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第二の人生を改めて生き直します



「…で。お前は一体何だったんだ?」


 地面で手足を投げ出して寝転がるオレに、手頃な石に腰かけたアドルファスが問いかける。

 そうするアドルファスは、くしゃりと一つにまとめた軍服の上着を担ぐように肩に掛けている。これで煙草でも咥えていたら様になっていただろう。


 お互いボロボロだってのに、服だけは新品同様っていうのが妙におかしい。

 身体に治癒魔法をかけて治した様に、服にも修復魔法をかけ続けていたから、ぼろ切れになることは無かった。



 そういや、今に至るまでまともに自己紹介もしていなかったな。


 今更ながら端的に自分の立ち位置を告げる。


「オレはただのお使いだよ」

「…使い?」

「そ。女神様のお使い」


 オレの言葉で意味がわかったのか、アドルファスは拗ねたようにそっぽを向く。


 途中から私情が入ったけど、元々の目的はこれだ。


 ニーナに加護を強要するアドルファスに「断る」とニーナからの返事を突き付ける。


 元々はそれだけのはずだった。


 改めて自分の役目を果たそうとニーナからの伝言を伝えようとしたが、手を突き出して止められた。

 その代わりとばかりに視線を外したまま問いかけてくる。


「…お前は女神の加護を得ているのか?」

「いや。寵愛」

 あっさり言うと、こっちに顔を向けてきたアドルファスは目を見開く。



 そらそうだ。加護持ちでも珍しいのに、寵愛とかもう、自分の生きる同じ世紀に存在するかどうか怪しい。


 しかし、リヒター王国(ウチ)の王族付き魔術師の一族の秘蔵っ子で、どっかだかの神様の寵愛を持った娘がいた気が…。


 一人でも脅威となる寵愛持ちが二人て…。これから数代のウチの王様は安泰だね。


 ま、オレは隙を見て諸国放浪の旅に繰り出すつもりだけど。



 とはいえ、今回似たような境遇のこいつとやり合って、そして前世の自分の今わの際の願いを思い出して、少し考え直した。


 今までは何だかんだ言っても前世での両親との記憶もあるし、今世の両親との不仲や反りの合わなさはさして気にせず、何もしてこなかった。


 いくら血が繋がっていようと、実の親子だろうと、好きになれない相手も気の合わない相手もいるだろう。


 だったら適当に折り合いを付けよう。そうすれば決定的に絶縁するまでにはならないだろう。


 そう思っていた。


 でも、それはただの諦めであり、逃げだ。


 だから、これからはオレももう少し性根を据えて生きることにするよ。




 そう、これからの家族との新しい関係を模索していると、家族の話題が振られた。


「……なぁ。お前、家族は?」

 質問されたからには寝そべったままにもいかないだろう、と起き上がって体育座りをする。

「いるよ。両親に、兄貴と妹」

「…仲はいいのか?」

「兄貴とはそれなり、妹は可愛い。…両親はな…」


 口を濁したオレの口振りに何か感じ取ったのか、アドルファスはオレの頭をポンポンと叩く。


「…オレんとこ来るか?」

 オレを慮っての言葉に照れ臭くなり、そっぽを向いてポツリと呟いた。

「…オレよりまず自分の兄貴呼び戻せよ…」



 アドルファスの兄貴は頭が良かったが生来病弱で、今も家族と亡命している先で療養生活を送っているはずだ。


 だったら尚更苦労しているだろう、と思って口を衝いて出てしまった。

 しかし、苦渋に満ちたアドルファスの顔を見て、軽く口に出したことを後悔した。


「…いや。そうもいかない。ヴィンスがいると、国が乱れる元になる」


 〝ヴィンス〟というのは、アドルファスの兄、アルヴィンの愛称だ。

 ちなみにアドルファスは兄から〝ファシー〟と呼ばれていたそうだ。



 今更ながらアドルファスを取り囲む環境を考えると、オレの言ったことはとんでもないことだった。



 アルヴィンはアドルファスに負けず劣らず有能だが、アドルファスより御しやすい。

 いざとなれば、〝病気療養〟っていう名目で押し込めて自分達で好き勝手出来る。


 これほど使い勝手のいい王様(こま)はない。


 そんな二人が揃うと、二人の本心はともかく、貴族達がそれぞれの思惑から二人を担ぎ上げて国を二分する事になる。


 だから、アルヴィンを呼び戻すわけにいかない。



 ここでダニエラの調べ上げた調書の一部を思い出す。



 二人は本当に仲の良い兄弟だったそうだ。


 アルヴィンは弟を思い、家族の中でただ一人味方であり続けた。

 しかし、弟を守り抜く強さが無かった。


 だからこそ、アドルファスはふざけた事をした祖父さんを、父親を、だけでなく、兄貴まで国から追い出した。


 兄貴が国に残った所で利用され、悲惨な人生を送るのがわかっていたから。

 そして、先帝の祖父さんの長年の失政でグラつきかけたアッカルド帝国を盤石なものとする為に。



 …たとえ思い付きでも、慰めでも、口にする事じゃなかった。


 そうした自責の念から、膝を抱え込んだ。


「…悪い。余計な事を言った」


「いいのさ。もう二年も前の事だ」


 本当に割り切っているのか、オレにはわからなかった。


 そして、どこまで踏み込んでいいのかもわからなかった。


 動いたのはアドルファスの方からだった。


「…なぁ、名前を教えてくれないか?」

「オレはアレクシス。アレクでいい」

「オレはアドルファスでいい」

「そうか。ま、どうせ元々そう呼んでいたんだが」


 オレの言葉に苦笑してから、さて、と立ち上がる。

「ああ、そうだ。連絡先交換しようぜ」

「いいぜ」


 魔力の事といい、お互いの家庭環境といい、それなりに気が合いそうだ。

 何より、他国の知人は欲しかった所だ。


 …その記念すべき一人目が皇帝ってのもな…


 そう思いながらベストのポケットからケータイ(携帯式伝達魔石)を取り出すと、呆れ切った顔を向けられた。

「…オイオイ…。んな、足のつく連絡手段を取れるか」


 まぁ、それはそうだろう。

 お互い通じ合うものがあると思ったからこうして(よしみ)を結ぼうとしているが、身分を伏せての付き合いにしないと色々と面倒なことになる。


 それなのに大っぴらに連絡を取り合っていたらオレ達の関係が知られる。


 お互い強力な魔力持ちで、それなりの地位にいる身だ。

 そう易々と友好関係を明らかに出来ない。



「じゃあ、何を交換すんだよ」

「魔力の波長。どうせテレパシーもできんだろ?」

「ああ。そういうことね」


 神様、ニーナに続いて頭の中で会話する相手が増えた。


 …文字にすると、寂しい子か電波な子って思われそうだな…





 今回の旅で得られたのは三つ。


 前世の死因の詳細。


 神様の有難さの実感。


 そして初めての国外の友達。



 それだけを手土産にオレは空に飛び立つ。


 今から全力で戻れば夜までには着くだろう。



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