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私と君の夜の共同作業



 冬の寒さも深まり、雪の音をしんしんと感じる今日、私は翔太くんと子を成しました。



 一晩かけての共同作業は達成感と共に私に感動を与えてくれました。私は今日この日を生涯忘れることがないでしょう。



「私はちゃんと、ここにいるみたい。ありがとう。翔太くん……」





──〇〇〇〇──



「俺専用の武器が欲しい!」




 翔太くんが目覚めてから2週間ほど経った頃、そんなことを言っているのを耳にしました。



 私の名前はリリム。

 自分で言うのもどうかと思うけれど私はモブだ! はい。モブなんです。

 翔太くんと話すのは料理の時ぐらい。雑談はほとんどした事ないっ! はい。ないんです。



 私が住んでいたのは小さな村で、里に下りてきた魔物の群れに滅ぼされました。

 そんな中私は森の中を必死に逃げて、なんとか生き延びる事に成功したのです。

 しかし疲れ果てた私は森の中で気絶し、次に目が覚めた時にはもう檻の中。私は奴隷になっていたのでした。



 私は並べられた小さな檻の中から街行く人を観察しました。誰が私を買うのかな、なんて思いながらです。今となっては浅はかと言わざるを得ません。

 その時はまだ奴隷になることが、死ぬよりはマシだと思っていたのです。



 私の考えが変わったのは隣の檻に入ってきたお姉さんとの出会いでした。

 お姉さんは獣人族で、今まで仕えていた主人が亡くなった事で再びここに流れ着いたのだと言います。


 昼も夜も働き続ける日々。

 食事も睡眠も十分には摂れないそうで、睡眠というよりは気絶に近いらしいです。

 そんな日々に私は耐えられるでしょうか。無理です。

 私はどうにかしてこの場から逃げる方法を考え、脱走することにしました。



 ……速攻捕まりましたね、はい。



 罰としてムチで叩かれました。痛みで気絶するのは初めてです。

 お姉さんが言うにはご主人様に仕えることになったら、気まぐれで叩かれることも儘あるらしく、ムチ打ちは日課として考えるべきらしいです。



 聞けば聞くほど怖い。私は生きていけるのでしょうか。

 無理です。



 小さな檻の中で蹲る生活が始まって3ヶ月程の時ががたった頃でしょうか。

「この国じゃおまえを買うような奴はいねえな」とおじさんに言われた私は他の国に移動することになりました。


 お姉さんともここでお別れです。


 私はドナドナと馬車にゆられました。


 どうやら今よりも北に向かうようです。



 お姉さんが最後におまじないとしてかけてくれた言葉。

「あなたの旅路に良き出会いがあらんことを」

 その言葉を抱き締め、噛み締め、握り締め、強く生きる覚悟を決めました。


 しかし現実は優しくなんてありませんでした。

 私はルーザス王国という敗戦間近の国に売られました。


 料理人のスキルを持っていた私は兵士のご飯を作る仕事を任されました。朝から晩まで何百人何千という人の食事を大釜で作ります。ムチで叩かれることはありませんでしたし1日の睡眠時間は3時間ほどで他の奴隷曰く、この環境は恵まれている方だそうです。



 それからしばらく時が経ち、ルーザス王国は戦争に敗れ、私たち市民や奴隷は兵士に捕まりました。


 結局どこに行っても私を待っているのは地獄のような日々なのだろう。


 そんな事を考えながら希望を捨てた雪の降る寒い冬の夜、私はご主人様と出会ったのです。



 はい。コレがモブの回想です。過去話です。

 このお話のオチは翔太くんにとって私の存在はちっぽけでも、私には私の物語があって、その中で翔太くんは大きな存在なのです。ということ。

 私は心の底から、翔太くんに出会えてよかったと思ってるということ。です。



 だからそんな彼が新しい武器を欲していると知って私はとっても嬉しく思いました。


「ねぇ! 翔太くん! 良かったら私が武器を作ろうか?」


 私が選択した職業はウェポンマスター。武具作成に特化した鍛治系職業の上級職です。


 本来なら30年程かかる経験値稼ぎをペトラ様とダンジョンにいたハゲたおじさんのお陰で、たった3日で終わらせてしまいました。


「いいの? ぜひお願いしたいんだけど!」


「うん。作ろ! 翔太くんには武器の特徴を教えて欲しいのと素材を持ってきてもらいたいの!」


「おっけー! いくいく! ちょー行ってくる!」


 子供みたいにはしゃぐ翔太くんはとても無邪気で可愛いです。私と同い年なんて信じられません。


 2時間程で帰ってきた翔太くんは何故かすごいボロボロだったけれど表情だけはとても綺麗です。

 肩にはレッドドラゴンを担いでました。素敵です。


 使う素材は風の勇者から奪ってきた聖剣とレッドドラゴンの爪と鱗です。


 聖剣を勝手に改造してしまってもいいのかな? とは思いましたが、翔太くんは聖剣に選ばれたわけではないため、今のままでは力を発揮できないそうなのです。


 それなら、翔太くんを選ばなかった聖剣が悪いですね。



「まず、武器なんだけど、刀って言ってこっち側に反りがあって──」


 どうやら彼が作るのは既存の物ではないようで、少々ややこしいことになりました。


 私たちは粘土で模型を作り、必須事項をまとめます。


「刀は全部黒でサイズは俺と同じくらいかな〜魔術付加でピンク色の雷とか纏わせられる? 雷の魔剣みたいな感じで……」



 翔太くんの要望に応えながら納得のいくレプリカを完成させた時、日は既に沈みかけていました。


「あちゃー、意外と時間食っちまったなぁ」


「寝ないで頑張れば今日中にできるよ!」


「寝ないでって……さすがに体力きついだろ」


「ううん。翔太くん楽しみにしてるもん。それぐらい頑張るよ。だから明日の朝起きるの楽しみにしてて! きっといい作品ができてるはずだから!」


 私に出来ることはこれくらい。料理もできるけれど、それは翔太くんのためではなくて、みんなのため。

 翔太くんのためだけにできるのはこれだけだから。

 奴隷の私を家族と呼んでくれるあなたのためだけに私がやりたいことだから。


「いや、流石に悪いって。せめて俺も起きてる。なにか手伝えることがあれば俺がやるから」



 翔太くんは優しいな。

 彼は犯罪者でこの世界じゃ悪者だ。

 たけのこ派の私にとっては敵派閥の人間だ。

 けれど彼だけが唯一私を必要としてくれた。



 そんな彼に恩を返したいと思う私はいけない子ですか?

 そんな彼の隣で槌を振るう私はダメな子ですか?



 私の心は答えます。私のしたいようにしなさいと。



 嗚呼、邪神様。あなたの心はなんと答えるのでしょうか。



 ──できた。



「翔太くん! できたよ!」



 日が昇り始め、夜が明けていきます。この時間帯が一番寒いらしいけれど、一晩槌を振っていた私は全身汗だくでした。


 翔太くんは座ったまま眠っていました。


 ちょっと前までは起きてたんだけどなぁ。


 昼間は狩りに出かけていたし、無理をしていたのかも。


 私は翔太くんが淹れてくれた紅茶を飲みます。

 もう大分(ぬる)くなっちゃってるみたいです。


 私は道具を片付け、魔法で身体を綺麗にします。


「もう時期朝だ、寝なくちゃ」



 ここは教会の一階で、建物は修理されているとは言え、やはり冷えます。


 私は彼を起こすか少しだけ迷いました。


 翔太くんに風邪を引かれては困りますが、なんとなく起こすのも気が引けたのです。


 私は暖炉に火をつけて、魔法袋からちょっと大きめの毛布を取り出すと翔太くんに掛け、その隣に寝転びました。


「へへへっ、あったかぁい」


「私がここで寝るのは翔太くんが風邪を引かないように人肌で暖めるためです。……だからヤラシイ女だなんて言わないでくださいね?」


 私は翔太くんの背中に手を回すと、その寝顔に言い訳がましく呟きます。


 果たして翔太くんはどんな反応をするでしょうか。

 次に起きる時が楽しみです。

 もちろん添い寝ではなく武器の話ですよ?


「喜んでくれるといいなぁ」



──〇〇〇〇──


 それから数年後、その刀は最凶国の王の愛刀として歴史に名を刻むことになる。


 その刀の名はアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉。


 全てを食らう漆黒の魔剣。


 そんな偉大なる刀の刀身に小さく翔太の名前とリリムの名前が横並びに記されている事実を知るものは、もしかしたら彼女一人かもしれない。






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