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姫騎士と初めての味

 島の名勝、いちょうの並木道。

 紅葉のじゅうたんの上に女達がいた。

 ソフィアとセツナの鎧コンビは肩を並べて歩き、ティアは一人風景を眺めている。

 ミミと子犬が「くちゃーい」「わんわん」と無邪気にかけずり回っている。


「すばらしい光景だ」

「金色の回廊、と呼ばれるだけのことはある。そなたははじめてか? ソフィア姫」

「セツナ姫は何度も来ているような口ぶりだけど」

「ああ、近くに来ると必ず立ち寄る」

「そうか」

「お姉ちゃんー、ティアちゃん」


 ミミが大声で呼んできた。離れた場所でしゃがみこんで、何かをしている。

 ソフィアが近づいていく。みると、ミミは敷き詰められた紅葉を一カ所だけ全部よけて土の地面を出している。

 そこにもっこりと、盛り上がっている落ち葉の山がある。


「なんだそれは」

「わんちゃん!」

「わん!」


 犬がぱっ、と中から飛び出た。短い足でぴょんと飛び上がる。


「わっ、ビックリした」


 落ち着いているソフィア。


「オゴオゴ、わんちゃんの包み焼きだよー」

「焼いたらだめだぞ」

「うん! わんちゃん、今度はあたしね」

「わん!」


 ミミと子犬は大喜びで落ち葉を集める。

 さっき以上の山を作って、ミミが中に潜む。子犬も一緒に潜り込もうとするが。


「わんちゃんだーめ、今度はあたしの番なの」

「わんわん」

「もう、しょうがないなあ」


 一人一匹で一緒に落ち葉の山に入って、ぱあっ! と飛び出た。

 大人達が風情を楽しむ一方で、幼女と子犬は落ち葉で遊んだ。


「ねえねえ、これってなに。すっごいくちゃい」


 ミミは鼻を摘まみながら、それをもってソフィアに聞いた。


「銀杏、ですわね」


 ティアがゆっくり飛んできて、代わりに答えた。


「ぎんなん?」

「そう、この木の実よ」

「そうなんだ、なんかくちゃいね」


 ミミはぽい、と捨てようとした。


「待てミミ。それを見せてくれ」


 ソフィアはそういい、銀杏を受け取って、まじまじと見つめた。


「どうしたの?」

「くさい……たしかなっとーもくさかったな」

「そうだね」

「これをナオトに見せよう、もしかしたらこれもなにかの料理に使えるかもしれない」

「そっか! じゃあ聞いてくる」


 ミミは銀杏を受け取って、離れた所に停まっているキャンピングカーに向かって走って行った。


「どんな料理をつくるのだ?」


 セツナが聞く。ソフィアとティアは見合わせて。


「「さあ?」」


 声をそろえていった。


「わからないのか」

「うむ、ナオトが作る料理はわからないものが多いな」

「……その男、どこの出身なのだ?」

「さあ?」


 首を傾げるソフィア。


「わたしは遠慮しよう」

「食べないのか?」

「どこの料理かもわからないものを口にするつもりはない」

「うまいのは保証するぞ」

「ソフィア姫には悪いが」


 セツナは真顔で言った。


「市井の食べ物、ジャンクな食べ物を舌が新鮮に感じている可能性もある」


 セツナの言い方に、ソフィアはムカッときた。


「わかった、ならわたしたちだけで食べる。食べない分は全部わたしがおいしくいただく」

「待て、わたし――」

「みなさん、料理ができました」


 ティアの「も」という言葉がでかかったところで、キャンピングカーの中からパトリシアの声が聞こえた。

 ミミと子犬が真っ先に車内に飛び込んだが。


「きゃん!」


 子犬が今まで聞いたことのない、悲鳴の様な鳴き声をあげて、車から飛び出してきた。

 そのままどこかへ逃げ去ってしまう子犬。直後、ミミも姿を見せた。

 手に大皿を持っている幼女も、珍しく泣きそうな、困り顔をしている。

 その皿に、盛りつけられている物体に一同驚愕する。

 虹色のまだら模様に輝く、ヘドロのような物体。

 毒々しいそれは、まったく料理には見えない。


「み、ミミ……それは?」


 ソフィアがおそるおそる聞く。


「オゴォ……お兄ちゃんの料理だよ」

「こんなものがうまいのか!? どうみても毒物ではないかソフィア姫。そなた、目の病を患ったのか」

「ち、違う……ナオトどうしたのだ」


 ソフィアが車内に踏み込もうとする。


「……待ちなさい」

「ティア?」

「これ、もしかしておいしいのかもしれないわ」


 ティアが制止し、ソフィアはいぶかしむ。


「これが?」

「そうよ。だってこれ、ナオトが作ったものですもの。思い出してみなさい、ナオトが今まで作った料理も奇想天外だったけど、いつもおいしかったじゃない」

「た、たしかに」

「ならこれもきっと美味しいわ。食べてみればわかるはず」

「そ、そうだな」


 ソフィアは意を決し、ミミから皿を受け取って、指でヘドロ状のそれをすくった。

 おそるおそると口に運んだ――瞬間。


「――っ!」


 ソフィアは白目を剥いた。全身が硬直して、皿を取り落としてしまう。

 ティアがそれを受け取って、聞いた。


「どう?」

「……」

「やっぱりだめだったのね」


 ふう、とため息つくティア。その間にソフィアが復活して、彼女にかみついた。


「分かってたのかおまえは!」

「そりゃあこの色だし。でもナオトが作ったものだって言うし、もしかしたらって思ったの――その通りに言ったはずよ?」

「くっ――」


 悔しそうに顔をゆがめるソフィア。確かにそうで、口車に乗せられはしたが、ティアはウソを言っていない。


「ど、どうしたんだナオト、こんなものを作るなんて。ちょっと見てくる」

「まちなさい」


 ティアがソフィアを呼び止める。


「なんだ?」

「中に入るのはこれを食べてからにしなさい」


 といって、皿ごと虹色のヘドロをつきだした。


「なっ、何故だ」

「さっき言ったじゃない、『食べない分は全部わたしがおいしくいただく』って。あなた、これ食べる?」


 セツナに聞く。女武人は眉をひそめて首を振る。


「彼女は食べない、わたしももちろん食べない。つまりこれは食べない分よ」

「うっ」

「さあ、美味しくいただきなさい」

「うぅ……」

「食べないの? 王国の姫騎士は口先かしら」

「た、食べるわよ! 食べればいいんだろ!」


 ソフィアは意を決して、ヘドロを再び口に運ぶ。

 再度、白目を剥く。

 強烈な何かが脳天を突き抜け、ソフィアは膝から崩れ落ちる。


「う、うおおおええええ。だ……だめだ……こんなのもう……」

「まだよ、まだたくさん残っているわ」

「くっ……殺せ」

「あら?」

「こんなものを無理矢理食べさせられるくらいなら、いっそ――」

「ふふ、そうはいかないわ。ほら」

「うぅ……」

「そうだ」


 ティアはパチン、と指を鳴らした。彼女から放出された黒い魔力がソフィアを包み込む。彼女の身体が淡く光り出した。


「こ、これは?」

魔神(わたし)の力を一時的に分け与えたわ、これで何があっても……どんな毒だろうと死ぬことはない。ただし味覚は残る」

「えっ?」

「さあ、毒で死ぬ心配はなくなったわ。安心して全部食べきりなさい」

「うぅ……」

「それとも協力してあげた方がいいかしら? 拘束して流し込む事なら出来るわよ」


 もう一度パチンと指を鳴らすティア。今度は何度かみた、拘束用の黒い霧が出現する。

 ティアに二択を突きつけられた。

 自分で食べるか、食べさせられるか。

 悩んだ末、ティアに言う。


「力を引っ込めてくれ」

「ええ」


 パチンと指を鳴らす、拘束の黒い霧が消える。


「こっちもだ」


 そう言って自分を指さすソフィア。

 ティアが目を丸くして驚く。やがてもう一度指を鳴らし、魔神の力も消した。

 ソフィアは皿のヘドロを見つめて、意を決してそれを一気に口の中に流し込んだ。

 例えようのない、強烈な何かが脳天を突き抜ける。

 薄れゆく意識の中、彼女は思った。

 なぜ、ナオトがこんなものを作ったのか、と。

絵がつけばおそらくはモザイクがかかってしまうであろう料理っぽい何か。

直人は何故それを作ったのか……理由は次回!


そして現在発売中の姫騎士とキャンピングカー第一巻、感想が続々と届いております。

皆様の温かい声とても励みになります、本当にありがとうございます!

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