死地へ
俺達が集合場所に着くと、既にほとんどのメンバーが揃っていた。後いないのはリシアとエレナだけか。
他のメンバーはみんな揃ってるみたいだし、先に作戦会議を始めよう。
「よし、じゃあ今回の戦争の作戦会議をはじめるぞ。質問がある際はその都度挙手してくれ」
「「「はいっ!」」」
「……っても、あれだな。まずは情報収集からだな。何かわかった事がある奴いるか?」
俺がそう尋ねると何人かが挙手をする。
とりあえず、順に聞いていくか。
「えっと、ミナちゃんは何かわかった?」
ミナちゃんは中学生くらいの茶髪の少女で、顔に沢山ホクロがある子だ。
「えとな〜ウチが聞いた話やと、ドワーフの兵士は2万、エルフの兵士が2万と8000人くらいらしいで」
そしてエセ関西弁である。
ンー。侵略されてる側で、しかも命に関わる大事なものを守ろうとしている割にはエルフの軍は人数が少な過ぎはしないか?
「元々エルフの軍は4万いたらしいんやけど〜」
そう語るミナの話を引き継いだのは、理沙。
「なんでも、向こうには私と同じ転生者がいるらしいですよ。彼ひとりで1万の軍が滅んだとか」
チート持ちデタラメ過ぎ……。
てか、なんで女神に転生させてもらった奴がたけのこ派の味方をしてるんだ?
というか、そもそも元日本人ともあろう奴がエルフを滅ぼそうとしてるってのがわからねぇ。
エルフ耳は人類の宝だろうに。
「翔太先輩何考えてるんですか?」
「ん?いや、なんでもない」
転生者はひとまず置いておいて、戦場の把握からだ。
「こっちは準備できてるよ!」
シレーナは手元にあった紙を大きく広げる。
彼女は軍師系の職業である地図化スキルを使い、細かくまで戦場を分析したものだ。
「ここから先はシレーナに任せてもいいか?」
「うん!任せて!」
俺はバトンタッチの意を込め手を掲げると、シレーナの右手がパチンと俺の手を鳴らした。
「まず、相手の数なんだけど、2万の他に伏兵が5000人ほどいる。というか、援軍かな。まだ戦場には出てないけど、準備はできてると思うし、状況が変わり次第すぐに攻めてくると思っていい」
すげぇな、地図化スキル。ダンジョンの内部も一瞬で把握できると聞いたことはあったけど、なかなかに有能なスキルだ。
「当然この兵士達は本陣と合流させたくない。ので、ここの兵士にはリリムちゃんを中心として遠距離攻撃の得意な子達に裏から奇襲してもらう」
「が、頑張ります!」
リリムは控えめながらも決意に充ちた表情でシレーナの指示を仰ぐ。そのうちに、ほかのメンバーも決まって11人の小隊ができた。
小隊とは言ってもうちの家族は全員で50人にも満たないので4分の1を割いているわけだけれど。
「理沙ちゃんと、戦闘系の上級職に就いていない子は世界樹の西側を守って欲しい。ここは特にエルフの戦闘力が手薄。怪我人が多くて、数で押されたら多分押し切られると思う。みんなには時間稼ぎをお願いしたい」
「わかりました!」
「はいっ!」
「任せてください」
我が家で戦闘系の上級職に就いていないのは8人。
シレーナは軍師なのだが王族の称号のおかげでステータスがアホみたいに高いのでほかの上級職の子達よりも強い。また、武具錬成や防具練成の職業も戦闘職ではないものの、負けず劣らずの戦いができる。
「その転生者ってのはリシアさんにお願いするとして、残りのみんなはペトラちゃんを中心に敵本陣を裏から叩いてもらう事になる。エルフの兵士──弱い味方はいても邪魔なだけ、できるだけ彼らとは距離を空けて戦うことを心掛けて」
「わかりました!」
「うん!ペトラ頑張るねっ!」
よし、いい感じに決まったな。流石軍師だ。
戦争素人の俺たちにも分かりやすくて的確な判断だ。
なんとしても世界樹を守ってみせる。
絶対みんなで家に帰ろう──
「ごめん、遅刻した」
「遅くなってすみません」
遅刻して帰って来たのはリシアとエレナ。
これで全員が揃った。
だが、リシアは少し表情が曇っていてエレナは服が汚れている。何があったんだ……?
「おい、リシアどうしたんだ?」
俺はリシアの左側によると耳打ちで尋ねた。
2人の様子からしていい事があった、という訳ではない事ぐらい容易に察する事ができる。
みんなの耳に入って士気が下がるような事だと困るので、小声で話しかけたのだが、その意図はリシアには伝わらなかった。
それは彼女の知力のステータスが低かったから、という事ではなく、単純に怒っていたからだ。
「エレナは髪の毛が紫でしょ?翔太は知らないかもしれないけれど、昔から紫髪の人間は嫌われているの。それこそ、この歳まで生きてるエレナが珍し過ぎるくらいにね。翔太と過ごしてたせいですっかり忘れてたけど、エルフの国では特に差別が酷くて──」
なるほど、だからエレナもあんなに汚れているのか。
たった1時間街を歩いただけでこの仕打ちか……。
「途中からは私が一緒に行動したから収まったけど、私の怒りまでは収まらなかった……」
「で?リシア、お前は何をしたんだ?」
嫌な予感……
「放火」
「……え?」
「放火」
「きのこ派の為に戦う光の勇者さん。貴女は何を──」
「放火。家を燃やしてきたの。エルフの家は木材だからよく燃えた」
「おいおい、放火はないって。日本じゃ殺人に次ぐ重罪なんだぜ?」
「知らない!そんなの知らない!てか、今更いい子ちゃんぶってどうする気?私たちは全員とっくに犯罪者の称号を持ってるでしょ?私はね、盗賊と誘拐犯の称号を得た時から腹くくってるもの。貴方はまだ覚悟ができてないの?」
確かにもう既に犯罪者だからって考えで色々妥協した事はあるけど、自ら進んで罪を犯したいわけじゃないな。
「そう言うのを甘いって言ってるの、そんなんじゃ本当に死ぬわよ?」
話せば話すほど、リシアの機嫌は悪くなるばかり。
そんな俺たちの会話をみんなは黙って見ていた。
ペトラは例外。いつもの様につまらなそうな顔で爪を弄っている。
「わかった。俺が悪かった。さっさと準備に取り掛かろう」
戦争の前でリシアもピリピリしているようだ。
これ以上機嫌が悪くなる前にさっさと謝って退散だ。
「だから!そうじゃないでしょ。今から私たちは戦争に行くの。大事な人が傷付くかもしれない。死ぬかもしれない。翔太はわかってるの?」
「……っ!」
「私が求めてるのは綺麗事とか、謝罪じゃないの。翔太、【覚悟】をもって」
「覚悟……」
「放火の事は別として、翔太の言葉はさっきから全部軽すぎる。死ぬ覚悟、殺す覚悟だけじゃない。ここにいる仲間が死んじゃう可能性だってある。戦場はそういうところ。いくら私たちが強くたって、戦いに絶対はない」
重い言葉だった。
俺たちは強い。
黒の方舟のメンバーのほとんどは人類学最高峰と言ってもいいレベルだ。
だからだ。
慢心していた。余裕だとどこかで思っていた。
楽に勝てるんじゃないかって思っていた。
「ごめん……」
馬鹿だ──リシアとペトラから戦争の怖さは散々聞いてきたじゃないか。そして俺自身、この目でもはっきり見てきたじゃないか。
大事なのは生きること。
家族みんなで明日を迎えること。
その為ならば──綺麗事なんてゴミでしかない。
当然、放火を肯定しているわけじゃない。あれはダメだ。けど、俺の甘さは否定しなければならない。
「総員、命令だ。絶対に死ぬな。これは得る為の戦いではない。失わない為の、ここにいる全員で未来を迎えるための戦いだ。健闘を祈る」
俺は踵を返す。
絶対にみんなで生きて帰る為に。
「しょーたどこ行くの?」
そんなのひとつしかない。
今回の戦争の現況の抹殺──俺が神を降す。
ブックマーク件数80までいきました!!!!
ありがとうございます!
完結までに100までいきたい!




