指差し聞いてきた。
「じゃあ、オレヒロイン?」
「なわけあるか」
お前みたいな性格の奴がヒロインだったらディスク叩き割るわ。
爽介は〝爽介〟って名前の癖に爽やかじゃない。
いや、さっぱりしているし、気のいい奴だから付き合いやすい奴ではあるんだ。
ただ、エロ方面に突っ走る奴だったからな…。
今世での(この)エレンは原作のエレオノーラとはまた違った意味で女子や周囲からの顰蹙を買いそうだ。
同級生女子逃げろ!!こいつはストライクゾーン広いぞ!!
今からでもそう忠告して回りたいくらいだ。
「ヒロインはオレ等の後輩だ」
オレ達が高等部に上がった二年後に入学してくるセレスティーナ・ベルネット嬢がヒロインだ。
そう告げると二人は「ほうほう」と頷き、ディーは口元で薄っすら笑みを作り、エレンはニタリと歯を見せてほくそ笑む。
…あ。何か企んでる顔だ。
お前ら今世でも一緒になって悪だくみ(他愛も無い悪戯)やってたろ?
「なら、攻略しないとなぁ?」
「そうそう。ヒロインってんならさぞかし可愛子ちゃんなんだろうから」
「何はともあれ十年は待て」
原作が始まるのは十一年後だっての。
本当にお前ら変わらないな。
壮絶な別れからの感動の再会だってのに、さして感傷的にもならなかったよ。




