開幕
みんなより一足先に出発した俺が戦場に着いた頃、他の家族達はもう既に戦っていた。
こんにゃろ!転移して先に着いていやがる!
何となく恥ずかしくなった俺はアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉を抜くと空を見上げる。
そこには俺が降すべき敵……神の姿があった。
高すぎてほぼ点だけど、あの魔力量は確かに神のものだろう。
「んだよ、神ってのは見下ろす事に生き甲斐でも感じてんのか?」
あの変態ぼっち女神様も夢の中で会うと必ず俺を座らせる。俺が立ってしまうと、女神様が背伸びしたところで身長差的に俺の方が高くなってしまうのだ。
神って、人間以上に人間らしいよな。
そんな事誰も気にしないだろってこだわりやプライドがやたらと多い気がする。だったら──
「おーい、下級神。下級は下級らしく降りてこいよ〜」
プライドの高さを逆手にとってやればいい。
「そこな哺乳類、我に何の用だ」
「うわっ!びっくりした!」
空の上で星と共に光っていた神はいつの間にか俺の後ろに立っていた。せめて人間って呼んでくれ。
一目見た限りでは和装系美男子と言ったところだ。
切れ長の目とやたらと長い黒髪が特徴的。腰には6つの剣を帯刀しており、サーベルから日本刀まで様々な剣が揃っている。
「俺の声に反応したってことはお前、下級神の自覚があるわけか?」
俺の挑発に、刀の神様はスっと目を細める。
「【朝よ】」
攻撃が来る──瞬時に身構えるが、神が起こした行動は攻撃ではない。朝を呼んだ。そう文字通り、朝を。
「ふざけんな……サラリーマンが泣くぜ」
先程まで星の光と魔法だけが照らしていた荒野は爛々と輝く太陽によって照らされた。
ただその事象は正しく神の所業。
言葉一つで朝が訪れるだなんて誰が思うだろうか。
「【恵みよ】」
雨が降り出す──。
先程まで顔を出していた青空は一瞬にして雲に覆われ、木漏れ日が神を照らす。
「神様、世界樹は諦めて貰えませんか?」
これだけの力を持っているのだ。そもそも神と人間じゃ次元が違う。お願いして引き下がってくれるならそれに越したことはないのだが……
「絶」
ぜつ?なにそれ、どういう意味?神様語はわからない。でも、嫌って言ってる感じがする。
だって、ほら──
「……っぶねっ!」
左頬を何かが掠めた。
目に見えない速さで何かが飛んできたということだろう。左頬が焼けるように熱い。
「【吸魔】」
俺は考えるよりも先にスキルを発動する。
一定範囲の魔力を吸収する俺の武器に付与されたスキルだ。神が持つ無尽蔵の魔力からしたら気休めにしかならないかもしれない。けれど、魔力を吸えば吸うほどこの武器の力は増す。
「負けるつもりは1ミリもねぇぞ」
俺は狂化スキルを発動し敵を見据えた。
──〇〇〇〇──
一方、敵本陣は壊滅的なダメージを負っていた。
突如、軍中央の3000の兵士が消滅し、そこに黒服の少女達が現れたのだ。
「お互いの背中を守り合うこと!みんなは目の前の敵だけにしゅーちゅーしてね!」
戦場には不釣り合いな間延びした声。
しかし、彼らは気付いた。こいつが、たった一撃で屠ったのだと。
軍の真ん中から食い荒らすように殲滅を開始した少女達に、最早軍はパニック状態。
完全に機能を失う。
「【刺殺】」
ペトラが一言呟けば何百もの兵士達が地面から生えた針に身体を貫かれる。
それで絶命すればまだいい方だ。
中途半端に生き残ってしまったもの達の苦痛の叫びが更なる恐怖を呼ぶ。
「か、神よ……」
「亜人の神は死んだわ」
祈りは届かない。
1人でさえ化け物並に強い少女が20人以上。
背を向けようものならその瞬間に首が飛ぶ。
地獄でしかない。
「ほーら、ウチが楽にしたる」
刺され、斬られ、燃やされ。
あっという間に5000人もの兵士が命を落とす。
「む、迎え撃て!逃げれば殺されるぞ!」
勇敢な兵士は恐怖しながらも剣を構える。
目の前にいるのは自分の娘ともさして変わりない年頃の少女。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
自らの恐怖心を払う為の腹の底から雄叫び。
そして放たれた一閃は──空を斬った。
「あたしの勝ち」
いつの間にか背後に回っていた少女は振り返る事もなくその場を去っていく。
男は胸に何か温かいものを感じながら、その場に倒れる。背中には鉄の大槍。背後から心臓を一突きだった。
そんな戦場でひとり笑う者がいた。
魔王ペトラだ。
黒の方舟とドワーフ達の実力差は圧倒的。
半径10km圏内に強敵の存在は確認されていない。
そして味方の負傷者もゼロ。
かつてこれほど晴れやかな気持ちで戦いに赴くことが一度としてあっただろうか。少人数精鋭ならばフォローもすぐにできる、何より仲間が死なない。
半年前までならば、仲間を殺された憎しみを糧に敵を殺してきた。そして殺す為に戦ってきた。
何故起こるかもわからない戦争の為に生まれてまもない頃から命を費やしてきたのだ。
だが、今はどうだろう。
戦う理由があり、仲間の死に怯えなくていい。
ずっと忌々しく思ってきたこの力にようやく意味を見出すことができたのだ。
壊すことしかできなかった己の手が誰かの命を繋ぎ止めることに使える事はペトラにとって喜ばしいことだった。
「【ばいばい】」
魔王である以前に心優しき1人の少女の別れの言葉。
彼女は辺り一面を業火に包み、戦場を駆ける。
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