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プロポーズ



 俺は順調に試合を勝ち進み、大会もいよいよ終盤。

 次の試合はついにBグループの決勝だ。


「これって本当に魔術大会って言っていいでゲスか?」

「兄貴の奴まだ1回も魔術使ってねぇじゃねぇか」

「ビンタだけで決勝進出って、前代未聞過ぎるでごわす」


「兄貴、決勝戦では魔法見せてくれるすよね?」


「答えはノーだ」


「スカしてやがる」


 だって恥ずかしいじゃんか。

 人前で魔法詠唱ってどんな拷問ですか。


 まぁ、だからと言って、魔法を一切使わないつもりもない。BEST3を決める方の大会になったらちゃんと魔法も使うつもりだ。じゃなきゃ多分勝てないしな。


 特にレナードは王族だ。きっとシレーナやカロリーヌのように称号から多大なる恩恵を受けているとみていい。


 単純なステータスだけだと、俺は未だに王族には勝ててないからな。特に魔力でいえば、俺よりシレーナの方が4倍近くある。


「では、魔術大会Bグループ決勝戦です!ショータ・コン・ルーザス対ジーク・カンチ・ヨウイチ!」


 なんか面白い名前してるな。

 多分日本人だったら虐められてると思う。



「構えっ!」


「礼っ!──始めっ!」


 俺は掛け声と同時に疾走し間合いを詰める。

 先手必勝だ。


「【ミスト】!」


 突如立ち込める霧。


「やべ、見失った」


 これは水属性魔法のミストだ。目くらましの効果があり、授業でもウォームアップで必ずやらされる。


「~~~~~~~~~」


 何かが聴こえる。これは……詠唱か。

 視界を奪われ、更には小声での詠唱。完全に俺の対策をしてきている。


 決勝戦ってだけあって相手もかなり頭がキレるようだ。


「【ウォーターブレード】」


 俺の背中に衝撃が走る。どうやらジークの攻撃が被弾したらしい。


 この結界、痛みまでは消せないらしく、ムチで叩かれたような痛みが背中に広がった。


 懐かしいな、昔を思い出す。姉貴は手加減を知らなかったから、当然お馬さんごっこ中にムチを振るう時も全力だった。子供の頃だったからいいけれど、今やられたら肉が裂けるに違いない。


「どうする……」


 思い出に浸る余裕は無さそうだ。


 状況は良くない。


「~~~~~~」


 詠唱の声は微かに聞こえる。しかし、方向までは分からない。危機感知スキルも流石に方向までは教えてくれないからな……仕方ない。


「【風よ】」


 俺は両手を広げる。無詠唱魔法なら見せてやるよ。


 その瞬間強風が吹き荒れ、あたりの霧が一気に晴れる。


「見つけたぞ!」


 俺は狼狽するジークに向かって一直線に疾走し──


「【アーソパンチ】!」


 身体強化で底上げしたパンチをジークの顔面にお見舞いした。


「ぐふぁっ……」


 倒れるジーク、結界強度は0。


「しょ、勝者、ショータ・コン・ルーザス!」


「……」



「……」



「……」



 観客は唖然。

 皆が皆言葉を失う。


 それも仕方の無いことかもしれない。

 開始早々霧が立ち込めて、晴れたと思ったらパンチ一発でケリが着いてしまったのだから。

 観戦してる側からしたら全く見応えのない試合だったに違いない。


 まぁ、なんであれ、俺の勝ちだ。

 

 俺はキメ顔でその場を去った。


──〇〇〇〇──


「遂に4人が出揃いました!」


「2年Aクラス、レナード・ターブン!」


「同じく2年Cクラス、リーシャ!」


「2年Cクラス、オリヴィア・カサンドル・ヴァシュラール!」


「そして2年Cクラス、ショータ・コン・ルーザス!」


 ──うおおおおおおお!!!!


 巻き上がる歓声になんだか少し感動する。

 俺はステージの上で何百人といる生徒たちからの喝采を浴びる。


 目立って、やっぱり気持ちいい!!!


 明日からはまた家で地獄の特訓の日々。

 今のうちに俺TUEEEEを楽しんでおかないとな。


 特に、審判の「しょ、勝者──」っていうあの一瞬自分の目を疑った反応は実にいい。とても気持ちいい。


「以上の4名による準決、決勝を行ってもらう。尚、試合は午後から。昼休みを挟んだ後とする。では、解散!」


 学長はそう指示し、壇上から降りる。

 俺たち4人もそれに続いた。


 壇上から降りると、さっそくレナードは理沙に絡む。どうやら昼食のお誘いらしい。


 俺は少し機嫌を悪くしながらも、自分の教室へと向かって歩く。


「ねぇ、ショータ?貴方って今日で最後なのよね?」


 自然と俺の隣を歩いていたオリヴィアは、そっと袖を掴んでそんな事を聞いてくる。


「ん?そうだな。留学期間は今日までってことになってる」


「最後に食事でも、どうかしら……?」


 へぇ、オリヴィアさんからご飯のお誘いですか。

 ずっと嫌われてると思ってたけど、意外とそうでもなかったのかな?


「ん?いいぞ!お前友達と婚約者いなくなっちゃったもんな!」


「死にたいの?」


「ん?いいぞ!1度でいいから学食で食べてみたかったんだよな」


「18点」


 俺は学食に向かうため、方向転換する。さて、貴族様のお食事がどのようなものか見せてもらおうじゃねぇか!


「そう。なら行きましょうか。──学食は逆方向よ」


「そうか」


 更に方向転換。

 俺はオリヴィアの2歩後ろをついて行くのだった。



「学校にこんな所あったのかよ……」


 その食堂は圧巻だった。太陽の光がステンドグラスを輝かせ、高い天井にはシャンデリアがいつくも掛かっている。


「あのシャンデリアいくらで売れるかな……」


「馬鹿なこと言ってないで着いてきなさい!この食堂も元は300年の歴史を持つ大聖堂だった場所なのよ」


 えぇ、じゃあ元は女神様と交信する場所を作り替えられちゃったんだ。


『そうよ!そうなのよ!酷いと思わない?思うわよね!』


 悲しみを訴えるようにして、俺の脳内に声を響かせる女神様。

 俺はいつからか女神様が不意に話しかけてきても驚かなくなっていた。慣れってすごい。


『人徳ってやつですかね……』


『あなた最近私に対する当たり強くないかしら?』


『おろ?』


 一応は今でも女神様と交信できるスポットらしい。

 とはいえ、俺以外には全く関係のない話なんだけどね。


「オリヴィア、なんかオススメはあるか?」


「んー。そうねぇ。この時期だとセミの幼虫丼が人気ね」


「誰がそんなもん食うんだよ……」


「あら、宇宙人はみんなこれを食べるのでしょう?私は食べた事無いけれど、男子の間では人気よ?」


 初代勇者の奴、ちゃっかり嘘まで教えてやがる。

 知れば知るほど、本当にクソ野郎だ。


「俺は無難にステーキとスープでいいよ」


「そう。なら私もそれにしようかしら」


  俺たちは同じものを注文して空いてる席に着く。


 あぁ〜、やべ〜俺、食事のマナーとか知らねぇや。

 幸いな事に、オリヴィアと俺は食べるものが同じなので、真似しながら食べればいいか。


「いよいよね」


「ああ。当たるとしたら決勝だ。絶対勝てよ?」


「えぇ、もちろん善処するわ。私だってこれまで頑張ってきたもの」



 ……善処する、か。

 彼女が勝てると言い切らないと言うことは、それだけでレナードが力を待った人間だということがわかる。


 やっぱり王族の称号による補正ってチートだよな。


『仕方ないでしょ?じゃないと、簡単に革命とかされて死んじゃうもの』


 成程、そーゆう事情もあるのか。


『そう言えば、理沙のチートスキルの効果はどんな感じなんですか?』


『あの子にあげた能力は2つよ。悲劇のヒロインと言ノ葉ね』


 悲劇のヒロイン:劣勢時、能力補正(極大)


 言ノ葉:言葉による影響補正(大)、詠唱時、1文字につき威力1.2倍。


 ずる過ぎ!

 マジモンのチートじゃん!

 これ、俺勝てんの?


『貴方には関係ないけれど一応称号には乙女ゲーヒロインってのも付けあるわ』


 付属効果:王族キラー(大)


 いいなぁ。俺の虎の威を借る者と交換してくれよ。



「貴方の方こそ大丈夫なの?貴方、魔法使えないのでしょ?」


「え?そんな事ないぞ?」


 少し心配そうにこちらの様子を見てくるオリヴィア。

 声は全然違うけど、オリヴィアと女神様って話方似てるんだよな。


「あら?そうなの?そっちのブロックでは1度も魔法を使ってないと聞いたけれど?それに、私の怪我を全て治せるほどの回復魔法……ショ、ショータは僧侶じゃないの?」


 顔を少し赤くしながらオリヴィアはそう尋ねてきた。

 名前で呼ぶのに照れるとか、君は本当にギャップの使い方が上手いのね。俺もドキドキしちゃうぜ。


 けど、認知されてないだけで、1度無詠唱で風魔法を使っている。俺は一応魔法系のスキルレベル全部10だし、そこら辺のやつ相手なら無詠唱でも対抗できるんだぜ!すごいやろ!


「俺の職業は狂戦士だぞ?」


「ふふっ。貴方にしては珍しく面白い冗談ね」


「はははっ」


 俺は基本、自らの職業を隠さない。

 本当のことを言っても信じて貰えないからだ。


「まぁ、午後の試合を楽しみにしとくがいいさ。俺の武器も見せてやるからさ」


「そう。なら期待しておこうかしら」


 笑う彼女の目元は相変わらず腫れていた。



──〇〇〇〇──


「魔術大会準決勝、第一試合、ショータ・コン・ルーザス対リーシャ!」


 うおおおぉぉぉぉぉ!!!!


 やっぱりさっきより観戦者が増えてるから歓声も大きいな。燃えてくる。


 俺は轟く歓声の中、すっと片膝を着いた。


 ──待つ。

 

 するとどうだろう。たったそれだけの事で歓声は止み、静かな空間に独特な雰囲気が生まれる。


 よし、そろそろいいだろう。


「リーシャ。もし、この試合で俺が勝ったら──」





      俺と共に来てくれないか?







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