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第二の人生では好きになれそうです



 夏休みも中盤に入ったある日。

 オレはダニエラにより入念に身支度をされていた。


 いつもは自分で着替えるんだが、そうもいかない。


 今日はカールの実家、バッハシュタイン公爵家に遊びに行く日だ。


 招かれた身であることと、相手が格上なので失礼のないよう、正装に近い訪問着を着付けられている。


 ただ、この暑い盛りで、どうせ屋敷の中では上着を脱ぐと考えて、中に着込む半袖のシャツとベストもいつもと違った手の込んだ物となっている。

 シャツの袖口や襟には金の刺繍がされ、ベストも上着の代わりになるようなデザインの物だ。


 着付けが終わると、オレをドレッサーの前に座らせ、髪を梳かしていく。



 三歳の時に神様とあまり会えなくなってから、オレは髪を伸ばし始めた。


 髪には霊力が宿る。

 だから長く伸ばしていた方が、そうした物を感じ取りやすいという。

 それなら髪を伸ばしていた方が神様がオレに会いに来やすいだろう、そう思ったからだ。


 とはいえ、男の子なのと、何だかんだで長いと鬱陶しいので、髪を下ろしても肩に少し垂れる程度だ。



 丁寧に梳き終えると、今度はオレの髪を括る髪紐を選ぶ。


 お。今日は赤か。無難な思考のくせに攻めるね。






 寄越された迎えの馬車で、ダニエラ共々屋敷に送ってもらった。


 出迎えにはなんとカールの父親の公爵様もいた。


 壮年の品のいい男性で、子供(オレ)に向ける笑みは柔らかく、大人の幼い者への無意識の嘲りや侮りの色はない。



 カールも父親もバッハシュタインの血筋を示す群青色の髪に水色の瞳だ。


 以前のカールの瞳の色は、魔力を放出出来ず、長年酷い仕打ちを受けて来ていたせいで、鬱々とした心情を映した黒に近い濁り淀んだ青だった。


 だが、魔力を放出し、精度の高い魔法を使えるようになると自信を取り戻し、それに伴って瞳の色も次第に澄んでいき、水色になった。



 後は子供だけで、ということで公爵と別れ、オレはカールに手を引かれてその場を後にした。






 連れて行かれた部屋の中にその少年はいた。


 前世で見覚えのある特徴的な容姿に、目を見開いた。


「お兄様。紹介するよ。僕の従弟のヴォルフガング」


 そう言って引き合わされた相手は、カールと同じく澄み渡った秋空のような、綺麗な水色の瞳を持った薄紫色の髪の少年。


 カールの従弟は一人だけだ。


 〝第二王子〟、ヴォルフガング・ハインリヒ・アーデルベルト・リヒター。


 こうしてただの〝従弟〟と紹介するってことはお忍びなんだろう。

 だったらそれに合わせよう。



 ヴォルフガングは原作では三歳の時からのアレクシスの遊び仲間で幼馴染み。


 四年越しになる初対面だ。



「ヴォルフガング・ハインリヒ・バッハウェルだ。ヴォルフと呼んでくれ」

「ヴォルフは祖父の名でな。そう呼ぶと妙な感じがする。ハインツ(ハインリヒの愛称)でいいか?」

「構わないよ。呼びやすいように呼んでくれ」



 愛称だと祖父と同じ名になるから呼びにくい、と言ったが、本当の所はそう呼ばないのは違う理由からだ。


 原作ではアレクシスはヴォルフガングのことを〝ヴォルフ〟、時には親愛とからかいを籠めて〝ヴォルフガンゲル(ヴォルフガング坊や)〟と呼んでいた。


 なるべく原作の設定から離れよう、そう思っての事だ。



 原作(ほんらい)なら、ヴォルフガングの地位は〝王太子〟。


 三歳の時にヴォルフガングの兄で、当時の王太子が凶刃に倒れてから与えられた地位だ。


 しかし、今世では偶然その場に居合わせたオレが王太子を救い、今も生き延びている。

 だから今もヴォルフガングは〝第二王子〟のままだ。


 折角原作の流れから外れたってのに、ここでオレが原作に沿った呼び方をしたりしたら、また原作の流れに引き戻されかねない。



 原作では兄の死を受けて自分が〝王太子〟になった事で、暗殺への恐怖と兄への罪悪感に押し潰された気弱な少年だった。


 だが、〝第二王子〟のままの今のヴォルフガングは明るく快活だ。

 だったら無理に原作に戻すことは無い。


 前世ではオレ達兄妹がゲームの中で一番嫌いなキャラだったが、今のヴォルフガングは好きになれそうだ。




 紹介し合うオレ達の後ろで行われている従者同士の挨拶合戦。

 そこには一人新顔もいた。


 新顔はザ・乳母って感じのふくよかな中年女性。


 その通りでヴォルフガングの乳母だ。


 今世(このせかい)では貴族であっても、魔力を使う下地の発育を促す、という名目で実母が乳をやる。

 しかし、ヴォルフガングの母は産後の肥立ちが悪かったので、乳母が付いた。


 だが、マーサ(仮)のように王太子(ヴォルフガング)ルートでのライバルキャラになっている、ということは無い。

 王太子ルートでのライバルキャラは乳母の娘、つまりヴォルフガングの乳兄弟だ。


 …この様子だと、王太子ルートの隠しキャラはカールになるんじゃないか?


 原作ではさして仲がいいとは言われていないカールとヴォルフガングが、オレの前でにこやかに語り合っている。


 確かヴォルフガングの母親は息子を産んで一年もしない内に儚くなっているから、母親の生家が後見人になったんだろう。

 それで自然、交流を深めていたのかもしれない。



 残念だったな妹(前世)。

 お前の推すアレクシス×ヴォルフガングはオレがどうこうするまでもなく存在しえないようだぞ?




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