第二の人生では装備は万端に
アレクへの祖父からの贈り物の件ですが、不謹慎に思われる方がいらっしゃるかもしれないので、書き換えました。
ニーナに頼まれてからオレは着々とアッカルド帝国の王様を相手取る準備に取り掛かった。
無謀なものを相手にするとか、前世でのオレの死因を思い出して気が滅入りそうになる。
だから今度こそ装備は万端にしたい。
…そう思ってたけどさ、これはやり過ぎだ。
ダニエラの用意した旅支度を前に、両腰に手をやって呆れた顔になる。
……ダニエラは以前の自分不在のオレの旅行(三歳の時のハーロルト王国への旅行だ)の時と同じく、久々に発揮した意外な心配症により、とんでもない重装備を揃えた。
もちろんアッカルド帝国やその道中の事を調べ、オレに色々と注意を促すのも忘れない。
…どう考えても国家機密レベルの情報まで含まれてたけど。
何?この四年間で更に情報収集能力が上がったの?
そりゃ今回ばかりは非常用の食糧とか、野営道具は役に立つだろうさ。
…けどさ…何で銃火器まで完備してんのかな?
しかもこれ、バッベル、というか、カールの実家・バッハシュタイン公爵家からの物だ。
ねぇ、バッベル。一体カールの父親にオレについて何を話したの?
一体どうしたらここまで手厚い援助を、公爵様が一介の伯爵家次男にしてくれるようになるの?
色々と大袈裟で過剰な周囲の手助けに、有難さと頭の痛さで一杯だよ。
これはどこかで歯止めをかけないと駄目だと思い直し、ダニエラにお願いをする。
「…ダニエラ。パイロットの使うゴーグルと、厚手のマント用意してくれないか?」
そう。オレは雲の中を飛んでアッカルドの王様の所に行くつもりだ。
高度数百メートルの雲だったら地表よりも数度低い程度だが、対流圏上部にできる雲で、高度10kmの雲だったら-50度以下になるとか。
そこで目が凍りつかないようゴーグルで遮断し、寒くないようにマントを羽織る事にしていた。
だから雲を構成する氷の結晶にぶつかっても平気なよう、頑丈な逸品を頼む。
どうせオレが魔法で強化するけど。
…あと、武器の類は護身用にナイフとかでいいかな。銃とか、前世でも今世でも握った事すらないから。
ちなみに何で中世(もしかして近世かなって思い始めた)の世界なのにパイロットがいるのかって話だが、…場所によっては第一次世界大戦頃の技術を発達させた国もあるんだよね。
そうした国では飛行機に乗って空を飛ぶ。
もっとも、魔法大国のリヒター王国でも身一つで空を飛べる奴はそうそういないが。
つくづく今世の世界観が掴めない。
ただ、何となくの区別はついている。
魔法とかのファンタジーな世界観が確立している所は近世で、そうした世界観が無い所は近代化が進んでいる。
オレが対峙しようとしている王様の治めるアッカルド帝国は、〝魔法と近代的技術が同居している国〟だ。
だからもしかしたら銃弾飛び交う戦場を掻い潜る必要もあるんだろうな。
バッハシュタインからの支援からわかる通り、何故かオレがアッカルド帝国の王様と喧嘩しに行くってことは関係者の間で知られていて、祖父さんからもどっしりとした小型拳銃を贈られている。
これってもしかして…………いや。やめよう。護身用だ。きっとそうだ。うん。
………そういうことにしよう
…しかもどっから聞きつけたのか、グスタフ爺も〝守護の宝珠〟という物を贈ってよこしてきた。
一見すると、オレの小さな手にも収まる野球ボール大の半透明の水晶だが、これがとんでもない代物だ。
…これ、王族御用達のお守り。
徳の高い聖職者が月単位で祈りを捧げ、魔力を籠めて作る、手も時間もかかる最強のお守り。
……並の修道士だと十人がかりで一年かかっても、ビー玉大の物しか出来ないって言うから、オレの手にあるこれがどれだけとんでもない物かわかると思う。
…多分あの性格とオレへの溺愛具合からして、グスタフ爺が一人で作ったんだろうな…
あの底抜けに人の好い性格からつい忘れそうになるが、三歳からのオレの茶飲み仲間で、オレに孫を溺愛する爺さんみたいに接してくれるグスタフ爺は国一番の聖職者、神官長だ。
…つくづくオレの周りって凄い人が多すぎる。グスタフ爺然り、祖父さん然り、叔父貴然り。
ああそうそう。兄貴にも一応その中で名を連ねる資格はあった。
しかし、兄貴の場合、力はあれど、精神がまだ未熟だ。
まぁ、お前は九歳児に何を求めているんだ、って話だが。
(兄貴の誕生日は十一月だから、正確にはまだ八歳)
そんなこんなで感謝で胸が一杯、頭が痛くて思わず抱えたくなる、旅立ちの餞の数々。
…ドラ〇エじゃ一国の王様が魔王を討伐する旅に出る勇者に用意するのは50Gだけなのに。これじゃおなべのフタしか買えないよ。
それからすると、つくづくオレは恵まれているらしい。
…でもごめん。ほとんど持って行けそうにない。
お礼はちゃんとするから、勘弁して。
その代わり、今度こそ五体満足で帰って来るからさ。




