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リシアの幸運値


※下ネタ成分少し強めです。


 リシアは激怒した。

 己の幸運値の低さにだ。彼女は生まれつき不幸体質で、ありとあらゆる場面で運がない。


 そして彼女は聖剣を抜いてしまったことでさえ、幸運値の低さのせいにしている。


「私は悪くない。私は悪くない。全て幸運値のせい……」


 今日もじゃんけんに負けて夕飯の調達へと森に向かったリシアは鳥型の魔物を何羽か倒して持ってきたところだ。

 ベジタリアンの彼女にとっては無駄な行為にしか感じられないだろう。


「もう……! 自分で取りに行けばいいのに……へきゃっ!」


 上の空で地下二階への階段を下っていたリシアは何かに足を滑らせてそのまま転げ落ちる。


「いったぁい」


 こういう敵からの攻撃でない場合の痛覚はステータスに関係しない。


 いくら人族で最上級のステータスを持っていようと痛いものは痛いのだ。


「誰? あんなところにバナナの皮を捨てたアホは!」


 これがリシアの不幸体質故の事故か不注意故の事故かは定かではないが、彼女の中では全て幸運値のせいだ。


 リシアはグチグチ言いながら痛むお尻をさすり階段を降りていく。


 そして地下二階から地下三階への階段に差し掛かったところで、彼女の仲間──翔太とすれ違う。


 翔太は眉をひそめてリシアの顔、右手、左手を、確認し少し悲しそうな顔をする。


「真っ赤な顔、嬌声、右手にはバナナの皮、左手でケツをさすっている、そして今いるのはトイレの前……なるほど、実に簡単な推理だ」


 翔太はリシアの姿を見てふむふむと頷き、ゆっくりと目を細めていく。


「な、なに?……どうしてそんな仏のような顔をするの?」


 過去に見た事もないような笑顔だ。それが逆にリシアを不安にさせる。


「いや、なんでもない。あんまり気の利いた事は言えないけど、その、いい声だったぞ! ただ、痔には気をつけろよ?」


「え、どういうこと?」


 本気の本気で彼の言っていることがわからないリシアは彼の言葉の中にヒントがあると感じ、言葉を繰り返す。


「真っ赤な顔、嬌声、右手にはバナナの皮、左手でケツをさすっている、そして今いるのはトイレの前……」


 ──あっ!


 思い至った結論はとても恥ずかしいものだった。


「ち、違う! 違うってば翔太!」


「いいんだ。人には人の性癖がある。俺たちは仲間だろ?」


「認めなくていいから!」


 どうにかして誤解を解きたいのにうまく言葉が出てこない。


「というか! いい声って……私は嬌声なんてあげてない!」


 それは階段から落ちた時にびっくりした声だ。


「あ? でも下まで聞こえてきたぞ? めちゃくちゃ大きな声が。それに『痛い』って声も──」


「あ、あれはバナナのせいで下まで行っちゃったから!」


「そ、そうか。()()()のせいで()()まで()()()()()()のか。わかった、わかった」


「……本当に分かってるの?」


「みなまで言うな。お前の言いたいことはぜーんぶわかった」


「本当に?」


「もちろん。言っただろ? 俺たちは仲間だ。それに誰しもが(初めはみんな)通る道だ(痛いって言う)しな」


 ──どういう事? 確かにあの階段はみんな通るけど……何となく話が噛み合ってなくないだろうか?


 リシアはそんな事を思うのだが翔太がとてもいい笑顔でそう言ったため、何となくこれ以上の弁明をする気が失せてしまい、とぼとぼと階段を下る。



「あ、リシア! 階段落ちたんでしょー!」


 そうして降り立った地下三階でリシアを迎えたのはペトラだった。


「そうなの!バナナの皮が落ちててね──」


「千里眼で見てたよ!」


 ──そっか。よかった。ペトラちゃんには誤解されなかった!


 そして、リシアは自分の言い分を信じてくれるペトラの優しさに歓喜するのだった。



 バナナの皮があそこに落ちていた理由。

 ペトラが千里眼でわざわざ階段を監視していた理由に気づくには知力が足りないし、翔太の誤解を解くには幸運値が足りない。


 なんとも不憫な勇者だった。






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[一言] ちょっとだけ、メロス意識しました?(ニタァ
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