不死鳥は鳴いて撃たれる
それから様々な魔物を倒して、レベルが8になった頃。
「ねえ、翔太ってテイムしに来たんだよね?いつの間にかレベル上げになってない?」
「あ、」
完全に目的を見失ってた。
魔物を前にした俺は如何にして敵を討ち取るかだけに集中してテイムのことなんて何も考えてなかった。
「翔太って結構抜けてるって言われない?」
……言われない。家族以外でこんなに話す人、これまで全然いなかったし。
ちなみに、自分で言うのもなんだけど、俺はコミュ障ってわけではない。
ただ独りが好きだっただけだ。こんな世界でも独りで生きていこうとするほどではないけれど。
「俺、次に遭遇した魔物をテイムすることにするよ」
これはフラグや。古龍さんをテイムするためのフラグや。
「気引き締めなあかんぞ」
俺は森のさらに奥深くへと足を踏み入れた。
しばらく進むと、廃村のような所に出た。
壊れかけの家はどれも煉瓦でできていたため、全壊はしていないようだ。
「この村は……」
「うん。ここはこの前ペトラが焼いたとこ」
リシアの呟きはペトラが引き継いだ。
ペトラは魔王だ。当然人を殺してるし、こうやって村や街を破壊している。
ペトラにも思うところはあるようで、いつも明るいその声も今は小さく消えそうだ。
「ペトラちゃんは悪くない。誰も、悪くない」
そう言って慰めるリシア。
ペトラは驚いたようにリシアを見つめ、また落ち込んだように俯いた。
俺もリシアの心境の変化がわからず口が開けずにいた。
本心かただの気遣いか。
魔王と勇者。魔族と人族。
そして、各地では今も尚続く戦争。
傷跡は深い。
しんみりとした空気の中、俺はどんな言葉をかければいいのかわからないまま村を見渡しながら歩いた。
すると、小さな教会が見えた。
人族の祀る神といえばもちろん、あの女神様である。
他の家と同じく教会は半壊しているものの、女神様を模した像は美しくそこに立っている。
「ちょっとお祈りしてくる」
俺は2人にそう伝え教会の中へとむかっ──
「しょーた危ない!!!」
いきなり後ろから襟首を捕まれ、凄い速度で後ろに投げ飛ばされた。
移りゆく視界の中で見えたのは俺が直前まで立っていたところが火の海になっていたということだけだ。
「ぺぎゃっ!」
投げ飛ばされた俺を受け止めたのはリシアの薄いまな板だった。
「豆乳飲んでるか?」
「私、ベジタリアンだから」
そういえば言ってたな。肉を食べるのは野菜たちへの裏切りになるとかどうとか。
確かに大豆は畑の肉と呼ばれているけれど、別に本当に肉ってわけじゃないだろうに。
回る視界が収まった頃、俺はようやく敵の姿を視認する。
そして、驚愕に顔を染めた俺は思わず声を震わせる。
「な、なんでニワトリが飛んでんだよ!」
体長8メートルほどの俺よりでかいニワトリが炎を撒き散らしながら飛翔していた。
鶏冠は小さく、イラストで描いたような見た目の一見可愛らしいニワトリだ。
次の瞬間には鋭く光る鉤爪が俺を目掛けて迫ってきた。
「そうか、俺の眷属第1号はお前か!」
俺は剣を抜くことなく、素早く横に回避する。
この速さ、恐らくステータスは相当高いだろう。
俺は近距離攻撃しかもっていないので、ひたすら回避、からの隙を見て攻撃だ。
俺は一進一退を繰り返しながら少しずつダメージを稼ぐ作戦でいくことにした。
主流は爪による攻撃。広げた翼から放たれる炎は基本目くらましだ。
羽ばたきによる土埃にさえ、視界を奪われなければ俺一人でも戦えるかもしれない。
もちろんステータス差は計り知れない。
一撃でミンチだろうし炎が飛んでくればハンバーグだ。
決して油断はできないが、動きから知性は感じられない。言わばCPUだ。
現にリシアは腕を組んで俺を見守ってるしペトラも……
「ペトラ?」
『吹雪け魂。天より解き放たれるは一筋の槍。闇に黙するはその心音──』
大きな力がペトラの周りを渦巻きだす。
「これは氷魔法の詠唱ね。翔太、下がって!」
俺はその言葉を聞いて瞬時にその場から退避する。
「【アイシクルランス】」
ペトラは頭上に出現した大きな氷の槍に手をかざし、ニワトリの方へと突き出す。
槍は物凄い速さで飛んで行くと、ニワトリの左翼を貫き、地面に縫い付けた。
これにはニワトリもたまらなかったようで「コケーコケー」と鳴いている。
驚いた……ペトラの魔法に驚いたのも勿論だが、俺が1番驚いたのはこのニワトリがあの魔法に耐えたということである。
急所を外したとはいえ、あんなものをくらって生きているなんて、正しく化け物だ。
俺一人でも勝てるかもなんて、思い上がりも甚だしかったようだ。
「しょーた!今だよ!」
「わかった」
俺は暴れるニワトリに近づいていく。
テイムする方法はとても簡単だ。魔物に触れた状態で「テイム」と言えばいい。
相手が受け入れればテイム完了。受け入れなければ受け入れるまでボコって再チャレンジだ。
俺は虎の威を借る者の効果を発動する。
「おい、大人しくしろ」
ビクッと身体を震わせたニワトリは弱々しく鳴くと卵を1つ産み落とした。
俺は全速力で距離を取る。
「リシア、あの卵──」
「うん。多分無精卵だと思う」
「そうじゃない。爆弾とかの可能性はないか?」
「爆弾? はははっ。心配症ね。大丈夫に決まってるじゃん!」
そう言ってリシアはゲラゲラと笑いだしてしまった。
異世界じゃ何があるかわかんねぇだろ?
命は大事なんだぞ!
ただ、なぜこのタイミングで卵なのか……
あ、そういう事か。
昔、聞いた事がある。
命の危機に瀕した生き物は本能的に子孫を残そうとすると。
吊り橋効果もドキドキを錯覚させるとは言ってるものの、元はと言えば強制的に命の危機を感じさせて、子孫を残そうとする本能に刺激を与え、恋愛感情を発露させようというものなのだとか。
まぁ、だからって吊り橋の上で告白するような奴がいないように死を覚悟した直後に卵を産むのもどうなんだろうか。
それに、無精卵だし。
あーでもゴキブリは死ぬ直前に卵を撒くって聞くよなぁ。
まぁいいか、そんなことよりテイムだ。
「俺はお前を殺したりしない。だから、その、無理して今卵を産まなくてもいいんだぞ?」
「ぽっ」
ぽっ、じゃねぇよ。なんで照れてんだよ。
心做しかニワトリの顔が赤いような感じがする。
「俺はお前を眷属第1号として迎えたい。一緒に来てくれるか?」
俺は今見た事、聞いた事を無かったことにしてニワトリに尋ねる。
ニワトリはコクリと頷くと俺の手が届くように頭を下げてきた。
「ありがとう。よろしくな、ニワトリ。【テイム】」
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ブックマーク件数また増えてました!
ありがとうございます!
夜中にもう1話載せると思うので、ぜひそちらもよろしくお願いします!




