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婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。  作者: 木山楽斗


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第9話 余計な帰還(モブside)

 アナプト山の家での夜は、長く苦しいものだった。

 ガラルトとロナメアは、一睡もすることができず朝を迎えた。水浸しの家の中で過ごす凍えた夜は、本当に険しいものだったのだ。


「やっと、つきましたね……」

「あ、ああ……」


 それから二人は、すぐに下山して数日かけてザルパード子爵家の屋敷まで戻って来ていた。

 話し合った結果、一度家に戻る方がいいと結論付けたのである。


「……ガ、ガラルト様?」

「ああ、僕だ。それにロナメアも一緒だ。今、帰った」


 屋敷の庭を掃いていた使用人に、ガラルトはいつも通りに話しかけた。

 しかし、彼の反応は明らかに悪い。それもそのはずだ。二人は駆け落ちしていた。そんな二人が急に帰って来ても、反応に困ってしまうのだ。


「すぐに、風呂と食事の準備をしろ」

「は、はい。わかりました。そのように手配してきます」

「ああ、待て。父上は、どうしている?」

「あ、えっと……」


 流石のガラルトも、父親が怒っているであろうということは予測していた。

 故に彼は、必死で言い訳を考えた。別に出て行くつもりはなく、単に事故で連絡ができなかっただけなどという言い訳だ。

 彼は、それでことが済むと思っていた。謝れば許してもらえる。そんな考えが、彼の根底にはあったのだ。


「……私ならここだ」

「ち、父上?」

「随分と遅い帰りだな、ガラルト。しかしなんともお前らしい帰宅の仕方だ。結局お前は、私を頼らずに生きていくことはできないということか」


 そんなガラルトの前に、ザルパード子爵は不機嫌そうに現れた。

 それに対して、ガラルトは後退る。先手を打たれて、言い訳ができなかったからだ。


「もちろん、人は一人では生きていけない。誰かを頼る必要もあるだろう。だがなガラルト、問題なのはお前が身の程弁えていないということだ」

「な、なんですって?」

「私を頼るなら、私の言うことは聞くべきということだ。反発して、都合が良い時には頼る。それを許容する者などおるまいよ。私はお前の親だが、それでもお前のやり方には不快感を覚えずにはいられない」


 ザルパード子爵は、ガラルトに対して冷たい視線を向けていた。

 その視線に、ガラルトは見覚えがあった。それは父親が、敵と認識した者に向ける視線だ。


「お前に子爵家を継がせるつもりはない。弟のギルバートは、優秀で私に従順だ。お前よりも余程この家を継ぐのに相応しい」

「ギルバートは、妾の子でしょう?」

「ああ、私の血を継ぐ子だ」


 ガラルトにとって、妾の子であるギルバートに負けるというのは屈辱的なことだった。

 内心馬鹿にしていた弟が子爵を継ぐ。そのことに、ガラルトは怒りを覚えていた。

 しかし、彼は何も反論することができなくなっていた。この状況で、言葉を考えれる程に、彼は経験を積んでいなかったのだ。


「さて……ロナメア嬢、あなたにも話がある人がいます」

「え? 私に……」

「ええ……どうぞ、次はあなたの番です」


 ガラルトとの話が終わって、ザルパード子爵はロナメアに矛先を向けた。

 それと同時に表れた人物に、彼女は目を丸める。そこには確かに、ロナメアの父セントラス伯爵がいたのだ。


「ロナメアよ。今日お前が帰ってきたことは、実にタイミングがよかったといえる。ザルパード子爵との話も終わり、丁度お前達の処遇を決定した所だ」

「ど、どういうことですか?」

「まず私は、お前と縁を切ろうと思っていた。お前のような身勝手な者は、セントラス伯爵家にとって何の利益にもならないからだ」


 セントラス伯爵は、特に表情を変えることもなくロナメアにそう言い切った。

 父親がどういう人物であるか、彼女もある程度はわかっている。しかしながら、自分をそこまで簡単に切れるとは思っていなかったため、彼女は動揺していた。


「しかしながら、ザルパード子爵はお前達が必ず戻って来ると言ってきた。驚くべきことであるが、それは本当だった。だが、我々にとってそれは余計なことだったのだ」

「な、なんですって?」

「駆け落ちして、どこかに消えてくれた方が私達にとって都合が良いのだ。戻って来られても、正直困る。お前達は扱いにくいのだ」

「そ、そんな……」


 セントラス伯爵は、ザルパード子爵の方を見る。すると子爵は、ゆっくりと頷いた。

 それは二人にとって、最終確認の合図であった。故に伯爵は、話を再開する。


「お前達には、これから失踪してもらう。駆け落ちして、どこかで二人で暮らしている。そういうことにしておきたいからだ」

「し、失踪って………」

「もちろん、私にも人並みの情というものは存在する。故にお前達が暮らせる場所と生活費は工面してやろう。それで私とザルパード子爵は同意した。我々の寛大な措置に感謝するのだな? 特に、ザルパード子爵は慈悲深かった」


 セントラス伯爵は、そこで笑った。

 それは暗に、自分は慈悲深くなかったということを表している。


 故にロナメアは理解した。父親がいざとなったら、自分達を始末することも辞さないのだと。

 伯爵に親としての情がない訳ではない。ただ、ロナメアは知っていたのだ。彼は大義と思うことのためならば、手段は選ばない人なのだということを。


「ガ、ガラルト様、ここは従いましょう」

「なっ……こ、こんな不当な扱いに従うつもりなのか?」

「いいから、従ってください! あなただって、命は惜しいでしょう!」

「い、命だって……?」


 何もわかっていなかったガラルトに、ロナメアは必死で叫んだ。

 こうして二人は、駆け落ちして失踪することになった。両家にとって円滑にことを進めるために、二人は消えることになったのである。




◇◇◇




「こんな田舎の屋敷に閉じ込められるなんて、正直信じられません」


 ガラルトとロナメアは、ザルパード子爵家の別荘に閉じ込められていた。

 人里から離れたその場所は、まず人が寄り付かない。そんな場所に閉じ込められることは、二人にとって屈辱的なことだった。


「まったくだ。父上は一体何を考えているのだか……よりにもよって、あのギルバートに家を継がせるなんて信じられない!」


 ガラルトは、妾の子が子爵家を継ぐという事実に未だに納得できていなかった。

 彼はずっと、自分が次期当主になると信じて疑っていなかった。そんな彼にとって、父の判断は意味がわからないものだったのだ。


「……仕方ないことではありませんか」

「……何?」

「別に妾の子だからといって、家を継げない訳ではありませんよ。血が流れているなら、貴族は当主に選びます。血は何よりも大事ですから」

「な、なんだと……」


 そこでガラルトは、驚くことになった。ロナメアが、自分に同意しなかったからである。

 今まで彼女は、ガラルトに従順だった。それが崩れたことも、彼にとっては信じられないことだったのだ。


「ロ、ロナメア。一体何を言っているんだ。妾の子だぞ? そんな存在が、子爵家を継いでいい訳がない。父上は間違っているんだ」

「……間違っているのは、ガラルト様の方ですよ。こんな所に閉じ込められたのも、もとはと言えば誰のせいか……」

「ぼ、僕のせいだというのか!」


 ロナメアに向かって、ガラルトは叫んだ。

 その叫びに対して、ロナメアは不機嫌そうにする。その態度がまた、ガラルトを苛立たせた。


「驚いたな! 君がまさかそんなことを言うなんて、信じられない裏切りだ!」

「駆け落ちをしようなんて言い出したのは、ガラルト様でしょう? その責任があなたにはあったんです! あんなボロボロの家に駆け落ちしようなんて、無理な話だったんですよ!」

「君も同意したじゃないか! わがままな女だ……君がそんな奴だとは思わなかったよ!」


 二人は、そこで初めて喧嘩をした。

 お互いに今までため込んでいたものが、辺境の別荘に追いやられたことによって溢れ出してきたのだ。


「それはこちらの台詞です。あなたはもっと、知的な方だと思っていましたが……とんだ馬鹿者だった訳ですね!」

「なんだと? 僕を侮辱するのか! 大体、君はわがまま過ぎるんだ! 甘やかされて育ったんだろうな!」

「それも、そちらの方でしょう! まったく、あなたという人は最低です!」


 ガラルトとロナメアは、激しく言い争っていた。

 一度溢れ出してきた感情は、抑えることができなくなっていた。二人はどんどんとお互いの不満を打ち明けていく。

 こうして、二人の間には大きな亀裂が生まれたのだった。

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