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姫騎士とキャンピングカー  作者: 三木なずな
第三章

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姫騎士とオークナイト(上)

 走行中のキャンピングカー、直人は運転しつつ、ミミに肩車していた。

 その横の助手席に子犬が座っていて、じっとフロントガラスの向こうを見つめている。

 野原の先に松林があり、その地面にまばらと茶色い点々が散らばれている。


「おっ、松ぼっくりが落ちてるな」

「本当だー」

「松ぼっくりか」


 その名前を舌の上で転がすようにつぶやいていると、ミミがピンと来た顔で、興奮気味に聞いてきた。


「面白いの? 松ぼっくり」

「察しがいいな、ああ、子供の頃結構遊んだんだ。それで野球したり、いろんなものを作ったりしたな」

「何ができるの?」

「……作ってみるか」

「オゴ♪」


 ブレーキを踏んで、ゆっくりとキャンピングカーを松林の横にとめた。

 ミミを肩に乗せたまま車から降りると、彼女はひょい、と身軽な様子で地面に飛び降りた。助手席のドアも開いてやって、子犬を外にだした。


「ミミは松ぼっくりを拾ってて、おれは準備してくるから」

「わかった。わんこ、おいで」

「わん!」


 ゴールデンコンビが松ぼっくりに向かっていく姿に目尻が下がりつつ、直人はキャンピングカーの中に戻って、コップと糸を手に取った。コップはこの世界にやってきてから手に入れたもので、表面が綺麗に磨かれた木製のものだ。

 コップに糸をくくりつけて、更に二十センチほどの遊びを持たせて、切った。

 それをもって外にでると、ミミが大量の松ぼっくりを抱えているのが見えた。


「お兄ちゃん、これでいい?」

「ああ、その中から一番好きなのを選びな」

「うーん、じゃあこれ」

「これな、これを糸で結んで……はい」

「コップと松ぼっくり?」

「の、けん玉だ。見てな。もしもしかめよ、かめさんよー」


 直人はコップを持ってけん玉遊びをはじめた。定番の童謡を口ずさみながら、リズミカルに松ぼっくりをコップに載せていく。

 コップの中に入れたり、反対側の底の部分に載せたり、松ぼっくりの開いた部分にうまくコップの縁を載せたりして。パッと見、けん玉っぽくかんじられる遊びだ。

 それを見たミミが大興奮した。


「お兄ちゃん! あたしもやりたい!」

「おー、やってみなー」

「うん! えい!」


 かけ声と共に松ぼっくりをコップの中に入れた。次に反対側のコップの底に載せようとしたが、跳ね返ってうまく乗らなかった。


「難しいね!」


 そう言いながらも、ミミの目は輝いている。


「練習すれば出来るさ。今おれがやったのできたら、もっとすごい技を教えてあげる」

「本当! わかった頑張る!」


 ミミがハイテンションのまま、直人が歌った童謡をリピートしながらけん玉遊びをする。

 その足元で子犬が同じように、つぶらな瞳を期待に輝かせて、直人を見上げている。


「はは、わんこはこっちなー」


 といって、手頃な松ぼっくりを拾って、ひょい、と遠くに掘り投げた。

 子犬が大喜びで松ぼっくりを追いかけていく。本能を刺激する遊びに大興奮だ。

 穏やかな秋の午後をミミと子犬と楽しんでいると、不意に、遠くから足音が聞こえた。

 複数人がいるであろう足音。目を向けると、さしものの直人も少しばかり驚いた。

 神輿である。天蓋付きの神輿を、四匹(よにん)のオークが担いでいる。その上に乗っているのもまたオークである。ワンピースを着ている所を見るに、女性なのだろうなと直人は思った。


「オークか……」

「お兄ちゃん呼んだ?」


 直人のつぶやきにミミが反応した。


「いや、向こうからオークが来てるんだ」

「ふぇ? あっ!」


 オークの神輿の方を見たミミが目を見開かせる。どうしたんだろう、と直人が思っていると、神輿は徐々に近づいてきて、二人の前に止まった。

 神輿が下ろされ、乗っているオークが地面に降り立つ。

 そのオークに、ミミが飛びついた。


「オゴゴ♪」


 内容はわからないが、明らかに喜びの感情がこもった鳴き声である。ミミが飛びついたオークは目尻が下がって、ミミにほおずりをした。

 二人はオークの言葉で喋りあった。やがてオークがミミに肩車をして、そのまま駆け出した。

 ミミは楽しそうにコップについた松ぼっくりをぶんぶん振り回している、まるで騎馬武者のようなノリだが、ひたすら微笑ましかった。


「オッゴー♪」


 オークがミミを跳ね上げた。ミミは空中で縦に一回転して、慣性のままオークの肩に着陸する。

 そうして一通り楽しむと、オークはミミをのせたまま戻ってきて、ミミを地面に下ろした。

 そして、直人に向かってしずしずと一揖して。


「初めまして、リリと申します」


 なんと、人間の言葉で話しかけてきた。

 直人は驚いた、彼が今まで出会ってきたオークのなかで、唯一人間の言葉をしゃべれるオークなのだ。

 なぜ? と一瞬思ったが、その理由はすぐにわかった。


「妹がいつもお世話になってます」

「妹?」

「はい」

「あたしのお姉ちゃんだよ」

「お姉さんがいたのか」

「似てないですが、正真正銘の姉です」

「似てないもなにも……」


 直人は複雑な顔をした。

 そもそも片方はどう見てもただのオークで、片方は耳が尖ったエルフの女の子だ。

 似ているか似ていないか、という次元の話ではない。

 だが。


「そっか、あんたもハーフだから、こっちの言葉を話せるんだ」

「はい」

「じゃあ納得だ」


 ミミの姉だと言うことで、直人は彼女をキャンピングカーの中に招き入れ、こたつの前に座らせ。その横にミミが一緒に座り、大好きなお姉さんにぎゅ、としがみついた。


「粗茶ですが」

「ありがとうございます」


 オークは居住まいを正して、言った。


「改めて、姉のリリと申します。妹がいつもお世話になっております。ご迷惑をかけていないでしょうか」

「いえいえ、ミミにはいつも癒やされてます」

「そうですか。この子はとにかくはしゃぎがちなので、何か失礼があってはと心配していたのですが」

「ところで、今日はミミに会いに?」

「ええ。実はしばらく国を空けていたのですが、戻ってみると父も母も、果ては妹までも姿がみえない事でいささか愕然としていました。それでまずはたどりやすいここに」

「たどりやすい?」

「我が国の技術と融合なされたそうで」


 リリがそう言い、キャンピングカーの天井を見上げた。


「ええ、夏の終わりくらいに。ああ、それでたどれたんですか」

「そういうことです」

「なるほど」


 直人は納得した。その辺りの原理はよく分からないが、さもありなん、と言う風には思えた。


「妹が元気でほっとしました」

「そうだ! お姉ちゃんお腹空いてない?」

「お腹?」

「うん、お兄ちゃんのご飯すごく美味しいんだよ。一緒にたべよ?」

「ミミ、そんな事を急に言ったらご迷惑でしょ」

「ああ、おれなら別に構いませんよ」


 ミミがシュン、となりかけたところに直人がすかさず取りなそうとした。


「お口にあうかどうかはわかりませんが、それでもよければ」

「お兄ちゃん、迷惑じゃない?」

「ああ、大丈夫。ミミはお姉ちゃんに何を食べさせたい? ミミが美味しいって思ったものの方がいいかな」

「あたしが美味しかったもの?」

「ああ」

「うんっとね……全部!」

「全部はさすがに作れないな。一番美味しかったのは?」

「じゃあねえ……リンゴを焼いたやつ!」

「茶葉で香りつけたしたあれかな?」

「うん! すっっっっっ――」


 ミミが小さな拳を握り、溜めた。


「っっっごく美味しかった!」

「そか。茶葉はまだあるけど、リンゴはどうだったっけな」

「あたし、取ってくる」

「うん? ああ()にあるのか」

「うん! おいで、わんこ!」

「わん!」


 ゴールデンコンビが一緒になって、不思議空間の中に飛び込んでいく。

 それを見送る直人。姉に美味しいものを食べさせたくて張り切る幼女の姿に目尻が下がりっぱなしだ。


「おっと、ミミが戻ってくるまでに準備しとかないと。すいません、ちょっと待っててください」

「適当にやれば?」

「わかりました――えっ?」


 一瞬、耳を疑った。おそるおそる視線を向ける。

 ミミがいなくなった瞬間、リリはまるで人が変わったかのようになっていた。

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