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第二の人生を改めて考えます



 ニーナからの頼みを終えて学校に復帰すると、卒業シーズンどころか夏休みにも入っていなかった。


 そこで出立の前に会長に押しつけられた鍵を返しに行ったが、もうオレの物だからと断られた。


 いくら「いらん」、と言っても、「一度渡した物を返されてたまるか」と押し問答になり、最後には魔法を使っての小競り合いになり、と、どうあっても返却されたくないようだ。


 本当は呪いのアイテムなんじゃないかって位の拒否っぷりだった。


 それにしたって、「卒業時には」、と言っていた引き継ぎを夏にも入っていない内に終わらせるって…。


 何となく収まりが悪いので、もう(これ)は卒業した先輩の置き土産じゃなくて、夏休みになって部活を辞める先輩からの引き継ぎということにしよう。


 それならまだ少しは納得が……いかないなぁ…。




 それから半月も経たない内に夏季休暇に入った。


 そこでオレはダニエラ達と一緒にグーテンベルクの屋敷に戻った。



 屋敷に戻ると、出迎えたのは親父と母上様とクリス(今世の妹)。


 親父達は兄貴を迎え入れ、オレの元へやって来たのはヨチヨチ歩きのクリス(三歳児)だけだ。


 今までなら両親の兄貴一人に向かう愛情を目の当たりにしても何とも思わず、さっさと部屋に引き返していた。


 しかし、オレはクリスを抱き上げると、両親に声をかける。


「ただ今帰りました。父上、母上」


 オレが両親に挨拶をした事にアレクがひどく驚いた顔をしていた。



 まぁ、今まではどうせ返されることも無いから、そうなると面倒なだけなんでやったことは無かった。


 昔々の子供時代は根気強くやっていたが、あまりに平然と無視され続けたので、途中から嫌気がさした。


 だが、オレはこの前の一件で少しばかり家族との関係で思う事があったから、もう少しこちらから歩み寄ることにした。



 それでやっと、母上様はそういえば、というようにオレにも笑いかけて「お帰りなさい」と言ったが、親父はオレに見向きもしない。


 今日の所はここまでか?と思ったが、親父の態度に腕の中のクリスが不服そうに唇を尖らせた。


「とーしゃま。にーしゃまがいったの!」



 オレが学校に行く前は〝男子〟優先で妹にはさして関心を払っていなかった親父だが、この数ヶ月でやはり絆されてか、娘に弱くなったようだ。



 そこでオレに顔を向けると、重い口を開いた。


「帰ったか。アレク」

「はい。帰りました」



 …初日にしては首尾は上々だろう。




 部屋に戻ると懐かしの自室だ。

 今日明日くらいはゆっくりしたい。


 というのも、夏休みには予定が中々に詰まっている。


 祖父さんの屋敷に遊び(という名の修練)に行き、カールの屋敷にお呼ばれされ、もちろんグスタフ爺の所に茶を飲みに行き。


「…あ、そうだ…」


 失念していた事があり、慌ててケータイ(携帯式伝達魔石)を取り出して連絡する。

 かける相手は叔父貴だ。

 ニーナに会いにハーロルト王国に連れて行ってもらえるよう、頼むのをすっかり忘れていた。



 ニーナへはアドルファスへのお断りの伝言をちゃんとしてきたと、帰ったその日に(頭の中で)連絡したんだが、それとは別に一度顔を見せに来いと言われていた。



 幸い叔父貴は近くにいたんで、近日中に連れて行ってくれると確約してくれた。


 叔父貴との通話を終え、ケータイを手にふと思う。


 …オレの持ってる連絡先が大人に偏っている件…


 唯一の身内以外の同年代のカールは友達というか、弟分、下手すると舎弟だしなぁ。




 あれからいじめもからかいもなく、カールは自分の将来の人脈形成の為の交流の輪を広げているようだ。


 その姿は公爵令息にふさわしい気品と自信に溢れ、誰かの取り巻きになるどころか、周囲に一目置かれ、尊敬される立場にまでなっているそうだ。


 そうだ、というのはあれから表立っては関わっていないからだ。

 もっぱらダニエラとバッベルの従者同士のコミュニュティーで互いの情報をやり取りしている。


 これはカールが薄情ってわけじゃなくて、オレがそうさせた事だ。


 何かと目立ち、好き勝手するオレの関係者と知れたら、カールにまでそのとばっちりが向かう。


 だから現時点でオレに友達はゼロだ。


「…二学期からは作りたいなぁ…」


 心の奥底では『もう手遅れだろ』と思っているが、それには耳を塞ぐ。

 現実逃避ついでに、屋敷での変事にも思いをはせる。


 …しかし、帰ってから思うんだが、マーサ(仮)とダニエラの立場が逆転しているように見える。


 元々ダニエラの方が優秀で、人間としても格上なのは紛れも無い事実なんだが、…何と言うか…大人しくなった、というよりも、畏縮しているように見える。


 学校にいた時からもう既にその予兆が見受けられていた。


 気になって、ある日ダニエラに聞いてみてもはぐらかされたんだが、オレがいない間に一体何があった。



 …けど、これで大人しく引き下がらないのがマーサ(仮)なんだよな…



 というのも、根拠がある。



 学校に入学して以来、ダニエラの目の無い夜にこっそりと、原作知識をコツコツ日本語で書き出していって思い出したが、原作ではマーサ(仮)も登場していた。


 …兄貴ルートでのライバルキャラとして。


 本名は知らないが、設定は〝元・お付きのメイド〟だったし、容姿も似ているから多分間違いないだろう。


 確かマーサ(仮)は今十六か十七だから、原作が始まる時はアラサーだろ。

 ガッツあるな。マーサ(仮)。




 そう他人事のような感想を抱きつつ、机にダラリと寝そべって、先日完成した書き記した一覧表をぼんやりと眺める。



 ゲームの攻略対象者は全部で十二人。


 攻略対象者は王太子と公・侯・伯・子・男爵令息が一人ずつ。

 そして攻略対象者それぞれに隠しキャラとライバルキャラが一人ずつ。



 オレは妹(前世)から内容を聞いただけで、実際に乙女ゲームをプレイしたことは無いんだが、キャラ多すぎないか?

 何でわざわざ全ルートで隠しキャラを取り揃えたよ。


 おかげで妹(腐女子)が、無限のCPが生まれると嬉しい悲鳴を挙げ、そのテンションのまま(オレ)に語っていたぞ。



 妹のお気に入りCPはアレクシス(王太子ルートの隠しキャラ)×ヴォルフガング(王太子)にアレクシス×アルフレート(伯爵令息)にアレクシス×………と、とにかく『アレク攻万能説』の持ち主だった。


 オレがアレクシスに転生したのって、妹の野望よくぼうのせいじゃないだろうな。


 やらないからな?

 めくるめく薔薇の世界に身を投じたり、ましてや他の登場人物をその世界に引き込んだりとか。




 そして、現時点でオレが会ったことのある攻略対象者は三人。


 〝公爵令息〟カールハインツ・ユルゲン・バッハシュタイン。

 〝侯爵令息〟ディートハルト・ハインツ・アーベル。

 〝伯爵令息〟アルフレート・ライナルト・グーテンベルク。


 あと、〝隠しキャラ〟のオレも入れたら四人か。


 カールはオレの弟分、アルフレートはオレの兄で直接の接点があるが、ディートハルトは入学初日に見かけてそれきりだ。



 …二学期に入ったらディートハルトとも接点を持つべきなのかな…



 あまりの暇さ加減にそんな益体も無い事を考えながら、オレの夏休み初日は過ぎていく。




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