悪い意味で<普通>
異世界に転生して、五歳の時に<前世の記憶>が蘇って、
『五歳の子供から人生をやり直すことになった』
主人公は、非力で大人相手には腕力じゃ絶対に勝てない、しかもやけに敏感で、くすぐったいとか熱いとかがてんでダメになって、さらには、転生前は辛いものが好きだったのに、ちょっと辛いものでも口の中が痛くて食べられなくなったことで、主人公は、記憶はあっても自分がもう<別の人間>だってことを思い知らされるんだよね。
そのくせ、魔法の才能は、まるっきり、
<伝説の大魔法使い>
レベルとなっちゃ、それこそ<以前の自分>なんかどうでもよくなってくるんだ。
それと同時に、<前世の両親>のことも、<前世の人間関係>のことも、どうでもよくなってくる。
『はっきりと『嫌い』とは思ってなかったけど、別に好きでもなかった』
ってのを思い知らされるんだよ。
主人公の前世での両親は、悪い意味で<普通>だった。
<家のことは妻に任せきりで、自分の息子がどんなものに興味を持ってるのかも知らない父親>
に、
<欲しいのは安定した生活と世間からの評価だけで、家庭はそのための道具としか思ってない母親>
っていう、<普通の親>だったんだよ。
そんな親でも、子供を学校に通わせてそれなりの生活さえさせてれば、
<良い親>
みたいな評価をしてくれるんだよね。
その代わりに、子供を鬱憤の捌け口にしても、
<親の特権>
として許されるべきって思ってるっていう、ね。
『養ってやってるんだから、育ててやってるんだから、面倒見てやってるんだから、このくらいは当たり前』
って考えてるんだよ。
そのことにも、主人公は気付いちゃう。
親にあんまり歯向かわない、手を掛けさせない、<いい子>としてやってきたのに、自分は人間として扱われていなかったってことにさ。
<いい親ムーブのための小道具>
でしかなかったってことにさ。
それにしてもおかしいよね。子供を<いい親ムーブのための小道具>に使ったりするクセに、自分がATM扱いされたり家政婦扱いされたら怒るんだよ?
ATM扱いされるのが嫌なら、家政婦扱いされるのが嫌なら、子供を小道具扱いしちゃダメじゃん。
だけど主人公の親については、もうそれを省みることもできないけど。
永久に。
<同姓同名の他人と間違えられて一人息子を殺された悲劇の親>
として世間から同情されて持ち上げられちゃって、泣きながらインタビューに応えてて、録画した映像を見返しながら自分のテレビ映りを気にしたりはするんだけどね。
読者や視聴者の立場だったらそういうのを<クズ親>とか言ったりするんだろうけど、でもね、その程度は、世間では、
<普通の親>
なんだよ。
だって他人にはその人の内心とかまでは見えないからさ。




