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違う、そうじゃない



「ねぇペトラちゃん。やっぱり、私ってみんなに嫌われてるのかな?」


 翔太が学園から帰って来てしばらくたった日の夜、リシアは少し影を落とした表情で、ペトラにそんな相談を投げかけた。


「そんな事ないと思うけどー?なんで?」


「ほら、私、結構特訓とか厳しめにしてるでしょ?」


 久しぶりに翔太と話せるのが楽しいから、というのもあるだろう。けれど最近、訓練の時間になるとやけにみんなが嫌そうな顔をするのだ。


「あー、そうだね!みんな辛そうだもんねー」


「特訓、もう少し甘くしてあげた方がいいかな?」


 リシアにしては珍しく、泣き言のように胸の内を吐露する。彼女としても、できればみんなとは打ち解けたいのだがやはり恐れられているというか、一線を引かれているという事をひしひしと感じてしまうのだ。


 故に対等な間柄であるペトラにその事を相談することにした。


「それ、本気で言ってるの?」


「うん?いや、ただの思い付き」


「ならよかった。ただ、あんまり舐めたこと言わないでね。次言ったら、()、貴女を殺すかもしれないから。それだけは覚えといて」


「うん、ごめん。今のは……私が悪かった」


 リシアにはペトラが怒った理由がわかる。

 わかったから、素直に謝った。


『もう二度と仲間を失いたくない』


 リシアもペトラも思いは同じ。


 だからこそ、彼女達は強くなければならない。

 来るべき、戦いの日。もう二度と仲間を失う悲しみを味わないために。強く育てていかなければならない。


「しょーたはきっと気づいてたよ」


 リシアとペトラが仲間の死に心を痛めていた事を。

 だから彼はキノたちを買う時、執拗に2人の意見を求めた。本当に家族として迎えていいのか、と。


 戦いを避けられない翔太の目標。

 もしかしたら再び仲間を失うかもしれない。

 その時、家族と接していた者を失うよりも、奴隷として扱っていた者を失う方が心の負担も少ないだろう。


「これはリシアの仕事。もし、みんなを死なせたくないならリシアが誰にも負けないくらい強く育てなきゃいけない。──ねぇ、リシアみんなの命と好感度、どっちが大事?」


 夜風に風をなびかせる白銀の少女はいつもより大人びて見えた。


 リシアはそっと目を閉じ……


「私はね──」


──〇〇〇〇──



「ねぇ、私達ってさ、何の為に集められたんだろうね」


 リシアとペトラのふたりが教会の外でそんな事を話している一方で、地下三階では家族会議が行われていた。


 彼女達は知らないのだ。

 翔太に誘拐され、家族として迎え入れられた理由を。


 この家で彼女達が一番に求められるのは強さだ。


 故に、彼女達はペトラとダンジョンに繰り出して経験値を得て、リシアと特訓して努力値を得る生活をしている。


 だが、逆に言えばそれ以外を彼は求めない。


 これだけ美女が勢揃いにも関わらず、翔太が身体を要求してくる事はないし、家事もお手伝い程度だ。


 その割にはお小遣い程度にはお金が貰えて、1日3食食べられる。


 毎日お湯に浸かれる環境を考えれば普通の平民よりいい生活をしている可能性も否めないほどだ。


 だからこそ、わからない。そこまでの待遇をしてまで、一体彼は何を求めているのか。


「何か予想がつく方はいますか?」


 エレナの進行に沿う形で皆が頭を捻る。


「以前、翔太様は家が欲しいと言っていました。個室を得てから、夜を楽しむつもりなのではないでしょうか?」


 1番に口を開いたのは健康的な褐色肌の少女だ。


「いや、でもそれだと私たちが日々強くなるための鍛錬をしている理由にはなりませんよね?」


「……確かにそうですね」


「けど、あの人多分むっつりですよ?」


「あ〜」


「分かるかも。絶対童貞だよね」


「全然がっつかないよね。草食系って奴?」


「けど、17歳で童貞ってのも珍しいよね。顔は結構かっこいいと思うけど」


「とかいうけど、あんた21だろ?」


「私はずっと檻の中だったからね。そんな事言ったら100歳越えのしょ──痛っ!」


「しょ、処女はステータスです!」


 知らぬ間に中傷される翔太。


 下品な意地の張り合い。


 しかし、ガールズトークとは基本このようなものだ。

 むしろ全然優しい方。ともかく、こういうのは男の知らなくていい世界だ。


「話が脱線してますよ」


 エレナは呆れたように咳払いをすると、話を再度進行させる。


「他にはありませんか?」


「冒険者ギルドを作るつもりとかではないでしょうか?」


「冒険者ギルド……ですか?」


「はい。最強の冒険者ギルド。そのギルドには見た目の麗しい女性が多く、一人ひとりが勇者に匹敵する力を持っている!みたいな!」


「「ありえる!!!」」


「けど、今現在既に魔王と勇者が、一緒に生活してるんですよ?なんか規模が小さくありませんか?」


「はぁー?じゃあ、他に何があるってんだよ」


「なぁなぁ、ウチに心当たりあるんやけど〜」


「ん?なんかあるの?聞きたい」


「世界征服ちゃうん?」


「「「世界征服!?」」」


「確かに、その気になればたった一人で星を塵にできる魔王と、それに対抗出来る勇者、世界の炎を司る聖獣と、異世界から来た宇宙人。こんなメンバーがいて、世界征服できない方がおかしいと思う」


 ──ゴクリ


 どこからともなく、息を飲む音が聞こえてくる。


「翔太様はこの世界を掌握するつもりなんだ……」


「じゃ、じゃあ、つまり私たちが訓練してるのは新世界の王の最強軍隊になるためって事?」


「「「新世界の王」」」


「おいリリムなに、ニヤニヤしてんだ?」


「いえ、えっと。すみません。ただ、翔太くんが王になるなら私はお姫様だなって思いまして……」


(((この女既に結婚したつもりになってやがる!)))


「やめといた方がいいですよー、主って結構だらしないですからねー、私ぐらいしか務まらないですよー」


(((さ、さり気ない自己主張!キノちゃん尊い)))


「まぁ、私的には普通にリシアさんとくっつくと思いますけどね」


(((カロリーヌさん、それは言わない約束です)))


「あ!な、泣かないでよ、リリムちゃん!正妻だけが全てじゃないから!きっと、リリムちゃんなら5番手以内には収まるって!」


(((フォローがどちゃクソ下手ですけど!!)))



 そして、勘違いは加速していく。





ブックマーク、評価毎度励みになってます!

ありがとうございます!


今回から新しい章に入りました!!!


かっこいい主人公とヒロインたちが見えるとおもいます。普段とは一味違った彼ら、彼女らを是非ご覧ください!!!

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