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魔王とキャリープレー




「よし、ではクエストを受けようか」


 今後の方針が決まった俺たちは経験値稼ぎのために冒険者ギルドに来ていた。


 どうせ弱い魔物を倒すならついでに金を稼いだ方がいいという判断に至っただけで、決して俺は冒険者になったわけではない。


「んとーよし、これにしよう!」


「どれだ?」


 ペトラの持つ紙に書いてあったのは寺のサウルス5頭の討伐とその尻尾の納品である。


「え?これって初心者の冒険者が受けていいの?」


「大丈夫だよ!転んだだけで死ぬようなオオトカゲだもん」


 そう言えばティラノサウルスって頭が重すぎて、転ぶと起き上がれないみたいな話もきいたことあったな。


 だけどこれは寺のサウルスだろ?同じと考えていいのか?


「見てよ!ほら!推奨職業レベル45って書いてあるぞ?」


「確かに翔太じゃ敵を倒すことはできないけど、大事なのは死なないことだからね」


「それに寺のサウルスよりもネギまの方がよっぽど強いんだよ? ペトラ達に任せてくれれば大丈夫だよ!」


 あー、そう考えたら何となく行ける気がしてきた。


 ネギまも強かったけど、ある程度なら攻撃も見切れてたしな。

 

 寺のサウルスの方が弱いなら死なずに立ち回れるだろう。


「よし、じゃあ、行こっか!」


 俺達は受付のお姉さんにクエストの受注作業をしてもらった。この世界の冒険者にはランクはあるにはあるけれども、低ランクの冒険者グループがが高ランククエストを受けられないなどといった制限はない。


 ちなみに受付のお姉さんはものすごい心配してた。

 リシアとペトラが強いってことをどうにか伝えてクエストを受けてきたけれど、普通に考えたら自殺行為だもんな。


 俺って昨日職業が発覚したばかりのくそ雑魚テイマーだし。


 ともあれ、こうして俺の初めての冒険が始まった。

 女の子に心配されるってなんかいいな。うぇふふっ。






 ──寺のサウルスの頭部はペトラの指パッチンで爆ぜた。

 

 見た目は5m程で、俺の想像するティラノサウルスとほとんど同じだ。違う点があるとすれば、頭の鱗が禿げてるくらいか。


 リシアは俺の隣で見学していて、ネギまとクハクはペトラが殺す前に一撃だけ入れる担当だ。


 そして俺は少し離れた丘の上で、右手の小指で鼻をほじりながら胡座をかいている。


 倒すよりも探す時間の方がかかってるんだよなぁ。

 街から片道2時間の草原を転移で3秒。

 寺のサウルスを探すのにリシアの敵感知スキルで10秒。殺すのに3秒。


「味気ねぇ……」


 俺は()()を差し出し、隣にいるリシアに立たせてもらうと、ルンルンスキップするペトラの後をつけながら背筋を丸めるのだった。


「ただいまー」


 程なくして狩りを終えたペトラが従魔組と帰ってくる。

 俺は()()でペトラの頭を撫でてからネギまと九尾の首や顎を撫でてやる。


 まぁ、これは子供扱いと動物扱いの差異だな。



 俺は血を1滴垂らして紙にステータスを表示する。


 余談だがこの世界で紙の価値は高くない。普通に普及してるし、活版印刷も可能である。






 名前:春野 翔太

 性別:男

 種族:人族

 職業:従魔士

 称号:宇宙人 女神の眷属 視線を潜る者 虎の威を借る者


 Lv:34

 HP:89

 MP:21

 攻撃:41

 防御:56

 敏捷:102

 知力:166

 魔力:40

 幸運:44

 固有スキル: なし

 通常スキル:剣術Lv7 料理術Lv2 威嚇耐性Lv8 体術Lv6 テイムLv1 意思疎通Lv3 念話Lv2 統率力Lv1



「あれ、俺思ったよりレベル高くね?」


「うん。正直ビックリ。私も村では野菜(ベジタリアン)重労働戦車(モンスター)って呼ばれる程度には強かったけど、勇者になる前のレベルは36だったもの」


 リシアさん……あなた村でどんな生活してたんすか。

 あ、でもそう言えばリシアが勇者になった年齢って今の俺と同じくらいだったんだっけ?

 

 俺が家でグータラしてる間にリシアは死線を掻い潜っていたわけだ。

 そう考えたらなんか、うん。


「日本人でよかった!!!」


「このステータスを見るに昨日の段階でレベル32は超えていたと考えて良さそうだね」


「マジで?昨日の間にそんな上がってたの?30分狩りしてただけだよね?」


「ご主人様。実はペトラ様がコハクとの戦闘を行う前にアイスエレファントを一体狩られております。恐らくその影響ではないかと」


「リシア?」


「うん。強い……一応私でも倒せるけど多分相当苦戦すると思う。正直な話、聖剣のバフがかからない相手には私はそんなに強くないから」


 そんなのをペトラは軽々しく相手してきたってわけか……「なぁ、リシアはなんでペトラと相討ちになれたんだ?」



「んぐっ……実は聖剣のバフスキルはかなり優秀なの。私が引き分けたってよりは聖剣が引き分けたみたいなものかな。これは代々勇者の間で秘密にしようって決まってる内容なんだけど、黙っててくれる?」


「うん。黙ってる」


「実はね──」


 曰く、聖剣には2つの能力があるらしい。

 効果は聖剣が持った属性の超級魔法Lv10の無条件習得とバフスキル。

 聖剣のバフ効果が見込めるのは魔族と悪しき心を持った相手のみで、対象のステータス分自身のステータスも上げるというものらしい。



「じゃあ、勇者って負けようがなくね?」


 本来のステータスとペトラのステータス足したら相当になるんじゃねぇの?


 勇者=ペトラ+リシア

 魔王=ペトラ

 って事だよな?



「負けようがあるから引き分けたの。まぁ、私の方が倒れたのは後だったけどね! ペトラちゃんのステータス見たでしょ? あんな馬鹿げた桁のステータスしてたら、私の分のステータスなんて誤差みたいなものよ! しかも見たこともないようなスキルポンポン出してくるんだからっ!」


 いつになく饒舌だったリシアを見るペトラの目は半目だった。


「ペトラってそんなに規格外生命体だったのか」


「うん! 凄いでしょ? でも最初っから強かったわけじゃないんだよ!」


 俺が褒める?とペトラはころっと表情を変えてサムズアップしてきた。

 こいつは裏表があるのか気分屋なのか……

 女の子って怖いよね。たとえ3歳児でも。


「ペトラも修行して強くなったんだな。俺も頑張ら──」


「違うよ! 月を倒したらいっぱいレベルが上がったの!」


「月?」


「うん!月!」


「ほら、月、少し欠けてるでしょ? あれペトラがやったんだ!」


「まじか!」


 俺もこの世界の月には少し違和感を感じてたんだ。


 確か俺毎晩寝る前に「空には三日月が登っていた」ってニヒルに呟いてたもん。


 昨日ぐらいからあれ? 三日月長くね? 今日も三日月? って思い始めてたんだけど、そーいった事情があったんすね。


 まじペトラさんパネーっす!



 うちの魔王は星にすら風穴を空けるお方でした。





ここまでお読み頂きありがとうございます!

今週中にはこの章も終わり、ついに誘拐犯として活動し始めますので、どうかもうしばらく彼のチュートリアルにお付き合いください!

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