主人公は、そんなロボットにも八つ当たりする。母親は荒れる息子を恐れて二階にも上がってこない
主人公は、そんなロボットにも八つ当たりする。母親は荒れる息子を恐れて二階にも上がってこない。
ちなみにこの世界、医学の進歩で老化が結構抑制されるようになっててさ。七十歳くらいまでは、現代の三十代くらいの若々しさを保つことができるようになってるんだ。
だから主人公も、高一から三十年引きこもってたのに、外見上は二十代くらいでね。
しかも、ヘルパーロボットが実に効率的に栄養バランスと食べた時の満足感を両立させた食事を作ってくれるものだから、過度な肥満になることもなく、ただ運動不足なだけの中肉中背で済んでたり。
そしてそれは、両親も同じ。七十を大きく超えててもまだ見た目には四十代くらいで。
でも、皮肉なことにむしろそれが余計に辛かったりするけど。
なにしろ、
『この状況がいつ終わるのか、先が見えない』
わけだからさ。
歳をとって体が衰えていけば、いずれは終わりが来るのが実感できる。それまでだったら七十を大きく超えれば終わりも見えてくるだろうに、百二十まで生きる人も珍しくなくなったこの世界では、まだ四十年以上あるわけで。そう、ここまで主人公が引きこもってきた以上の時間が。
それはキツいんじゃないかな。
だけど同時に、主人公とその両親が堂々巡りをしている間にも実は世の中は動いてて、特に、切実に求められてる分野については、データが蓄積されていっててさ。
で、ある日、主人公の前に、一人の美女が現れるんだ。
「初めまして。私の名前はアリサ。あなたのサポートを行うために参りました」
「はあ……?」
呆気に取られる主人公だけど、実はこの<アリサ>。最新型のヘルパーロボットだったんだ。父親が、藁にも縋る想いで退職金を前借する形で買ったんだよ。
こうしてアリサは、まず、それまでのヘルパーロボットと同じように家のことから始めるんだ。
以前のヘルパーロボットでも、実質的には何も困ることはなかったんだけど、何と言うか、アリサには、仕草の一つ一つに人間味があって、しかも、母親のことをものすごく気遣ってくれてさ。
「これまで本当にお疲れ様でした。よく頑張ってくださいましたね」
と、優しく声を掛けてもらえて、母親は泣き崩れるんだ。家から逃げ出した父親がまったく言ってくれなかったことを、自分が何より言ってほしかったことを言ってくれたから。
そんなこんなで母親を救ったアリサは、いよいよこの家庭の問題の本丸である主人公の攻略に取り掛かるんだ。
と言っても、人間のように急いで結果を出そうとはしない。彼女は主人公の父親が購入した<耐久消費財>だから、時間はたっぷりある。
実は父親の狙いはそこにあったんだ。
ロボットだから人間のように音を上げて逃げ出すこともない。そして、自分達が死んでも、ちゃんと息子の面倒を見てくれる。
それこそ、息子の寿命が尽きるまでね。そうすれば、他人様に迷惑掛けることもないしさ。




