突撃朝ごはん
「ドワーフの兵士、4000が撤退に成功したようです」
「それはどういう意味だ?」
アンジーの父、アンボルト・ペアーは神妙な顔つきで部下からの報告を受けていた。撤退に成功した、というまるで敵を庇うようなその言い回しに違和感を覚えたのだ。
「実は、敵の指揮官が全員命を落としたとの情報が……」
「現場の、指揮官がか?」
低い可能性だが、有り得ない話ではない。
あの男の実力があれば、もしかしたら……。
しかし、現場に撤退を指示できる人間がいなかったとして、20000の兵士が4000にまで数を減らすだろうか?
これだけの大規模な戦争ならば、国にも軍師を残し、遠くから指示を出せたのではないだろうか。
「指揮官、というのは軍師も含まれます。実は昨夜の時点でドワーフの国では総指揮官が暗殺されていたとの事です」
「なんと!?」
敵の指揮官は、翔太がアンジーと一緒にペアー家に来た時点で粗方片付け終わっていた。
盗賊や忍、暗殺者といった職業に就くケーラ達、陰部隊が先に動いていたのだ。
「5時間で約20000の兵士が死にました。しかも、そのほとんどがあの黒の方舟という組織によるものだと聞いております。あの者達は一体何者なのですか……?」
「……分からない。ただ、安易に関わっていいものではないだろうな」
「そうですか……。しかし、此度の戦争の貢献者として、王に呼ばれた際、説明を求められるのでは?」
黒の方舟はアンボルトお抱えの傭兵という扱いになっている。故に黒の方舟の成果はアンボルトの成果。
近いうちに王城に呼ばれて表彰を受けることとなるだろう。ただ、その際どう説明すればいいのか、アンボルト自身も非常に困っていた。
50人の少女達が20000人の兵士を一方的に蹂躙する結果になるなどと、誰が想像するだろうか。
「大変なことになってしまったかもしれんなぁ」
アンボルトは深くため息をついた。
──〇〇〇〇──
黒の方舟というバカみたいな強さを誇る多種族集団の話でエルフの国が大騒ぎしていた頃、俺は俺で大変な事になっていた。
ひとつめはシンプルに身体が重いこと。
怪我は治ったはずなのに、何をするにもだるい。生きてるので精一杯。動きたくないのだ。
ふたつめが急遽2日間の遠征が入った為に、バイトを無断欠勤した子達のバイト先への詫び入れだ。
この世界、サボりに関してはめちゃくちゃ厳しい。
わざわざ保護者として俺も怒られにいかなきゃいけない。朝から散々である。
そしてみっつめが──
「ね、ねえ!翔太様〜。翔太様は私の家族だよね?」
俺は教会の地下三階でデジャブのようなものを感じていた。何ヶ月か前にも、セレナからこうやって聞かれたことがあったような気が……
「どうしたんだ?急に」
「それが……」
「お邪魔するわ」
「お邪魔します……」
「んなっ!なんでここにいるんだよ!」
あの学園確か全寮制だろ?
俺の目の前には見覚えのある女騎士の姿。
とメイド服の女性。
「何してんだよ、オリヴィア!」
「来ちゃった♡」
「来ちゃった♡……じゃねぇよ!」
「あ、あら?こう言えば喜ぶって聞いたのに……」
何かぶつぶつと独り言をいっている。
「てか髪の毛は?どうしたんだよ」
「切ったわよ。あの髪はレナード様が好きだって言うから伸ばしてただけ。もしかしてあなたも長い方がよかったのかしら?」
「いや、似合ってるよ。短いのも可愛い」
可愛いのは、嘘じゃない。
ただ、髪を切った理由が少し切ないのであまり触れずには置いておく。
すると、突如身体に違和感を感じる。
まさかっ!?
髪の毛ラブ……女性の髪の毛評論家
付属効果:女神以外の髪を褒めると背中が痒くなる。
「あぁ、背中痒い!!」
「へ?あっ、そうね。背中痒いわね」
……??こいつ俺の話聞いてなかっただろ。
「まぁいいや、昼飯くらいならご馳走してやれるけど流石に日が暮れる前には帰れよ?」
「は?何言ってるの?私もここに住むわ」
おっと、話が読めないぞ。
「そこの子が言ってたわ。誰でも歓迎だって」
確かに50人いて更に2人増えたからと言ってなんなんだって話ではあるけども。
「とはいえ私は公爵家の娘。人生ほっぽる訳にもいかないし、住むと言っても春休み中の長期滞在ってことよ」
そっか、なら別に構わないか。構わないか?
いや、構うわ!
構うけど……まあいいか。
我が家の家庭事情についてはどうやらセレナから多少は聞いてるみたいだ。
よかった。何も知らなかったら、どうせこいつの事だから「あんたモテないからって奴隷の女の子ばっかり集めて自分を慰めてるの?本当に救いようのないクズね」ぐらいの事は平気で言うに決まってる。
「まあ、いいけどな。ゆっくりして──」
「あ!義妹ちゃんだ!久しぶり〜!」
奥から顔を出したのはカロリーヌ王女、シレーナ王女、のロイヤルコンビ+理沙だ。
「お、義姉様!生きておられたのですか?それにカロリーヌ王女も!」
「そうなの!」
「私達、みんな翔太さんに誘拐されたんですよ」
「本当ですか?義姉様もですか?」
「そんな感じ〜。今はドナドナ団兼黒の方舟として楽しく過ごしてるよ」
「ドナドナ……団?」
「おう!俺達実はドナドナ団なんだ」
「……」
オリヴィアを納得させるのに30分掛かった。
「そうですか……ご無事で何よりですわ」
「なんで俺に接する時より態度が丁寧なんだよ。こいつ元王女だし、今は俺の方が偉いんだぜ?」
「口を慎みなさい!義姉様の方があんたみたいな……あ、あんたみたいな、あんぽんたんよりよっぽど偉いのよ!」
あんぽんたんだと……
なんて可愛い罵倒なんだ。
というか、表情も前より柔らかくなってる。
性格が変わったのかな?
この前までだったら
「黙りなさいゴミムシ。例え虫の囀りだとしてもシレーナ王女のお耳を穢すと知りなさい。私に殺されたくなくば今すぐに死ぬがいいわ」
みたいな感じだったのに。
「何?お前俺に惚れちゃったの?」
「はあ?馬鹿もここまで来ると救いようがないわね。あんたみたいな奴に惚れる奴なんているわけないじゃない。まぁ、あんたに貰い手がいなかったら渋々、仕方なく私がもらってあげ──」
俺の冗談に対し、過剰な程顔を赤くして反論する。
ここまで嫌がられるとむしろ気持ち良い気が──あれ?最後なんて言った?
「春休み期間は滞在する予定らしいから面倒見てやってくれるか?」
「私はむしろ大歓迎ね!」
「そうか。聞いたか?わかんないことはシレーナに聞けよ?」
「まぁ、私も髪の毛を切って雰囲気も変わったというか?ちょっと魅力的に見えるようになったって部分もあるの。だからあなたが土下座して……え?なんか言ったかしら?」
「お前も今日からうちの家族だ。言っとくけど立場とかうちじゃ関係ないからな?お前もちゃんと働けよ?」
「え、えぇ」
こうして、突如2人の客人がうちに居候する事になった。
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家族達の恋や愛のお話をテーマにしております。
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