第二の人生でもやんちゃです
…まぁ。そう、綺麗に終われば良かったんだけどね。
そうもいかなかった。
呼び出されました。
しかも職員室じゃなくて、生徒会室ってのがゲームの世界らしいよな。
そうちょっとばかりズレた感動を持っているのはオレだけのようで、隣のカールはブルブル震えている。
まぁ。品行方正の優等生には、呼び出しとか恐ろしいか。
オレはというと、(前世では)呼び出しも説教もしょっちゅうだったから何とも思わないけど。
月に一回は大きな問題起こして親が学校に呼び出されてたね。
言っとくが、オレは不良学生だったが、不良行為には一回も手を出していないぞ?
無邪気でやんちゃな行動を仲間内で発案し、実行していただけだ。
だから気楽なもんで、あっさりと生徒会室の重厚な木の扉をノックする。
カールはギョッとしてるが知った事か。
面倒な事はさっさと済ませるに限る。
「失礼します。
お呼び出しされました、グーテンベルクとバッハシュタインです」
中に入ると、奥にある執務室にあるような立派な机に座った上級生一人だ。
そいつは机の上で肘をついて指を組み、身体をやや前のめりにさせていた。
「…良く来た。まぁ、入れ」
そう促され、オレはさっさと、カールはビクつきながら中に入る。
二人並んでそいつに向き直ったんで、後ろでカールの背をバンと叩く。
そうオドオドすんな。堂々としろ。
そういう思いを籠めた叱責が通じたのか、カールは背筋を正し、毅然とした空気になった。
それを見てそいつは「ほう」、という顔をする。
「ああ。私は生徒会長のエルンスト・ルートヴィヒ・マイツェンだ。
二人を呼んだ理由はわかるな?」
「釈明の機会を与えられた、と解釈しております」
生徒会長様はオレを見て片眉を上げる。
「…まるで軍人のような話し方だな。
グーテンベルクに軍の関係者がいたか?」
「これは失礼。畏まって話す時は祖父に仕込まれた軍人の口調が出まして」
「………ああそうか。貴様の外祖父はベッケンバウアー卿だったな」
母親の実家・ベッケンバウアー家は代々騎士を輩出した家系だ。
いつからか一族の男子は騎士でなく軍人として育てられるようになり、オレも祖父さんの屋敷にいる間はそのように教育される。
祖父さんは陸軍大将だ。
若かりし時は先王の命に従い、各地の戦場にて武勲を立てたとか。
…まぁ、あの家の連中と同じに見られたくなくて殊更に使っているだけだけどね。その気になりゃ普通のお綺麗な貴族様の敬語も使えるし。
「……ふむ。まぁ、いい。とりあえず話をしてくれ。
私が知っているのは貴様達が魔法の授業中に問題を起こした事、これのみだ。
事情を知らねば処分も言い渡せん」
オレとカールは顔を見合わせ、まずカールを促してカールといじめっ子との事を話していった。
生徒会長様はカールの話を聞く間、片目をすがめ、不愉快そうだった。
「………ふむ………。公・候爵の子息がそうした下衆な振る舞いをするとはな。
しかも聞くと、それらは皆次男・三男ではないか。
公爵嫡男への無礼の意味をわかっていないな」
………ん~………。判断に困る。
不愉快になっているのがカールへの仕打ちについてなのか、いじめっ子どもの分を弁えぬ身分違いの振る舞いについてなのか。
それによって生徒会長様への印象が変わる。
カールからオレに魔法の特訓をつけてもらったと聞くと、オレに目を向けた。
「どうしてバッハシュタインに手を貸した」
「気に食わなかったからであります。
自らより弱い、と見做した者への寄って集っての暴行も、
…それを黙って耐えるバッハシュタインも」
カールはオレに顔を向け、傷ついたような顔をする。
だが、これは紛れも無い本心だ。
「無闇に牙を剥けとは言いませんが、自らの矜持を理不尽に踏みにじられたなら断固として戦うべきです。
しかしバッハシュタインにはそれが無かった。
ならば、戦う力を、手段を持たせるべきだ。そう思ったまでであります」
ここで場の空気が変わった。
この場の支配者は生徒会長様だ。
つまり、生徒会長様が変わったということだ。
事実、それまでも気怠げに見えていた生徒会長様の纏う空気が弛緩した。
例えるなら……外面のいい奴が家に帰ってだらけた様な感じだ。
ってか、まんまそうだった。
生徒会長様は頬杖をついて前のめりになり、オレをマジマジと見つめる。
「…お前面白いな。生徒会に入らないか?」
「お断りします」
口調までフランクになってやがる。
だが、引き摺られることなく間髪入れずに断った。
生徒会にオレが入ることは無い。
やる気も無いし、そもそも入会規定に漏れているからだ。
生徒会には各家の次期当主しか入れない決まりだ。
これは決して差別じゃない。
公・侯・伯・子・男爵いずれにしても、次期当主となれば将来家や領地の管理をすべく、そうした方面の教育を施されている。
しかし、どこかの家の養子にでも行っていない次男・三男坊辺りにはそうした心得は無い。
「…それに、生徒会なら私の兄がもう所属しているはずです」
そう。兄貴はオレが入学したのと同時に、入会規定にある所属年齢の最年少で生徒会入りした。
「けど、あいつ堅っ苦しいばっかで思考停止人間なんだよね。
だから正直面白味が無い」
「んなこと言わんといてたげて下さい。
生徒会に入れたって、それはもう喜んでたんですから」
思わずフォローに回ると、生徒会長様、…いや、もう会長でいいや。会長はニカリと笑う。
「地が見え隠れしてるぜ?
…うん。やっぱりお前、俺の後継者にならないか?」
「もっと嫌です」
こんな胡散臭くて底知れない奴の後継になってたまるか。
オレの中での会長の評価が〝油断ならない要注意人物〟で固定された。
こういう人は自分の都合や理論で人を振り回し、好き勝手する。
関わらないに限る。
…ってか、オレだ。
………う~ん………。同属嫌悪とか言うけど、波長が合ったら上手くいくんだよね。
だが、何となくこの会長とは〝良き理解者〟になれても、〝良き同類〟にはなれそうもない。
なれて精々〝お隣さん〟かな。
そこまで考えていると、ドタバタという慌ただしい足音が外から聞こえてきた。
…あ…誰かわかった。
ドアをバン、と開け放ち、焦った顔で飛び込んできたの、は察した通り兄貴だった。
兄貴はオレの横に来ると頭を押さえつけて、自分と一緒に無理やり頭を下げさせた。
「この度は弟がご迷惑をおかけしました!!
全ては私の監督不行き届きです!!
この通り反省していますのでどうか…」
言葉をぶった切って兄貴を押しのける。
「オイ。事情も何も聞かずに、とりあえず謝らせて済ませようとするな。
勝手な都合で謝罪を強要されて不愉快だ」
オレは自分に非があるなら素直に謝る。
だが、今回オレは決して謝罪しないと決めていた。
謝罪してしまったら、カールのいじめっ子へ報いた一矢が否定され、台無しにされる。
そんなこんなで兄貴とオレが押し合いへし合いしていたら、またも会長は言ってくる。
「なぁ。やっぱり生徒会入らないか?」
「だから嫌だっての」




