始まりは誘拐ではなく拉致だった
息を吐けば白く空へと登っていく。
季節ももう冬本場だ。
「さみぃなぁおい」
俺は相変わらず努力値稼ぎの毎日だけれど1つ楽しみが増えた。それは──
「お兄ちゃん!ミリィがペトラちゃんと捕まえてきたの!」
そう言って笑う幼女を観察することである。
初めはガチガチだったミリィも今では俺をお兄ちゃんと呼んで慕ってくれる。(呼ばせた)
クハクに跨り浅い森へと向かったミリィとペトラはそこでアヒるるチキンという魔物を生け捕りにしてきたようだ。
「しょーた! これ夕飯? 夕飯だよね?」
「あぁ。夕飯だな! 血抜きをしておいてくれ」
最近では自給自足生活も板に付いてきた。
もちろんちゃんとした食材も買ってはいるが、収入源が確立されていないため、このままではこの生活も長くは続かないだろうという事で、たんぱく質はできるだけ森から得ている。
リシアも畑の土に栄養を与える作業をしているのだが冬ということもあり、野菜を育てるには至っていない。
金だよなぁ……。
強い仲間も増やさなきゃいけないのになぁ。
「育てればいーよ!」
「え?」
「奴隷買ってきて育てればいーよ!」
「そりゃあ、その考えもありだと思うけどさ、その場合俺達が面倒を見ることになるし、余計お金がかかるんだよな」
「また盗ってくればいいよ! ふざけんじゃねぇ!って」
「あれは何回も使えるような技じゃないよ」
「うーん。あ! いいこと思い付いた! 待っててしょーた!」
そう言って転移して消えるペトラ。何かいい策でもあるのか?
俺はペトラを見送ると血抜きをしているリシアとミリィを脇目に魔法の練習を行った。
いかに恥ずかしくなく、強い魔法を放てるかの訓練だ。
魔力もMPもだいぶ育ってきたし最近はいい感じだ。
ちなみに剣の稽古は今日はお休みだ。
狂戦士のスキルである狂化を使うと理性が軽く飛び、まるで自分が獣にでもなったかのような動きをしだすのだ。
故に負担が大きく、最近では週一で休みをもらっている。
冬は耳に木刀が当たると痛いしな。
俺は寒いのが嫌なので火属性魔法を中心に練習している。
この時期に水はできるだけ扱いたいくないしな。
そんな感じでしばらくするとペトラが転移で帰って来た。
「作戦だいせーこー」
ペトラは満面の笑みで俺にサムズアップすると、魔法袋から金貨がぎっしり詰まった袋と女の子、いや女性を2人取り出した。
「どうしたんだ? これ……!」
「西の王国は奴隷制度を禁止してるのに奴隷売ろうとしてた! それって悪い人ってこと! 殺して盗ってきた!」
開いた口が塞がらない。
相手は犯罪者。
だから殺しても問題ないと?
お金も奴隷も手に入ると?
「ペトラお前……」
くいっと首を傾げるペトラ。
まるで自分が何をしたかもわかっていない様子に俺はため息を吐く。
「ペトラお前は天才だ! 最高に天才だ!」
そんな神的アイディア即採用に決まってるじゃないか!
リシアとは大違いの頭脳だ。
仲間は増える。金も増える。一石二鳥じゃねぇか!
しかも相手は犯罪者! 大して心も痛まない!
少しはしゃぎ気味に俺は2人の女性に挨拶を済ませると、家の中で家事をしていると思われるキノとエレナの元へと移る。
「エレナー、キノー」
教会の一階から声をかけるが、返事はない。
どうやら地下一階にはいないようなので2人の奴隷をつれて地下三階に降りる。
「エレナー? キノー? あー……」
エレナは本棚の整理をしていたようで、こっちを見て一礼する。
一方キノの方は床暖に取り憑かれグータラだ。
この女結構ずぶといのな。初めは真面目に働いていて優秀だったのだが、1週間ほどで仮面が剥がれた。
今では自宅警備員予備軍だ。
「あるじ〜、冬はダメです冬はー」
こいつ夏になったらなったで暑くてバテたとか言い出すに決まってる。
誰だよ家族として迎え入れるって言った奴!
「あ! 今私を迎え入れた事後悔しましたね? 女子は視線には敏感ですから!」
だそうだ。
なんか、中学の頃の部活の後輩を思い出すな。こういう奴いたわ。
それに引き換えエレナの方はよく働いてくれる。
この差は多分種族の差だろうな。
キノは別に生まれた時から奴隷だった、というわけじゃないみたいだし。
「今日から2人もここで生活してもらうから色々教えてあげてくれ」
「はーい」
「分かりました」
「あ、それからキノは後でお仕置きな〜」
「んなっ!」
これから家族が増えれば毎日がきっと楽しくなるだろう。いつか来る戦いの日までに俺たちは互いに学び互いを育て、成長していこう。




