考え抜いた答えは考えなかった答えと大体等しい
宿に入った俺たちは夕飯を食べながら今後どうするかについて話し合っていた。
今日はそのままこの宿の2階に泊まることになっている。部屋割りは俺とペトラ&リシアの2部屋だ。
できれば3部屋取りたかったのだけれどリシアが節約を推奨してきたので、2部屋しかとらなかった。
俺的には一瞬足りともこの2人から目を離したくないのだけれど……。
「無難に考えるならペトラちゃんと翔太が冒険者で、私が畑仕事だよね?」
「それは却下だ!」
ただ普通にやってたんじゃ女神様を助けるには至らないだろうし、別の方法を考えなければならない。
そんな取ってつけたようなパクリ人生を送ったって成功するわけがない。
俺、チート能力持ってないもん。
みんなより劣った俺が同じことをしたって待ってるのは失敗だけだ。
「ねぇ、そもそもなんだけどさ、女神様を助けるって何?」
「そう言えば言ってなかったな」
俺は女神様と夢の中で話した事を語った。
恐らく女神様はどこかに捕らえられているということ、俺は女神様を助けると約束したということだ。
「まあ、こんなの、自己満足みたいなもんだけどな」
「自己満足?」
「そう。だから特に理由はない」
出会ってしまえば、見てしまえば、俺はもう目を背けられない。それが俺の生まれ持った業だ。
かつてひとりぼっちだった俺に手を差し伸べた友は言った。
「孤独ってそんなに気持ちがいいの?」と。気持ちがいいわけなかった。
俺は自分の意志であえて友達を作らなかったけれど、独りが好きだったわけじゃない。
ただ自分だけが周りの誰とも違うような気がして、
触れ合ってしまえば壊れてしまうような気がして、
臆病な俺は殻に閉じこもった。
今にして思えばそれは大きな勘違いで、自分は何者でもない、ただの社会の1ピースだったわけだが。
そんな事を馬鹿なりに学んでいた俺はもし女神様が孤独を寂しいと思うなら、手を取ってあげたいと、そう思ったのだ。
だからこれはあくまで自己満足。
俺がしたくてするだけのことだ。
で、俺の人生を満足させるものにするために……あ!
「リシア、ペトラ、差し当っての目標が決まったぞ!」
「へえー」
「なになにー?」
「海賊王に俺はなる」
めちゃくちゃ被ってた。
でも聞いて欲しい。
異世界で海賊王を目指した奴はそんなに多くないと思うんだ!
それに、冒険者になるよりよっぽど人生も楽しそうだと思う。
今俺が欲しいのは戦力だ。人も能力も欲しい。
なら海賊はぴったりだと思う。倒した敵から人員と船を得られるしね!
「海賊? やめときなよ。海賊なんて手当が出ない上に無駄に金がかかるよ? 3人じゃ船も動かせないし、海に揺られていても1日で飽きる。それに私船酔いするタイプだから!」
「ペトラはいいと思うよ! お宝探すの楽しそう!」
「あのね、ペトラちゃん。宝なんて簡単に見つかるものじゃないんだよ? ただの金銀財宝なら錬金術師に作ってもらった方が手っ取り早いでしょ?」
「そっか! ペトラも物質創造スキルあるから自分で作れるや」
「全否定じゃねぇか! 」
強いってつまんないね。
よかったー!
俺、弱くてよかったー!
チートスキルもらわなくてよかったー!
「なんか翔太が無理やり自分を肯定してプライドを守ってるように見えるんだけど?」
き、気のせいだよ。
「じゃあ、逆になんかいい案あるのか? 俺たちこのままじゃ冬も越せないぞ?」
「私は畑を開拓してスローライフを再開したいな」
「ペトラはなんでもいいよ! 2人が一緒なら!」
それさっき聞いたってば!
ペトラすげぇいい子なんだけどな。ほんとうに魔王かよって思う。
「じゃあ、こういうのはどうだ? 困っている人から依頼を受けてお金を稼ぐんだ! そうすれば人脈も広がるだろうしこれ以上にいい作戦はないと思うぞ!」
「なるほど。一理あるかもしれない。具体的な仕事内容は?」
「うむ。よくぞ聞いてくれた! 具体的にはこの街の人から依頼を受けて、魔物を狩ったり、薬草を摘みに行ったり、特産キノコを納品したりするな」
「すごい! すごいよ! しょーた! それならたくさんお金もらえるよ!」
「確かにその案には一考する価値があるかも」
……お前らは俺にツッコミを入れてはくれないんだな。
俺が今言ったのって明らかに冒険者の仕事内容だろ……。
「それ普通の冒険者やないかーい」って誰かが言ってくれると思ってたのに。
「これでペトラたちもお金持ち間違いないね〜!」
「そうだね。意外となんとかなりそうかも」
……あなた達は随分と乗り気なんですね。
「まじでどーすっかなぁ」
どうにかして俺たちの話をまとめた頃、
空には三日月が登っていた。
──〇〇〇〇──
今にして思えば、俺たちがこの世界の秩序に影響を与えるきっかけとなったのは、この会議のせいだと思う。
金策のために始めた行動が、まさか歴史を大きく変えることになるなんて、誰も想像しちゃいなかった。
方や魔王。
方や勇者。
方や宇宙人。
これまで見てきた世界も、常識も、価値観も、点でバラバラの俺たちがこれから織り成す物語は互いの世界を侵食し合いある1点へと収束する。
後に俺たち3人が捥切り取った称号は最低最悪の大罪人。
二つ名は
【人類の敵】
では、そんな罪人達に、
「もしあの頃に戻ってやり直せたらどうする?」
誰かがそんな事を問うたのなら、高級ソファーの上でワインを嗜みながら、声を揃えてこう答えるだろう。
「「「ペトラの作った宝石を売れば簡単に金稼ぎできたよね」」」
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