<自分にとって都合のいい人間しかいない世界>なんて、現実には存在し得ないから。それこそが現実なの。そんな世界はフィクションの中にしか存在しない。現実の世界で生きていくには、自分にとって都合の悪い相手と
<自分にとって都合のいい人間しかいない世界>
なんて、現実には存在し得ないから。それこそが現実なの。そんな世界はフィクションの中にしか存在しない。
現実の世界で生きていくには、自分にとって都合の悪い相手とも折り合いをつけて生きていくしかないんだよ。そのために必要なことを私は子供達に教えていくんだ。
<親>だからね。この、<自分にとっての都合の悪い相手とも折り合いをつけて生きていかなきゃいけない世界>にあの子達を送り出したのは、他の誰でもないこの私自身なんだ。
なのに私の両親は、兄に対してそれを教えようとしなかった。それどころか、なんでもかんでも自分の思い通りになるように強引なことだってしていいって教え込んできた。
私は逆にあの両親から無視されてたから、幸か不幸かその影響をあんまり受けずに済んだけどね。だけどそんな私でも、良い出会いがなければ結局あの両親の影響を受けて、両親や兄に反発しながらも、同じような事をして生きてただろうなと思う。
だって私が生まれてから物心がつくまで見てたのは、あの両親の振る舞いだから。あの両親の振る舞いしか<手本>がなかったから。あの両親の振る舞いが好ましくなくて、それ以外の振る舞い方があるということを気付かせてくれる出会いがあったからそちらを参考にすればよかっただけだから。
一方、兄については、両親に従ってさえいればいい目が見られるというのをずっと続けてて、実は両親のことを、
『自分より能力の低い人間だ』
と見下しつつも、
『利用価値があるから利用してる』
って分かってるんだけどさ。何しろずっとそばで見てきたんだもん。兄が内心では両親の事を馬鹿にするようなことをいつも口にしてたってことをさ。同時に、私を脅して両親に告げ口しないように仕向けるという、抜かりの無さも見せてたけどね。
けど長年それが変に上手くいっちゃってたから思い上がっちゃって、自分が何をしても上手くいくんだと思い込んじゃったみたいでさ。
で、部下に対してパワハラをしまくってそれが表沙汰になって、ついでに両親の行状も掘り起こされて、三人揃って火だるまに。
恨まれてなければそんなことにはならなかったんだろうなあって思う。『誰かから恨まれる』っていうのは結局そういうことなんだよ。
何もしなくたって理不尽なことをしてくる人はいる。誰かに恨まれるっていうのは、それに加えて復讐の機会を虎視眈々と狙う人をわざわざ自分で作るっていうこと。
普通に考えればリスクを増やすだけだって分かると思うんだけどねえ。




