おやすみです!
2週間に一度だけ、日曜日には外出が可能になる。
この情報は予め得ていたものなので、リシアに連絡して、迎えに来てもらうことにしたのだが……
「遅いな」
約束の時間からはもう30分ほど過ぎている。
俺は長時間待てるタイプなので1人でも時間は潰せるのだけれど、如何せん冬だ。普通に寒い。
念話飛ばしてみるか。
『リシア!迎えお願いしたいんだけど……』
『勘違いしないでよね!全然寝てないんだから!』
古典的過ぎるわ!
「しょーた!迎え来たよー!」
数秒後、お迎えに来てくれたのはリシアではなくペトラだった。
「リシアはお化粧が終わらなかったんだってさ!」
「そうか。リシアは何時まで寝てた?」
「1分ぐらい前?」
「だよな。まぁ、早速だけど家に帰ろう」
「ああ、ごめんね。リシアがどうにかして身支度を整える時間を稼げって言ってたから、少し買い物でもしよ?」
「それ言っちゃダメって言われなかった?」
「あっ!いっけなーい!」
ペトラ口を丸く開けて、てへっと笑う。
わかってる。これはわざとだ。
ペトラの腹黒さは俺が一番理解してるからな。
「しょーた、デートしよ」
ペトラは先程までとは違い、綺麗な笑顔を咲かせながら俺にそんな提案をする。まさか、彼女がそんな言葉を使うなんて思わなかった。
クリティカルヒットだ。
「……よく聞こえなかった。もう一回言ってくれ!」
「しょーたとデートしたい」
「もっと、恥じらいを込めて!」
「ね、ねぇ。しょーた?……デートし……ょ?」
「します!行こう!」
「うんっ!」
そうか。俺の人生のメインヒロインはここにいたんだ!
3歳児だろうが関係ないね。俺は好きになったものを好きと言えない人間にはなりたくないのだ。
例え世間が俺を認めなくても、俺は──
「あああああ!!!!!!兄貴!なんでこんな可愛い子にデート誘われてんすか!」
「お前……」
水を差すとは正しくこの事だろう。俺の高まりに高まったテンションは一気に降下していく。こいつらだけには会いたくなかった。
留学初日、俺に焼きそばパンを強請りに来た不良生徒ABCが3人揃って目の前でわーわーと騒いでいる。
こいつらも今では立派な俺の舎弟だ。正直ウザったい。
「この子は俺の許嫁だ。わかったらさっさと消えてくれ」
「ええ!マジっすか!君、本当に兄貴の許嫁なんすか?」
「んー?それなあに?」
「それは、アレっす。将来、結婚を約束した間柄の人っす!あれ、知らなかったんすか?」
やばい。嘘がバレる。ペトラ頼む!どうにかしてくれ!
バタバタとジェスチャーをする俺をチラッと見たペトラはコクリと頷くと、不良Aに対面する。
「しょーたはいいわヅけ!あってるよ!おっきくなったらお嫁さんにしてくれるって約束したよ!」
よしきた!ナイスだペトラ!
許嫁って言えてないけど、とりあえず大丈夫そうだ!
「おっきくなったらっすか!お姉さんは今何歳なんすか?」
「ペトラは3さ──」
「女の子に歳を聞くな!だからお前はバレンタインにチョコを貰えなかったんだよ!」
「す、すいませんっす、兄貴。というか兄貴は貰ったんすか!」
「当然だ」
「嘘ですゲスよね?」
「許さないでごわすよ」
なんだこいつら。
「俺は6個もらったぞ!」
「そんな……」
「信じられないでゲス」
「許さないでごわすよ」
「とりあえず、さっさと散れ!俺はこれから大事なデートなんだぞ!」
「あ、しょーた!もういい感じに時間潰れたからデートはいいや!」
「えっ?でもさ、ほら少しぐらい──」
「早く帰ろ?みんな待ってるよ」
「際ですか……おいクソ野郎共、明日覚えとけよ!」
せっかくのデートの機会を台無しにしやがって!
「覚えとくのは兄貴の方っすよ!」
「生きて放課後を迎えれると思わないで欲しいゲスね」
「許さないでごわすよ」
不良Cは未だに「許さないでごわすよ」しか言ってないけどいいのか?
セリフ考えるのも面倒なほど性格までデブなんだとしたらお前はもう生きるのやめた方がいいな。
俺は爪を弄り出したペトラと共に人のいない路地裏まで行くと、そのまま袋に詰まって転移した。
──〇〇〇〇──
「おかえりなさいませ。ご主人様」
「おかえり〜」
「翔太くん!おかえり!」
上の階から聞こえてくる家族の声に、キノは敏感な反応を見せる。
あるじが帰ってきた!
小走りで階段を駆け上がるキノの足取りが歓喜に満ち溢れている事を本人は気づかない。
「あるじー、おかえりですー」
「おう、ただいま、キノ!良い子にしてたか?」
「なんですかそれ!私は子供じゃないですよー!」
いつも通りの掛け合い、キノは心安らぐ実感を得た。
たとえ恋を知らない少女であっても、自覚できる気持ちはある。
それ即ち、寂しさ。
しょーたと会えなかったこの2週間、彼女は確かに心に隙間ができていたことを自覚している。
そして今、彼女は彼の顔を見て、声を聞いて、その隙間が埋まっていく事を自覚した。
それはつまり彼女にとっての日常が、翔太あってのものになりつつあるという事だろう。
「……な、なぁ。キノ……これは一体どういう事だ?」
教会の地下三階。本棚とコタツしかないようなワンルーム。だったはずの場所に2人は降りてきた。
目の前き広がる光景を見た翔太はまるで頭痛でもしているかのように頭を抱え、その場に蹲る。
コタツの側に積まれた書物。
脱ぎ散らかされた服や下着。
ゴミ箱からはみ出たみかんの皮。
「えっとですね……みんな男性の目が無くなると大胆になるといいますかねー」
大胆?大胆どころの話じゃないだろう。
翔太は目の前の惨状に思わず頭を抱える。
「シレーナとカロは何も言わないのか?」
王女様連中はこういうの耐えられないんじゃないのか?
「言うには言うんですけどねー。自分が片付けるくらいなら出しっぱなしでも我慢する派ですねー。因みに、私もその派の住人です」
「知らねぇよ、そんな派……」
「あ、そこに落ちてる薄紅色の下着なんて、正しくシレーナさんのですよ」
「そうかよ……」
そんな反応をする翔太だが、キノは見逃さない。
鑑定眼発動──
関心5
興奮4
好意5
結論:春野翔太はこの下着に興味がある。
「とりあえず、ざっとでいいから片付けしといてくれ。昼飯は俺が作るから。言っとくけど、これは主からの命令だと思ってくれ」
表面上はいつも通りな翔太はポーカーフェイスでそんな事を言う。目線だけは下着から全く逸れないが。
「はいですよー」
キノに色々と見透かされている翔太は、そんなことを知る由もない。
平然と階段を登って行く翔太をキノは笑顔で見送った。
「次から下着は暖色系を買うことにしましょうかねー」
彼女は要らん所で頭がキレるらしい。
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夜中にもう1話載せます




