両親にご挨拶
「私、4分の1だけハイエルフの血が流れているんです」
ハイエルフ──エルフの上位種にあたり、通常のエルフよりも妖精からの恩恵を強く受け継ぐ者たちの事だ。
なんでも、アンジーさんの祖母が元々王族の血筋なのだとか。すごいね。道理てシレーナ達と話が合う訳だ。
きっと彼女にもロイヤルミルクティーみたいに甘々な血が流れているに決まっている。
今度血舐めさせてもらおう。
「この街は今私の父が治めているのです」
「へぇ、アンジーさんの父さんは凄いね。ここはいい街だ」
エルフは今戦場中というくらいだからもっとピリピリしているかと思ったけれど、街の方はそんな事微塵も感じないほど穏やかだ。
「やめてください、お義父さんだなんて。気が早いですよ」
「いや、言ってないけどね?」
「ふふっ。冗談ですっ」
「ならいいけど……」
100歳年上のエルフ。つまりは俺のひいばあちゃんよりも年上な訳で、人族では生きている方が奇跡な年齢な訳で。
なるほど、ちょっと古い感じのこの冗談は仕方ないことなのかもしれない。
アンジーさんは口を隠していた布をくいっと捲ると、そのまま屋敷の門を開ける。
「正面玄関はフェイクです。出ることはできても入れません。罠が仕掛けてありますからね」
そう言ってアンジーさんは先導するようにしてそのまま迂回する。たどり着いた場所にあったのはただの壁。
「開け〜ゴマ」
アンジーさんがそう呟くと、何も無かった場所紋章が現れる。そこに手を翳すとぼんやりとした光に包まれ、紋章が拡大していく。
なんかあれだな。はじめてステータスを測った時を思い出すな。
そんな事を考えている間に木製の扉が現れる。
俺も男の子だしさ、こういうの好きなんだよね、隠し扉とか暗号とか。けど、開けゴマはないかな〜。
ちょっとガッカリだよ。
「では、参りましょう。──パパーただいまー!」
「ふぁっ!?」
パッパだと?いつも家ではリシアやエレナ、カロリーヌといった面子と落ち着いた様子で優雅に紅茶を嗜んでいる彼女が、パッパだと!!!!
なんたる事だ。実にグッとくるぜ。
「この声!アンちゃんか!!!」
慌てて部屋から出てきた男のエルフが猛ダッシュでこちらへと駆け寄って来る。
あかん。ダメやこれ……。
俺はついぞ堪えきれなくなったものを吹き出す。
「んふふふふ。あはははははっ」
「ちょっ、主様?」
アンちゃんって……。
普段のアンジーさんは達観しているというか、やはり大人って感じの余裕があるのだ。
100歳が成人のエルフにとって、彼女がまだ成人して間もないことは俺も知っている。けどさ……アンちゃんって!
「ご、ごめんな。アンジーさん、じゃなくてアンちゃん。ちょっと面白くてさ」
「んなっ!やめてください!あれはお父様が勝手に呼んでるだけで……」
「パパだろ?」
「んぅ~~~~~~~」
アンジーさんは真っ赤な顔を伏せて悶える。
こういう所を見ると、歳も近しく感じてしまう。
と、そこでやたらと長い階段を下ってきていたアンちゃんのパパがようやくこちらに辿り着いた。
「馬鹿者。心配掛けよって」
見た目は好青年と言っても差し支えのないようなアンジーさんのパパ。それでも、アンちゃんを思うその目は確かに父親が子に向けるもので、安堵と慈愛に満ちていた。
「どれだけ心配したと思っている。勝手にいなくなりおって!全く。全く……」
そうだよな。自分の娘が数ヶ月も連絡がないまま行方を眩ませていたのだ。
俺は涙を零す父の背をどこか懐かしく思いながら黙って見続けた。
「して、貴方は?」
しばらくアンジーさんを抱きしめていたパパは彼女の肩から手を離すと俺に向き直った。
「初めまして、俺、翔太って言います。見ての通り、宇宙人です」
俺はクハクが変化しているスヌードで隠れた顔を全て見せる。
パパは俺が人族だということを察知し一瞬、警戒するような目で見たが、アンジーさんの方が「大丈夫だよ」というとそのまま警戒心を解いてくれた。敵感知の反応もない。
「彼は私の新しい家族です。世界樹の事で今日はこちらに参りました」
なんだろ。アンジーさんちょっと堅いな。
「いや、別に俺の前だからって変に気取らなくていいぞ?親子で仲がいいのは誇るべきであって隠すような事じゃないと思うけど?」
「べ、別にそんなんじゃないですよ!お父様とはいつもこの距離感ですから!」
「そう?ならいいけど……」
まぁ、俺からすれば親子と言うより兄妹にしか見えないんだけどね。一体パッパは何歳なんだ?
「立ち話も何ですから、どうぞ奥の部屋へ」
そう言って自ら部屋に案内をしてくれるパパ。
さっきからやたらと俺の顔色を伺ってくるので、正直居心地が悪い。
そんなに人族と亜人族の身分の差って広いのか?
それとも単純に嫌われているのか。
色々と気になることはあるが、まずは世界樹についてだ。その事が無事解決したら一緒に食事でもしよう。
アンジーさんの昔の話、色々聞いてみたいな。
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