童貞力と女子力
デートが始まった。
考えてみれば、俺の人生でこれが初めてのデートかもしれない。……なんか照れるな。
ここは男らしくリードすべきなのか、年上のリシアに甘えるべきなのか……。
「お待たせ、行こっか」
「お、おう」
ダメだ。どうすりゃいいのか全然わからん。
ったく、リシアが余計なこと言うからだぞ……。
今日のリシアは仕事着でもなく、制服でもなく、完全にプライベート用の私服であった。
髪型はギブソンタック?だっけ。
丁寧に編まれているところを見るに、ムムあたりに手伝ってもらったのだろう。
光の勇者らしい白を基調とした服装がよく映える。
「何?さっきからジロジロ……」
「いや、なんでもない」
「どうせ似合ってないとか思ってるんでしょ? 私だって一応女の子なんだから。こういう時くらいオシャレさせてよ」
いや、似合ってないわけが無い。
元々顔は良いんだ。顔は。
だからこうやって綺麗に着飾れば、その……。
「その服も髪も似合ってるよ。すげー可愛い」
「そ、そう?……ありがと」
「……っ!お、おう!」
世の男性というのはデートの度にこんなにも悶えそうな思いをするのだろうか。
腹の底から湧き上がる童貞力がとくんとくんと心臓をつつく。
「ま、まずは王都で情報を集めようか」
少し声が上擦った。死にてぇ。
リシアと一緒に街散策をしながら、買い物をした。
初めこそ意識してしまっていたが、実際こうやって街を回ってみると、自然といつも通りというか、慣れというか、特に緊張などを感じることはなくなっていた。
でも、やっぱりリシアも女の子なんだな。
ちょっと歩けば寄りたい店を見つけ、小物や服を買って魔法袋に詰める。
その間に、俺は店員さんにオススメの観光スポットやらを聴いて周り、それぞれ有意義に時間を過ごした。
「そろそろご飯にしよっか」
一通り買い物を終えたリシアはホクホク顔でそう提案してくる。時間ももうお昼近い。
「そうだな。そっちとこっち、どっち行きたい?」
オシャレな雰囲気のお店と元祖・ビーフシチューと書かれた看板が出た店を指さす。
「こっち!」
リシアが指さしたのはビーフシチュー屋さん。
よし、それでこそリシア。
俺もラーメン屋を感じさせるその看板が気になっていた。
結局、俺たちは気取らない関係が1番性に合っているのかもしれない。
「おい、あの噂知ってるか?」
「噂?」
「そうだよ! この前ドワーフが世界樹を狙ったって時の奴らだよ」
「あー!あれか!たった数十人で2万人殺したって奴だろ?なんつったっけ黒の方舟?」
「ああ。そうだ。奴ら、全員女らしいぜ?」
「マジで言ってんのか?つっても、ただの噂だろ?」
最近街へ繰り出すと俺の噂話を聞くようになった。
今飯を食ってる店の客もまた俺達の話で盛り上がっている。
黒の方舟。正体不明の女集団。
顔は隠されて見えないが、様々な種族が混合したグループで、全員が成人前後の女性だという。
「私達もすっかり有名人になっちゃったね」
「そうだなぁ」
けど、声を大にして言いたいね。俺は?って。
確かに、黒の方舟としての活動はまだ1回だけ。
俺は神と対面しただけで、戦場には立っていないので認識されなくても仕方ないっちゃ仕方ない。
けどさ、完全に俺だけ省かれてるじゃんか!
噂じゃ女の子だけの集団ってことになってるのに後から男が1人いましたって聞いても、きっとバランス悪いって思われるだけだと思うんだよね。
もちろん俺がそんなことを 本当に大声で言ったりすれば即刻逮捕からの即処刑だ。俺たちの虐殺は国際法に則っていない。いや、この世界にはそんなのないか?
「まぁ、いいや。リシア行先は海にしないか?」
「あー、海ね〜。私、実は海ってちゃんと見たことないんだよね」
「え、でもリシア船酔いするから海賊は嫌だって」
「よく覚えてたね。懐かしっ。普通に船に乗る分には平気なんだけどね。前に船の上でリヴァイアサンと戦って……」
「その話詳しく」
「んー、今の時期ここらの海はまだ寒いし南国はどう?ハクイとか」
「なんだ?すげぇ、ハワイのパチモン臭が漂うんだが」
「クイキキビーチとか、貴族の間じゃ意外と人気だって」
多分、それはワイキキビーチだな。
「リシアは行ったことあるのか?」
「行ったことあるっていうか……その、実家がハクイなんだ。私は内陸部出身だったから、海とは縁がなかったけど」
「そっか。でも、それじゃあ海には転移できないな」
「適当に家の近くに座標に合わせれば海に飛べそうじゃない?」
「なわけないだろ?この星だって、7割は海なんだぜ?」
俺って異世界に来た時、戦場に降りたって地獄見た気分でいたけど、そもそも10回転移した内の7回は海に落ちるってことなんだよな。
そう考えると、例え戦場であっても、3割である陸を引けたのは幸運だったのかもしれない。
「それに、リシアにだって出会えたしな」
「急に何?シラフの私を口説くのは翔太でも難しいと思うけど?」
あれ、声に出てたか?
まぁ確かに、いつもエレナと一緒に酒を飲んでるリシアを見てる限りだと、酒飲んだらちょろそうではあるんだよな。そこは少し心配だ。
「別に、口説くつもりはねぇよ。ただ思った事を言っただけだ」
本当は言うつもりもなかったけどな。
「ふーん?そう。じゃあ、そろそろ店、でよっか」
リシアはフッと微笑むと席を立つ。が、
──ビリッ
「おい、リシ──」
「気の所為」
「いや、けどお前今、ズボンが……」
「気の所為だってば。勇者は太らない。故に立ち上がった拍子にズボンが破けることもありえない」
「際ですか……」
「……お花を摘みに行ってくる」
「了解」
リシアはオシャレで持ったカバンでおしりの部分を隠しながらひょこひょことトイレに向かう。
そんな彼女を見送ってから、俺は先に二人分の会計を済ませると店の外に出た。
本当に締まらないのな。
こいつといると、必ず何かしらのオチが待っている。
前世は大道芸人だったのかな?
因みに、彼女のために弁明しておくと、リシアの体型はあくまで標準だ。
ただ、元々奴隷だった子達にも言えるのだが、我が家は食事がきちっと摂ることができるので、肉付きがよくなるのだ。リシアはベジタリアンなのでそこまで顕著ではないが。
俺やペトラ、ロイヤルガールズは元々しっかり食べていたので変わらない。しかしリシアのように戦場を転々とし、満足に私生活を送れていなかった子達は十分な睡眠や食事を摂ることのできる今の環境で、体型が変わったりするのは珍しいことではない。
いやらしい意味でなく、リシアも前より女性らしい身体付きになっていた。故に──
「ねぇ、そこのお姉さん。ちょっとお茶しようよ」
いやらしい意味で捉える馬鹿が沸く。
全く、この世界は本当に『お決まり』が大好きだな。
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