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婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。  作者: 木山楽斗


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第2話 契約書の提案

「アノテラ、私はお前が何を言っているのか理解できないぞ?」

「ええ、本当に意味がわかりません。アノテラ、冗談の類ではないのよね?」

「ええ、お父様、お母様、私が今まで説明してきたことは全て事実です」


 お父様とお母様は、私の説明に訳がわからないというような顔をしていた。

 婚約破棄されて、元婚約者の浮気相手の婚約者と縁談が持ち上がっている。それを理解しろという方が無理だろう。

 ただ、結果的にそうなってしまったというのが現実である。私だって、まだ理解は追いついていないけれど、それでも受け入れていくしかない。


「お姉様、玉の輿ってやつかな?」

「お兄様、お姉様だって貴族なのだから、玉の輿っていうのは正しくないんじゃない?」

「ああそうか」


 そんな私達の会話を、弟のイグルと妹のウェレナは楽しそうに聞いていた。

 私とは年の離れた双子の兄妹達は、私の身に起こったことをすんなりと受け入れているようである。


「えっと、ラルード様曰く、後日改めて連絡をしてくれるみたいですが、お父様とお母様と相談してという話なので……」

「ああ、そっちもなかったことになるかもしれないと?」

「ええ、そうですね」

「でも、ラルード伯爵令息は乗り気なのでしょう? 両親も説得できると思っていると、あなたはさっき言ったわよね?」

「はい、言いました。だから、この婚約はきっと成立するんじゃないでしょうか?」


 私の言葉に、お父様とお母様は顔を見合わせた。

 二人とも、なんとも奇妙な表情をしている。婚約破棄されてショックを受けて、伯爵家との縁談に少し浮かれて、二人の心情は既に滅茶苦茶なのかもしれない。


「もちろん話がまとまれば願ってもないことではある。我々にとっては、有益な結婚であることは間違いない。なんといっても、相手が伯爵家だからな?」

「でも、もしかしたら何かしらの意図があるのではありませんか? もちろん、婚約者が見つからない可能性もあるから、アノテラの持ち掛けに乗ったという単純な可能性もありますが」

「状況的に、どちらでもあり得そうだな。結論として出せるのは、わからないということだけだ」


 お父様とお母様は、早口でそのような会話を交わしていた。

 結局結論として出たのは、わからないという身も蓋もない結論である。残念ながら、その結論には同意するしかない。私も正直、ラルード様の本心はさっぱりわかっていない。

 あの時は分かり合えていると思っていたが、本当にそうだったのだろうか。彼の本質が、少々気になる所である。


「あ、そうだ」

「む?」

「アノテラ、どうかしたの?」


 そこで私は、あることを思いついた。

 それはもしかしたら、今回の件を確実に円満に終わらせられる方法かもしれない。




◇◇◇




 ラルード様は、本当に後日すぐに連絡してきた。

 そして、私達の縁談は本当にまとまったのである。驚くべき程に、早い婚約だった。

 しかし、私達はその裏に何かある可能性も思案していた。故に私は、とある策を仕掛けてみることにしたのである。


「契約結婚、ですか?」

「ええ、私はそれを望んでいます」


 遥々ラーカンス子爵家を訪ねてきたラルード様に、私はそのような提案をしてみた。

 契約結婚、それは婚約に関することをきちんと契約書に残してする結婚だ。

 これには、様々なメリットがある。全てを取り決めておくことによって、利益も不利益も前々からある程度コントロールできるのだ。


「ラーカンス子爵家もエンティリア伯爵家も、婚約破棄によって多大な被害を受けました。それはひとえに、契約書がなかったからだと思うんです」

「ほう?」

「口約束で婚約を結ぶというのは、やっぱり駄目だと思うんです。こういう時になあなあにされたのがいい例です。それぞれの婚約相手の家も謝罪をしてきただけでしょう?」

「そうですね。申し訳ないと思っていても、何かしてくることはありません」


 ラーカンス子爵家としては、とにかくこれ以上の不利益を被りたくなかった。そのためにも、契約書が必要なのだ。利用されて終わるだけではないと、法的な保証が欲しい。

 それを求める正当なる理由は幸いある。事前の婚約破棄を盾に、私はラルード様を説得するのだ。


「ここで契約書があったら、話は変わってきます。例えば、浮気を理由に離婚する場合は浮気した側がいくら払うだとか」

「なるほど、確かにそれは重要なことかもしれませんね……」

「ええ、そうでしょう」


 これを言っておくことには、エンティリア伯爵家の意図を計る意味もある。

 もしも何かやましいことがあるならば、この時点で婚約はなかったことになるはずだからだ。

 しかし、私の提案にラルード様はかなり乗り気である。少なくとも彼にやましいことは、ないということだろうか。


「これは、アノテラ嬢が思い付いたのですか?」

「え? ええ、私の案ですけれど」

「なるほど、あなたは聡明な方ですね」

「あ、ありがとうございます」


 ラルード様は、とても真っ直ぐな目をして私を称賛してきた。

 その目を見ていると、なんだか少し申し訳なくなってくる。彼を疑うということは、もしかしたらすごく恥ずべきことなのではないだろうか。そう思ってしまったのだ。

 しかし彼にそういう意図がなくても、エンティリア伯爵家にそういう意図がある可能性はある。故に、この契約結婚は必要なことなのだ。


「えっと、それで契約書を作るんですよね?」

「ええ、そのつもりです」

「今から取り掛かりますか?」

「あ、いえ、一度ラルード様のご両親に相談してください。それで了承が得られたら、お互いの家できちんと話し合って、納得がいく契約書を作成しましょう」

「わかりました」


 ラルード様は、とてもいい笑顔で頷いてくれていた。

 彼は、本当にいい人なのだろう。それが表情から伝わってくる。

 しかしよく考えてみれば、私は彼のことをまだそんなに知っている訳ではない。今後のためにも、彼について聞いておいた方がいいのではないだろうか。


「だから今日は、お互いのことを話し合いませんか?」

「お互いのこと、ですか?」

「ええ、結婚するのですから、お互いの好きなものであるとかそういうことは知っておいた方がいいでしょう?」

「なるほど、確かにそれはその通りですね。わかりました。しかし、何から話しましょうか?」


 ラルード様に言われて、私は少し考えることになった。

 確かに、こういう時に何から話すべきかはよくわからない。好きな食べ物とか、言い合えばいいのだろうか。

 ガラルト様は、彼が勝手に自慢話を始めるので、特に私は何も考えていなかった。故に結構、悩んでしまう。


「ご趣味は?」

「趣味ですか……」


 最終的に絞り出せたのは、とても月並みな質問だけだった。

 だが、これは悪い質問ではないだろう。趣味というのは、比較的話も広げやすい話題だ。同じ趣味なら意気投合できるし、知らない趣味なら質問ができる。


「強いて言うなら、読書でしょうか?」

「読書ですか。それは素晴らしい趣味ですね。私も本はそれなりに読みますよ? 恋愛小説なんかを少々……」

「なるほど、僕は推理小説などをよく読みますね」

「ああ、そういうジャンルもいいですね。よろしかったら、おすすめなどを聞かせてもらっても?」

「ええ、もちろんです。それなら僕もいいですか」

「え? それなら、今から持ってきましょうか?」

「……」

「……」


 しばらく会話をしてから、私とラルード様は顔を見合わせていた。

 思っていた以上に、彼との会話が弾んだからだ。

 それは話の内容というだけではない。言葉の速度であるとか、それを話す時の態度であるとか、そういうものが噛み合っているような気がするのだ。


「ふふ、案外気が合うのかもしれませんね。私達は……」

「おやおや、僕は最初からそう思っていましたよ」


 私の言葉に、ラルード様は笑顔を浮かべてくれた。

 気が合うというのは、きっとこういうことをいうのだろう。なんとなくではあるが、彼とはうまくやっていけるような気がする。




◇◇◇




「しかしながら、まさかあのような好青年だったとは……」

「ええ、今の時代にあんな子がいるなんて少しびっくりです」


 お父様とお母様は、ラルード様に対してそのような評価をした。

 二人に挨拶をしたラルード様は、とても礼儀正しくて紳士的だった。故に二人とも、好感を抱いたのだろう。

 ただ、二人がこんなに高評価なのはある人物のおかげともいえるかもしれない。


「こういう言い方は良くないのかもしれませんが、ガラルト様はそういう所があんまりきちんとされていませんでしたからね……」

「うむ……ああいや、別に彼のことを批判している訳ではないが」

「でも、結局彼は自分勝手な人だった訳だものね……」

「ああそうか、確かに我々は彼の身勝手な行動によって不利益を被っている。そう考えると、段々と腹が立ってくるな……」


 ガラルト様は、両親の前でもいつも通りの人だった。

 高慢なあの態度は、誰の前でも変わらないものであるらしいのだ。

 ロナメア嬢は、そんな彼のどこに惹かれたのだろうか。それは私にとって、永遠の疑問である。


「まあ、良き婚約者に巡り会えたのは不幸中の幸いだったといえるだろう。いや、我々にとっては幸福の方が勝っているかもしれない」

「そうですね。私にとっても、なんというかいい気がします。正直な所、ガラルト様の妻になるよりもラルード様の妻になる方がいいですから」

「それは、確かにそうでしょうね。私達にとっても、嬉しいことだわ」

「うむ。もちろん、家の事情などもある訳だが、お前には幸せになって欲しいと思っているからな。親ならば、誰だってそう思うはずだ」


 ラルード様という婚約者は、私にとっても両親にとっても良き婚約者だ。

 それは間違いない。ただそう考えていくと、とある疑問に突き当たる。


「ラルード様やエンティリア伯爵家にとって、私が良き婚約者であるといいのですけれど……」

「む……」

「そんな心配をする必要はないわ。あなたは、私達の誇り高き娘よ」

「そうだとも」


 私の不安に対して、お母様は力強い言葉を返してくれた。

 お父様も、それには同意してくれている。それ自体は、嬉しいことだ。


「まあ、今度はこちらがエンティリア伯爵家を訪ねますから、その時に反応を見てみます」

「あまり気負うなよ?」

「ええ、いつも通りのあなたで行きなさい」

「はい、心得ています」


 エンティリア伯爵家に行くのは、正直少し怖かった。

 しかしながら、それをこなさなければ前には進めない。幸せな未来のために、ここは気合を入れて挨拶するとしよう。

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