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第二の人生でもお人好し

 

 

 どうしてか攻略対象者(もれなく地位もスペックも極上)が痛めつけられ、手当てもされずに一人転がされている。


 わけがわからないが、とにかく治療が先だ。

 そうと決めると〝スキャン〟するまでもなくわかる外傷を治癒魔法で治していく。


 見える所を治し終えて、一応念のため〝スキャン〟をしたが、骨折とか内臓破裂とかはしていなかった。


 いや。物騒だろうけど、本当にありえるんだよ。

 地に転がる奴を蹴っていると加減が出来ずにやり過ぎる。

 それにこういう怪我の仕方をする状況では大人数で寄って集ってやるもんだから異様な興奮に包まれ、やられた相手がどう痛がっているのかを考えもしない。

 そもそもこんな事をする連中に罪悪感があるわけもないから、苛む手を止めることは無い。


 傷が癒えてもグッタリしたままのカールハインツを助け起こすと、汚れた服も魔法で綺麗にしてやる。


 ぼんやりとしていたカールハインツだが、『誰か』がいると認識するや、頭を抱えガタガタ震える。


 …こりゃ入学して二、三日で苛められ始めたとかの反応じゃないな…


 どう見たって長年の経験から身体に恐怖が染みついている。


 オレは励ますようにポンポンとカールハインツの肩を叩く。


「待て。怖がるな。オレは同じ一年のアレクシス・グーテンベルクだ。

 お前はカールハインツ・バッハシュタインだな?」


 オレの声掛けにカールハインツはおずおずとオレを見つめる。



 貴族社会じゃ名乗りによって場を区別する。


 オレ達のような未成年なら親や保護者の名、その関係性、そして自分のフルネームを名乗るのが公式の場での作法だ。


 しかしさっきのように保護者の名も名乗らず、またミドルネームも名乗らない、ということは非公式の場であり、その場であったことは他言無用、という暗黙の了解だ。


 ちなみに普段本人も忘れかけているミドルネームまで名乗る理由は、一族に同じ名前の奴がいることもあるんでその区別の為だ。



 オレが先に二人分の相互紹介をしたことでこの場を〝非公式の場〟と設定され、かつ自分の名を知っていることで自分から名乗り出すという恐怖を先に消しておいた。



 これでやっとカールハインツは話を聞く体勢に入った。

 そうなると流石公爵令息で、気品あふれる礼儀正しい姿になった。


「これは失礼。私のことはカールとお呼びください」

「オレの事はアレクでいい」


 カールハインツ、改めカールは攻略対象者になるだけあって整った顔立ちをしていた。

 群青色の髪や凛々しくありながら柔和な雰囲気は原作でのビジュアルのままだが、一点だけ異なる所があった。


 …あれ?こいつの目、水色じゃなかったか?


 原作のビジュアルではそうだったはずだが、こいつの目はいっそ黒に近い濁り淀んだ青だった。


 秋空みたいな綺麗な澄んだ水色とは似ても似つかない。



 …グスタフ爺言ってたな。


 『瞳は心の鏡であり魔力を映す鏡である』って



 しかし今こいつは傷つけられて心を損ね、内で燻っている魔力によって瞳が内から輝かない。


 そう。どうしてかこいつからは魔力が欠片も感じられない。

 貴族社会じゃ魔力が絶対だ。

 それもこいつのように公・侯爵レベルとなると、生まれながらに莫大な魔力を持つのが当たり前だ。

 だからこそ、より一層苛まれるのだろう。


 …でも何で魔力が無いんだ?確か〝強力な水使い〟の設定のはずなのに…


 一概に言えないが、一族で得意とされる魔法はその血族の容姿に現れる。


 たとえば同じく入学当日に会った攻略対象でもあるディートハルトは燃えるような赤い髪の通り、火の魔法を得意としている。

 こいつも群青の髪に本来なら水色の瞳の通り、水の魔法を得意とする。


 カールに危害は加えないと言い聞かせ、額に手を翳す。


「〝スキャン〟」


 スキャンはそいつを丸裸にする検査魔法だ。

 だからあまり長い間晒されると、違和感とどうしようもない気持ち悪さに襲われる。そこで素早く魔力の源に到達し、調べる。


 するとわかったが、こいつは決して魔力が無いわけじゃない。


 むしろオレの知るどの子供よりも豊富だ。


 …ってことは魔力の解放の仕方がわからないか、何かトラウマがあって無意識に押し込めているな


 入学式の日にこいつを認識するや、怒涛の勢いで妹(前世)が語った情報の中には魔力を押さえつける原因らしきものは無かったから、前者だろうな。


 多分だが、身体に負担がかかると魔力の放出を拒んでいる。


 ここまでわかると手を離し、何となしにカールの頭を撫でてやる。


 するとカールはキョトンとしてからエグエグと泣き出した。


 ………きつかったのかな……


 休息が必要だと思い、カールを立たせてオレの部屋に連れて行くことにした。


 どうせ今から昼休みだ。昼休みはどこで過ごしていてもいい。だったら自室でもいいだろう。


 さして関係も無いんだから、怪我を治した時点で通りすがりとしては上等だ。

 それなのにこうも気に掛けるとは、つくづくオレはお人好しだ。(お人好しってのは前世も今世も称されるオレの性分だ)



 どうやら一回死んでバカは多少治っても、お人好しは死んでも治らないらしい。




 貴族の名乗り云々の件はこの世界では、ということです。

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