増えてる
そっかぁ。
やっぱり、私ってショータの事好きだったんだ……。
私はどんな顔をして翔太と話せばいいのか分からないまま彼らの住む教会の中へと入って行った。
「え……っ?」
教会の地下三階、本棚に囲まれた一部屋。
その隅でショータは──ボンキュッボンのグラマー女子と、犬耳の幼女と川の字で眠っていた。
これだけの女の子に囲まれて生きているのだから、愛人のひとりやふたりいるのも仕方ないかもしれない。
だけど、あんた……子持ちだったの!?
ショータと銀髪の女性の片手ずつを握って幸せそうに眠っている獣人族の子供はくぅ、と幸せそうに寝息を立てる。
んぬぬぬぬぬ!
「オリヴィアさん?人族と魔族から獣人族は産まれませんよ?」
「へ?あ、そっか!そうでしたわ!」
リーシャ──理沙さんの発言に、心底ほっとする。
ショータへの恋を認めてから、やたらと感情が揺れ動くようになった気がする。
へらへら不良野郎のくせに生意気よ!
起きたら一発殴ってやらないと気が済まないわ。
けど……子供がいないならまだ割り込む余地はありそうね。
今彼の傍で寝ている女性も、ショータに惚れているのかしら?
……って、あれ?おかしい。
どうしてさっきからショータとどうこうする事ばかり考えているのだろう。
私は公爵家の娘、ショータは誘拐犯で犯罪者。
彼と添い遂げるには誘拐でもされない限りはありえない未来だろう。
「んっ……」
一瞬、そんな未来を想像して、直ぐにかき消す。
無理矢理攫われるのも悪くないなんて、1ミリも思ってないから!
我ながらどうかしているとしか思えないわね。
ありもしない未来を妄想して心躍らせるなど、具の骨頂。全く現実に即していないわ。
「って、あれ?」
ここに来てようやく違和感に気が付く。
「ショータって髪の毛赤じゃなかったっけ?」
「あれはただの変装でございます。主様は宇宙人でございますゆえ」
私の問いに答えたのは白銀の髪を持つ女性。
ショータの傍で寝ている魔族の女性に負けず劣らずのダイナマイトボディに耳と9つの尻尾が生えている。
同性の私ですら噎せ返るようの妖艶さと色気を纏ったその女性は甘い香りを撒き散らしながら彼に近づいていく。
「主様〜」
蕩けるような声を出すと、狐の姿に変化してそのまま彼のシャツの中に潜り込んだ。
「貴女のペット、他の人にご執心のようですわ」
あの九尾には見覚えがあった。
学園では何度か命を救われている。
確か理沙さんの従魔という噂が流れていたっけ。
「違いますよ。あんな猛獣、私の手に負えるわけないじゃないですか! あれは翔太先輩の従魔です」
「こん……っ」
何やら悶えるような声が聞こえる。
ショータの所有物である事を認識されて興奮したのかしら?それはちょっと気持ち悪いわね。
さすがに風紀が乱れ過ぎだ。
「夕飯の準備できましたよ〜」
上の階から声が届くと、同じ階にいた他の人達が全員のそのそと動き出す。
「オリヴィア様、翔太先輩のこと起こしてあげてください」
理沙さんまでもがニヤニヤとからかってくる。
今日1日でとてつもない弱点を晒してしまったようだ。
私はできるだけ、平然を装ってショータの……翔太の枕元に座る。
「起きなさい」
とんとん、と肩を叩くが反応はない。
ただ、シャツの下からは何やら熱っぽい声が聴こえてくる。本当に勘弁して欲しいわ。
「翔太、起きなさい!夕飯ができたらしいわ!」
軽く頬をつねると、翔太は少し不機嫌に唸りながらも目を開けた。
「ごきげんよう」
「おう。おはよう」
翔太は端的にそう零すと、隣に寝ていた幼女と女性を起こしてうつらうつらと階段を登って行った。
別に期待してたわけじゃないけれど、本で読むような『寝ぼけて抱き枕にされる』シチュエーションはそう簡単に引き起こらないみたいね。
一日を振り返ってみると、本当に驚くことばかりだった。
ここでは種族における身分差がない、ということは予め聞いていた。特にカロリーヌ王女からは口酸っぱく言われていたのだけれど、まさか奴隷と主人が同じものを食べるだなんて思いもしなかった。
私には気を利かせてくれて、一緒に来た料理人のルミナと共に一番風呂を頂いたのだけれど、義姉様がエルフの女性と湯浴みを為さると聴いた時はさすがに空いた口が塞がらなかった。王族と亜人族、余りにもかけ離れた身分だ。
その差がここには無い。
私は翔太の人柄を知っていて、信用もしている。
けれど、彼は犯罪者でここにいる者らも例外ではない。
そんな罪人の衆が世界の何処よりも愛と平和に満ちている。
良い国を作るための教育を子供の頃から受けてきた私にとっては、とても頭の痛い話でもあった。
「こんな世界もあるのね……私の知らない事ばかりだわ」
何となく夜風に当たりたくなった私は教会の階段を登って行く。
『……って!やめ……うに!?』
『す……け……す……から』
教会の1階から何やら声が聞こえてくる。
ひとつは翔太のもの。
もうひとつの声は……誰だろう。どこかで聞いたことがある。
『……うね……だよ!』
『え……はな……い……』
「……!?」
階段を登る度にハッキリと聴こえてくる声。
ついに1階へ登り切ったところで気付いた。
あれ、私の声じゃない!!!
なんで?なんて疑問に思う前に私は動き出していた。
階段を登り切った先の部屋の隅。
火の灯らない暖炉のそばに居たのは半裸の翔太と、その胸にしなだれるもう一人の私。
え、なに?どういう事!?
なんで私がもう一人いるの!?
「おおお、オリヴィアさんや!これはまずいんじゃないですかね!?」
「あら?ろくにお手紙を返してくれなくて?せっかく会いに来た私もほとんど放置で?更にはちょっとしたスキンシップさえ拒むというのかしら?」
いやいやいやいや、何勝手に私の気持ちを的確に言い表しちゃってるのよ!
その通り過ぎてちょっとスカッとしちゃったわ。
「いや、ごめん。わかったから」
「何よ!その投げやりな感じは!私の事嫌いなの?」
「いや、全然!?嫌いじゃねぇよ?」
「そう……じゃあ、好き?」
え!?
何聞いてるの?馬鹿なんじゃないの?
私は滲む手をぎゅっと握り、その光景を見つめた。
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