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あるある冒険隊



「新しい仲間を紹介します。ショータ・コン・ルーザスくんです。彼はカロリーヌ王女の義弟でもある方です。皆さん、仲良くしましょう。──では、ショータくん自己紹介を」


「はい。皆さんこんにちは。ショータ・コン・ルーザスと申します。短い間にはなりますが、どうぞよろしくお願いします」


 俺は当たり障りのないように自己紹介を終わらせ、用意された席に着く。



 カロリーヌの名前を出してもらってはいるものの、彼女 はこの学園の姉妹校に通っていたわけだから全くの他人だ。どちらかと言うと、ここにいる生徒と関わりが深いのはシレーナの方だろう。ここはシレーナの母校だからな。


 とはいえ、流石はきのこ派1番の美女と呼ばれたカロリーヌ。その知名度は並のものではないようで、生徒たちはその自己紹介に盛り上がりを見せる。


 因みに、カロリーヌは18歳、シレーナは19歳。

 学年は同じだったらしいので、カロリーヌの誕生日はもうすぐなのかもしれない。


 一方、ここの生徒はみんな16歳か17歳なので日本でいうと高校2年生だ。俺と同じだな。


 俺はちらちらと辺りから視線を受けつつも、気にしない振りをして授業の準備に取り掛かる。



 今日から俺は空気系主人公にならなければいけない。


 実力を最後まで隠し切るのだ。


 何故か。


 俺が学園の中じゃ雑魚中の雑魚だからだ。


 そう。決して俺が強者だからではない。雑魚だからだ。


 全員が全員、魔法のエキスパート。

 それに比べて俺は狂戦士。魔法との相性が余りにも絶望的過ぎる。


 一応ペトラや奴隷の子たちと一緒に努力値稼ぎはしているものの、やはり魔法使い系の職業に就いている子達と比べてしまうと、俺の魔法は明らかに劣っている。


 実はミリィにも劣っているのだ……流石に俺の方がミリィよりも痛い詠唱を考えられるのだが、無詠唱で純粋な魔力を比べ合うと、俺の出せる火力は大体ミリィの半分くらい。


「カロに恥をかかせないようにしないとな……」



「なんですかカロって!犬みたいなニックネームはやめてください!」と言いながらぷすんすかしていた家族の顔を思い出し、若干口元が緩む。


 あはは、なんかホッコリするな。


 俺は存外彼女達との生活が気に入っていたらしい。


 今日から1ヶ月間の寮生活。

 寂しくて死ないようにしなくちゃ。




 一限の授業内容は数学だった。いや、算数か。だってこれ割り算だし。


 正直、退屈だ。


 日本に比べ科学の進んでいないこの世界では仕方ないことかもしれないが、ランドセルを背負ってた頃の勉強の復習をするのは何となく、気が乗らない。


 魔術学校と言うぐらいだから朝からぶっ通しで魔術について勉強するのかと思っていたけれど、そうでもないみたいだ。



 俺はノートに分数の割り算を書きながら今後の身の振り方について考える。


 実は先程から敵感知のスキルの反応が消えないのだ。

 明らかに俺に対して害意を持った人間がクラスにた3人ほどいる。


 多分これ絡まれる……。


 実力主義のこの学園で、もし俺が強かったとしよう。その場合に限り、

 良い成績→つっかかってくる生徒を倒す&女の子が仲間になる→少しずつ評価が上がってくる→実はファンクラブもある


 てきな流れになる。


 だが、実際の俺の場合は

 転入生だ!→雑魚かよ→焼きそばパン買ってこい→転入生はバイ菌だ


 てきな流れになる。



 それにただでさえ俺の今の肩書きは敗戦国の王の息子だ。 隠し子なんてほとんど平民みたいなものだし、風当たりは多少強くなるだろう。


 留学生活初日にしていきなりデカい壁が目の前に現れた。


 俺がここでイジメられていたという事実ができてしまうことは、カロリーヌにもセレナにも恥をかかせてしまうことになるからな。どうにかしないと!


 どうにかしないと。


 どうにかしないと……だけど、絶対喧嘩売られて、唾吐かれて、泣くんだろうなぁ。



──〇〇〇〇──


「はっ、負け犬が。今回は道の邪魔になるから助けてあげたけど、次はないわ。この学園にあんたみたいな雑魚は必要ないの。さっさと消えた方がいいわ」


 お昼休み、さっそく貴族に絡まれたよ。

 訓練所の裏に呼び出されたよ。

 焼きそばパン買ってきたよ。

 女の子が助けてくれたよ。


 だけど、女の子めちゃくちゃ口悪かったわ。正義感と言うよりゴミ掃除の一環だったわ。


 まあ、でもお決まりってやつだね。めちゃくちゃ可愛い女騎士だった。暗い茶色の髪をクルクルと巻いて、目は少しつり気味。制服にはお嬢様らしいアレンジが加えられている。


 スケバン並にスカートの丈を長くしており、黒色の制服をまるでドレスのように着こなしている。


 なんで魔法学校で騎士?とも思ったのだが、どうやら彼女は精霊魔法が使えるらしい。

 職業は剣士系でもスキルに精霊魔法があるのでこの学園でも十分に渡り合えているのだろう。


 ちなみに、精霊魔法とは文字通り精霊の力を譲り受けることで力を発揮する極めて稀なスキルだ。


 ある日突然能力に目覚める人もいれば生まれつき扱える人もいるが、有能なスキルであることには変わりなく、そのスキルがあるだけで相当な実力者であると言えるだろう。


「いいなぁ。精霊魔法〜」


「え?貴方、何故私が精霊魔法を使えるとわかったの?」


 何気ない俺の呟きに目の前の女子生徒は過剰な反応を見せる。


 彼女の精霊使いの称号を見た。というのが素直なところだが、本来ステータスの盗み見は御法度だからな。俺は適当な嘘をつく。



「実は俺の家族にも精霊魔法が使える子がいて、何となく似てるなと思ったんだよ」


 こっちは本当だ。


「ふーん。そうなの」


 なんだ?その聞いておいて興味なさげな態度は。


「それで?貴方からまだお礼の言葉を聞いていないのだけれど?」


「あ、あぁ。ありがとよ。助かったわ」


「ふん。まぁいいわ。ほら、さっさと消えて」


「お、おう」


 俺はそそくさとその場を立ち去ろうとする。が、


「待ちなさい」


「ん?なんだ?」

 消えろと言われたり待てと言われたり忙しい。


「貴方、もう少し口の利き方に気をつけた方がいいわ。今回は許すけど次はないと思いなさい?」


「ご忠告痛み入ります」

 俺はシレーナとカロリーヌに教わった付け焼き刃の礼儀作法で一礼する。


「ふんっ。では御機嫌よう」


 彼女は鼻をひとつ鳴らすと、そのまま優雅に去っていった。


 厳しい子だ。他人にも自分にも。

 放つオーラや上品さを見るに多分いい所のお嬢様なのだとは思うが、一瞬見えた手は長年剣を振り続けてきた一人の剣士のそれだった。


 きっと努力家なんだろう。


 だからこそ、軟弱なままに収まる俺みたいな奴が嫌いなんだと思う。


 俺は去り行くその背中を見送り、そのまま近くの階段に腰掛ける。



「へぴちっ!」


 長いスカートの端を踏んだのだろう彼女は思いっ切り転倒すると、キッとこっちを睨んで小走りで走り去って行った。


 ドジっ子属性かな?


 結局、友達作りに失敗した俺は訓練所の裏で、ボソボソと余った焼きそばパンを食べながら、彼女のキャラを考察するのだった。


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