一面
「リシアーいるか〜?」
『なに? 今ちょっと手が離せないんだけど?』
念話で声を掛けるとリシアからは少しくぐもった声が帰ってきた。
「何してんの?」
「今こまっつなぁーとネイギィーとくぁーぶの収穫中なの」
多分だけど小松菜とネギとかぶだな。
我ながら、異世界語にもだいぶ慣れたと思う。
そっかぁ、もう収穫の時期か〜。
俺たちがここに来た時はペトラが壊滅させたせいで、ほとんど瓦礫の山だった。
今俺がいる教会だって、一階は雨風に晒されていたしな。
そう考えると長い半年だった。引きこもってた9ヵ月よりも余っ程濃度が濃い。
「まぁいいや。後で話があるからさ、終わったら来てよ」
「はいはーい」
俺は念話を切ってその場に寝転ぶ。
さてさてどうしようか。
具体的にはリシアに用があるのは明日か明後日。
それまでに俺は俺で計画を進めておこう。
「で?何の用?」
リシアは思ったより早く帰ってきた。
入浴も既に済ませているようで若干髪が湿っていて、頬も赤い。
「ああ、実はさ、みんなでどっかに旅行に行きたいな!と思ってさ、こっちの世界に詳しいリシアに聞こうと思って」
「別に、私もそんな詳しくないけど?元々貧乏な村の農家出身だから旅行なんてできっこないし、勇者になってからも戦場巡りくらいしかしてなかったから」
「そっかぁ〜」
「というか、なんで私なの?他の子に聞けばいいでしょ?」
「いや、みんなにはサプライズにしたくてさ」
「ふーん。それで私、なんだね」
「……なんか機嫌悪い?」
「別に!」
うん。これ、確実に機嫌悪いわ。
なんで怒ってんだ?
「またペトラにからかわれたのか?」
「……っ!そんなんじゃないけど!」
からかわれたのかー。
けど、それが理由じゃないのは、アホな俺にもわかる。
「リシア、明日2人で出掛けないか?せっかくの機会だし、みんなに楽しんでもらえそうなとこ、一緒に探しに行こうぜ」
「2人で?」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど……本当に私でいいの?」
「そりゃもちろん、リシアと行きたいけど……なんかまずい?」
「そうじゃないけど。翔太ってさ、私に用がある時しか話し掛けて来ないよね?私と行っても楽しくないんじゃない?」
……言われてみれば。最後に雑談したのだって、かなり前だと思う。決して日常の中で会話が少ないというわけではない。だけど、そのほとんど全てが事務的な会話だ。
「……っ!」
馬鹿か、俺は……。
まるで、頼りっきりの道具のような扱い。
ふざけるな。の〇太くんでさえ、ドラ〇もんの事は労わっているというのに。
「ごめん……リシア」
「ん。別にいいよ。ちょっと、寂しかっただけ。私だってサプライズとかあった方が嬉しいんだから」
リシアは結構素直に気持ちを伝えてくれるよな。こういうところ、結構好きだ。
鈍感とまではいかないまでも、察しの良くない身としては本当に助かる。
「じゃあ、改めてお願いします。明日一日貰っていいか?」
「うん。わかった。デート、楽しみにしてるね」
リシアははにかむと、そのまま階段を登って行く。
──あれ、リシアってあんなに色っぽかったっけ?
少し鼓動が早くなった俺は少し熱くなった顔に手をやる。
ずっと男友達のように思っていた彼女の今までとは違う一面。
「だから俺、ギャップには弱いんだって……」
そんな事を思いながらごろんと寝転ぶ。が、
「きゃっ!」
──ゴロゴロ、ガシャン。
階段から短い悲鳴と何かが転げ落ちる音が聴こえて来たので、あっという間に目が覚めた。
やっぱりリシアはリシアだ。
ブックマークありがとうございます!
ポケダンとどう森どっちやればいいんでしょうか。




