オリヴィアVSレナード
「あ、見つけました!卑怯者!」
随分と失礼な声掛けをしてきたのは転生した元日本人の少女、リーシャだ。
「誰が卑怯者だ!」
「変身中と決めゼリフ中は攻撃をしないのが日本人のお約束じゃないですか!」
「お前の常識を俺に押し付けるな!こっちだって勝たなきゃいけないんだよ!」
「なんですか!そんなに私が欲しかったんですか?」
「あ?お前なんかただのおまけだよ」
「ヒドイ!貴方女神様から気に入られてるからって調子に乗らないでくださいよ!」
「そんなこと言ったら、いつの間にかお前なんて聖女になってたじゃんかよ?」
聖女にクラスアップできるのにチート能力は与えられないって、一体どんな制約なんだよな。贔屓だ!
「まぁ、女神様は優しいですからね。というかきのこ派とたけのこ派で争ってるってどんな世界感ですかって思いますよね。クスクス〜」
どうやら女神様との会話で、この世界の現状についても多少把握しているらしい。
この馴れ馴れしい少女は軽々しく受け止めているようだが、実際かなり根深い問題である。
「それ、外で言わない方がいいぞ?この世界のヤツら割とマジだから。きのこを崇める国とかあるからな?」
「ええー!そうなんですか!私たけのこ派なんですけど、どうしたらいいですかね〜」
「俺はア〇フォート派だ」
「貴方もほとんどたけのこ派じゃないですか」
「それな」
「あはははっ。それなって!やっぱり日本人なんですね」
確かに異世界じゃ、カタカナ言葉も通用しないし、食べ物の発音も変だしな。
オリヴィアもピーマンの発音ぴーまあーんだったしな。
本人がシリアスな顔してるからツッコめなかったけど。
「それで?オリヴィアには謝れたのか?」
「はい。ちゃんと謝れました」
「よかったな。んじゃ、オリヴィアの試合、早く見に行こうぜ」
「はい」
──〇〇〇〇──
「やってるなぁ」
オリヴィアとレナードの試合はかなり白熱している。
オリヴィアの武器はこの前折れた細剣とは違い、女性にしては珍しく長剣を使っている。
レナードの方はというとリーシャと同じような杖に魔力を乗せて、剣のように扱っている。
鑑定眼では見ることができないが、ぱっと見、オリヴィアの剣術スキルのレベルは6、レナードが4と言ったところだろう。
うちの家族は殆ど全員がスキルレベル10だが、寮生活で、ろくにスキルポイントも貯めれていない彼ら彼女らがこのレベルに達しているのはかなりの実力だと思う。
まぁ俺はこの世界に来た時、剣術スキルのレベル7だったけどね。
オリヴィアは多彩なる技でレナードを攻め立てるも、なかなか勝負がつかない。
それはステータス差によるもの。
王族の称号はそれ程までということだ。
「ねぇ、翔太先輩。オリヴィア様が展開してるのって……」
先輩ってなんだ?とも思ったが、彼女は前まで中学生だ。年上には先輩と付けるのが身についてるのかもしれないな。
まぁ、今は同い年だけど。
「あれは精霊魔法だ。精霊に魔法の制御を任せてるから剣を振るうことに集中できるんだろうな」
オリヴィアは先程から詠唱する様子を見せない。
彼女の代わりに精霊たちが魔法が展開してレナードに攻撃をしているのだろう。
「レナードは何属性の魔法が得意なんだ?」
「確か、火と地でしたね。特に火属性の魔法は先生をも凌駕するとか。──ほら来ますよ!」
「【フレイムスピア】!」
レナードが発動したのは炎でできた無数の槍。
オリヴィアも魔法を展開して、剣一本で対抗する。
「実力はほぼ互角って感じだな」
オリヴィアの洗礼された剣劇はレナードの動体視力を上回る。しかし、レナードも決めにかかった一撃を上手く躱し、反撃する。
一進一退の攻防。
混じり合う剣。
そして──
片膝を着くオリヴィアと杖を彼女の首に当てるレナード。
勝負ありだな。2人はそのまま硬直を続ける。
オリヴィアの結界はまだ壊れていないけど……こういった決着の付き方もあるのかな?
そんなふうにして見ていると、途端に、レナードが足を蹴りあげた。
「は?」
その蹴りはオリヴィアの腹部に刺さる。
「どうした、オリヴィア。試合はまだ終わっていないぞ」
レナードは小さく吐き捨てるかのようオリヴィアに告げると、剣を構えて距離をとる。
「ふざけんな!」
俺は選手用観客席から中に乗り込もうとするが、その手をリーシャが掴んだ。
「待ってください。レナード様が言ってることの方が正しいです。審判は判定をしていませんでしたし、オリヴィア様の結界も壊れていませんでした」
「けど──」
「これはあくまで大会です。ルールに則って行われる闘いです。戦争や喧嘩とは違うんですよ?」
「そっか……そうだったな」
リーシャが言っていることはひどく正しい。
しかし、その言葉に1番納得していないのもまたリーシャのように見えた。
お前が耐えるなら、俺が口を挟むことはできないじゃないか。
「立て、オリヴィア」
レナードは低めの声でそう言うと、火属性魔法を詠唱する。大気を震わすようなその膨大なる魔力は辺りを包み、地を燃やす。
「……っ」
俺はその様子を見てぐっと息を飲む。
その魔術は正しく一級品で、うちの家族たちにも引けを取らないものだ。
レナードは微かに唇を動かす。『お前のせいだ』と。
その言葉が示すのはオリヴィアへの憎悪。
『燃やせ。我が道を阻む者。我が覇を遮る者。大いなるその力で闇を穿つ』
レナードの詠唱。燃え上がる黄金の炎はやがて黒く濁り出す。
「【アトミック・ノヴァ】」
そして俺はまた、その光景を観客席で見つめるだけ──
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