ミリィと雪
「うっわぁ、引くわー」
朝起きて教会の外に出るとそこは一面雪景色。
昔行った秋田を思い出す。
「こりゃあ、雪掻きしないとだめだなぁ」
俺は未だ降り止まない雪を見ながらとぼとぼと部屋に帰るのだった。
「行きませんよー!絶対無理ですー!」
「おい、キノは一応ここのメイドなんだけど?」
「そうですよー!私メイドさんですよー?私の仕事は家事です。家の事です。家の外の肉体労働はあるじがしてください!」
「んぬっ」
この女、本当によく口が回る。それはもう腹ただしいほどに。俺は仕返しとばかりにキノのほっぺをふにふにと抓った。
「ひはいでふ! なにすふんれすか!」
「ははっ。お前ブスだなぁ〜」
「かはいいっていっれるひゃないれすかー」
うーん。何言ってんのかよくわかんねぇな。
「他のみんなは手伝ってくれるよな?」
「「「「はい!」」」」
「じゃあ行こっか! ついでにみんなで雪合戦したり雪だるま作ったりして遊ぼう!」
どうせなら遊びも交えた方が楽しいだろう。
俺は頬を膨らませてぷるぷるしてるキノを敢えて放置してみんなと外に出る。
一人残すのは可哀想かとも思ったけれど、カロリーヌもそこに残ったまま動く様子がなかったので2人にお留守番してもらうことにする。
俺はクハクに全員分のベンチコートを作ってもらうとみんなに着せて外に出た。
クハクが作っているのはあくまで幻術によるものなので、実際は催眠のようなものらしい。
ベンチコートを着ているという錯覚。
ベンチコートが暖かいという錯覚。
そんなものの集まりでできているのだ。
「あれ? てことはクハクに作ってもらった服を着てる子ってのはみんな本当は裸ってことか!」
あかん。変な妄想はやめるんや、ワシ。
落ち着け……。
「お兄ちゃん!はやく遊ぼ?」
──煩悩まみれの俺は幼女に手を引かれ、みんなと合流するのだった。
──〇〇〇〇──
「お兄ちゃん!何作ってるのー?」
ひとしきり遊んだ後、ペトラに邪魔な雪を溶かしてもらい俺はある物を作っていた。
「これは鎌倉って言うんだ。雪で作ったお家みたいなもんかな」
「へぇー! 凄いね!」
ミリィは既に完成したドームにシャベルで穴を掘る俺を見ながら鎌倉をぺたぺたと触っている。
俺は一通り穴を掘ると、中に入って内側からぺたぺたと壁を固める。
うん。2人くらいなら入れるかもな。
「お嬢さん。こっちに来なさい。いい物を見せてあげるからね」
俺は狭い鎌倉の中に幼女を招き入れると、見様見真似で作った七輪を魔法袋から取り出す。魔法袋の見た目は相変わらずの白ブリーフなのだが、最近少し汚れてきたのでいい感じに味が出てきている。
「今からこれでお餅を焼きます」
「おお!」
死ぬ前に1度はやってみたかったんだ。
鎌倉の中でお餅を焼くって、雪の降らない県出身の人なら誰もが1度は憧れると思う。
「火使っていいの? 溶けない?」
「多分平気だと思うよ」
俺もよく知らないけど、流石に崩れるなんてことはないと思う。一応空間魔法で結界張っとくか。
パチパチと音を鳴らす七輪の音が心地よく響く。
ミリィは膨らむ餅を不思議そうに見つめてからこっちを見る。
「ん?」
俺がその視線に気づき目を合わせると、ミリィはにへっと笑い返してくる。
しゅっ、しゅきぴ。
「ミリィ! おっきくなったら結婚しよう」
「ちょっと考えさせて! えっと、お兄ちゃん、今年収いくら?」
「……」
どこのどいつだ! 俺の可愛い天使に余計な知識を植え付けた奴は!
「リシアお姉ちゃんがね、男は財力で選べって言ってたの。男は裏切るけれどお金は裏切らないんだって」
「あいつか……」
全く、子供に話すような内容じゃねぇよ。
俺ですら聞きたくなかったよ、そんな話。
「リシアの言うことは聞かなくていい。ミリィは将来好きな男の子と結婚するんだぞ?」
「わかった! じゃあ、お兄ちゃんと結婚するね!」
「ありがとう。ミリィは可愛いなぁ〜」
「えへへっ」
その笑顔に胸を撃たれた俺は愛おしいという気持ちが抑えられなくなり、ついには味付けを醤油からあんこに変えてしまった。
どうしても甘い物が食べたくなったのだ。
俺はおしるこを作るとミリィに差し出す。
「よく噛んで食べろよ」
「はーい!」
ミリィは元気よく返事をしてから慣れないお箸でどうにか餅を口に運ぶ。
「はふはふ〜お兄ちゃん美味しいねっ!」
「そうだな〜」
俺は笑いかけてくるミリィに癒されながら甘いおしるこを一緒に食べるのだった。
まったく、小学生は最高だぜ!
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?どうした?」
「えへっ、呼んだだけ」
「そっか」
本当に可愛い奴だ。
この世界はミリィにとって決して生きやすいような場所ではないかもしれない。今後、この子を理不尽が襲う事もあるだろう。
けれど、せめて俺の手が届く範囲は、俺の家庭だけは、ただ無邪気に笑って過ごせる、そんな居場所であると約束しよう。
「ミリィ、指切りしよっか」
「お約束?」
「そうだ。大事な大事な約束だ」
俺はミリィの小さな手に彼女の幸せを誓うのだった。
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