表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/79

姫騎士とこたつの天才

【おわび】

前話「移動要塞(中)」の続きで、次話は「移動要塞(下)」的な話です。

サブタイトルの付け方良くないので、近いうちに修正します。


 晴れた昼下がり、走行中のキャンピングカー。


 老人アマラから話を聞き、更なる許可をもらって、キャンピングカーはトレーラーが保管されているという場所に向かって、一行を乗せて走っている。


 直人が運転席、ソフィアが助手席。こたつにティアとミミが潜り込んで、子犬はキッチンから和室に移動させたみかん箱の中。

 秋に入ってから、移動中はこのポジショニングが多くなった。

 まったりするみんなのため、直人は超安全運転でキャンピングカーを走らせている。


 そうしていつものようにまったりしながら移動していたが、ふと、床下からガタン、という音が聞こえた。

 全員が一斉にびくっとして、音のある場所を見つめた。


「この下から聞こえたよお兄ちゃん」


 こたつから這い出て、四つん這いのまま床をベタベタ触るミミ。音はそこから聞こえたのだ。


「下? その下は貯蔵庫だけど」

「荷物がずれたのだろうか」


 ソフィアが言う。直人はブレーキを踏んで、ゆっくりキャンピングカーを止めた。


 完全に停車し、静止したキャンピングカー。そこに更に、ガタン、と物音がした。

 荷物ではない、何かが自分の意思で動いた、そんな物音だ。


「ネズミでも紛れ込んだのかもしれないわね」

「そうだとしたら大変だ、食料が食い荒らされる」

「ちょっと確認してみる」

「つきあおう」


 直人が降りて、ソフィアも炎髪を煌めかせながら降りる。ネズミだとしたらオーバーキルだなと思いつつ、直人は貯蔵庫の扉の前に立ち、ロックを解除して、そこを開けた。


「あっ」


 開けた瞬間、中から可愛らしい声が聞こえた。


「ナユタ姫!」


 驚くソフィア。そこにいたのは小さなお姫様、ナユタだった。

 ナユタはちょこんと、膝を抱えて食料などのそばに座っている。


「わー、ナユタちゃんだ!」


 ミミがキャンピングカーから降りて、大喜びで貯蔵庫の中に飛び込んだ。


「わん!」


 更に、子犬がそこに飛び込んでいった。

 車の床下、幼い子供がギリギリ座れる程度の高さしかないスペース。

 そこに幼女二人と子犬が入っていた。

 ミミと子犬が楽しげに笑い、ナユタはなにやらばつの悪そうな顔をしている。


「ミミ、降りて。わんこも連れて」

「はーい」

「ナユタ姫も」


 子供達が次々と貯蔵庫から出た。相変わらずばつの悪そうなナユタに直人が聞いた。


「なにしてんの、ここで」

「あれのもう片方を見に行くのでしょう」

「あれ――キャンピングカーのトレーラーの事か」

「そう、それ。そこにわたしも連れて行ってくださいな」


「トレーラーが見たくて潜り込んだのか」

「はい」

「なんでまた……」


 直人は首をかしげた。見たいとアマラ老人に頼めば見せてくれるはずなのにと思った。

 ナユタの顔は真剣だ、真剣に頼んでいるように見える。


「どうするナオト」


 ソフィアが直人に聞いた。


「連れて行くのは別に構わないけど……これって大騒ぎになるんじゃないのか? この子お姫様なんだろ、いきなりいなくなったらおれたち誘拐犯とかにならないか?」

「それなら大丈夫よ」


 ティアはそう言って、手をかざした。

 手のひらがボゥと光って、魔力が集まる。そこから何か紋章の様なものが現わた。

 いつもの様に指をパチンとならすと、紋章は空気に溶けてくかのように消えた。


「これで良し。アマラには連絡したわ、これでこの子がわたしのもとにいるってわかるはずよ」

「そうか」


 直人は頷き、アマラがティアに向ける態度を思い出して、納得した。

 そしてしゃがんで、ミミとナユタ、二人と視線の高さを合わせて、真顔になる。


「ミミ、それとナユタ」


 びくっとするナユタ、ミミも珍しく見ない直人の真顔にちょっと戸惑っている。


「ここに入るのは危ないから、これからはしないように。ミミもわかったね」


 さっきのキャブコンの事を指して、ミミにもいった。


「わかった!」

「わかりましたわ」


 頷く二人の子供。それでひとまずは話が終わり、全員でキャンピングカーに乗り込んだ。

 直人とソフィアは運転席と助手席、ミミはナユタと一緒に六畳間和室に入った。


「あー寒い寒い」


 ティアはこたつに潜り込んで、暖まった。まだ秋だが、外はすっかり肌寒くなっていて、ちょっと表に出ただけで体が冷えてしまったようだ。


「さっきも気になってたけど、それは何かしら?」


 ティアが潜り込んだこたつに、ナユタが興味津々な様子で聞いた。

 ソフィアは助手席をくるっと回転させ、部屋の方をむいて、柔らかい言葉で答えた。


「それはこたつというのですナユタ姫」

「こたつ?」

「はい」

「こうするんだよナユタちゃん!」


 ミミはそう言って、こたつに潜り込んだ。


「ほえ……」


 ミミはあごを天板の上にのせて、一瞬でほっこりした。


「?」


 こたつの魔力をよく知っている一行にとっては当たり前の光景だが、知らないナユタはキョトンとなった。

 そんな彼女に、ソフィアはこたつをすすめた。


「ナユタ姫も足を入れてみるとわかりますよ」

「こうですの?」


 そういい、ナユタはおそるおそるこたつに足を入れた。


「あら、温かいですわ」

「そう言うものです」


 ティアとミミを見習ってこたつに入るナユタ。貯蔵庫の中に隠れて大分経って体が冷えているのか、こたつに入って「温かい」とは言ったが、二人のようにほっこりとはならなかった。

 逆に、きょろきょろと辺りを見回して、何かを探している様子だ。


「どうしたのナユタちゃん?」

「何か……物足りませんわ」

「物足りない?」

「ええ」

「みかんとかの事じゃないのー?」


 ティアがだらけ切った声をだした。


「そうかも!」


 ミミがこたつから飛び出して、キッチンの方に行き、秋みかんを山ほどのせた皿を持ってきた。

 それをこたつの上に置いて、ナユタにすすめる。


「ナユタちゃん、どーぞ」

「……」


 それを見て、やはり「なにかが違う」と漏らすナユタ。


「おちゃじゃないのー? それかせんべい」


 ティアが更にいう。食べ物ばかりなのは腹ぺこキャラ故か、それともこたつの魔力故か。

 が、それらを全て、ナユタがまとめて否定した。


「たべものではありませんわ」

「では、何がたりないのでしょうか」


 ソフィアが聞く。ナユタは辺りをきょろきょろと更に見回す。視線が上に向けられた瞬間。


「あれですわ。ソフィア姫、あれをとってくださいな」

「あれ?」

「あの布団ですわ」


 ソフィアは小首をかしげつつも、ロフト部分にある自分達が夜使っている布団を下ろして、ナユタに渡した。

 ナユタはこたつから一度出て、床で布団を筒状に丸めて行く。


「んしょ、んしょ……これでいいかしら」


 みるみるうちに、布団がまるで太巻きのようになる。


「それをどうするのですか」

「こうですわ」


 太巻きになった布団を、ナユタはこたつの横に置いて、その間に入った。

 こたつに潜り込んで、背を倒す。すると丁度良い具合に、太巻きの布団が背もたれのクッションのようになった。


「うん、この方がしっくりきますわ」


 ナユタが満足したように頷き、やがて、顔がホッコリしだした。


「あたしもするー」


 ミミがナユタの隣にやってきて、一緒にこたつに入って、布団に背もたれた。


「はわ……」


 さっき以上に――いや過去最大級にほっこり顔になるミミ。

 それをみて、ティアとソフィアは驚愕していた。


「これは……まさか。ソフィア、こっちにも布団を」

「わかってる」


 ソフィアが追加で布団を下ろして、同じように丸めて、L字型にしてこたつの横に置いた。

 ティアとソフィア、二人もナユタのまねをする。

 こたつに潜り込んだまま、クッションに背もたれる。


 ほっこりが青天井だ。


「とんでもないわね……」

「天才ね……この子」


 六畳間和室、こたつに加わった最終兵器。

 魔神と三人の姫がこたつでまったりする。


 直人はくすっと笑い、彼女達の邪魔にならない様に、さっき以上にゆっくりとキャンピングカーを走らせるのだった。

「こたつ コーナークッション」でググってみてくださいな。

……あれは悪魔のオプションだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ