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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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雪華殿、私が作った点心を食べないと、あなたは元気が出ないでしょう?

 

 おう賢妃けんぴの見舞いを終えると、今回も朱翠影が後宮の門前で待っていてくれた。

 通桂つうけい門の二重扉が開閉するのを待ち、ようやく彼と顔を合わせ――……ほっと息を吐いた瞬間、事件が起きた。


「――救国の巫女殿」


 突然背後から声をかけられ、肝を冷やした。

 現状、雪華は通桂つうけい門の中央部分に立っていて、二重扉のうち、背後の門扉はすでに閉ざされている。そして正面の門扉だけが外に向かって開かれている状態だ。つまりあとは前進して、目の前にいる朱翠影と合流するだけ……のはずだったのだが……。

 振り返ってみれば、互いを仕切る格子状の門扉に右手をかけ、老齢の女官が佇んでいるではないか。

 彼女が立っているのは後宮の広場であるため、規則違反を犯しているわけではない。あくまでも敷地ぎりぎりの所まで寄って来ただけだ。


「――ハク女士ニュイシ


 通桂つうけい門を挟み、敷地の外から朱翠影が硬い声で呼びかけた。

 そう――現れたのは後宮の禁忌こと、ハク女士ニュイシその人だった。


「あたしも仲間に入れなよ、救国の巫女殿」


 ハク女士ニュイシが微笑みかけてくる。


「仲間、ですか?」


「面白そうだ、なんかやるんだろ――消えた女官、魏祥ぎしょうの件でさ」


 驚いた……そこまで把握できているなんて。

 窺うように眺めれば、ハク女士ニュイシは意味ありげに片目をつむり、ますます悪戯な笑みを浮かべるのだった。


「あたしを敵に回すかい? それとも味方にしておく?」


「二択なら……敵に回すのは嫌ですね」


「だろう? じゃあ決まりだね、あたしも参加するよ。で、いつ?」


「明日の日没です」


「分かった」


 ハク女士ニュイシは「んー」と悩ましげに指先を唇に押しつけてから、愛を与えるというように、それをこちらに向けて伸ばしてきた。


「これから仲良くしようじゃないか、救国の巫女殿」


 ちゅ、と唇を尖らせ、言いたいことだけ告げると、ハク女士ニュイシはすぐに姿を消した。


「………………」


 少したってから通桂つうけい門を出た雪華は、朱翠影が瞳を細めてこちらを見つめていることに気づく。


「あのー……朱殿」


「なんでしょうか」


「そんなふうに『捨て犬を勝手に拾って来てはだめでしょう』みたいな目で見ないでください。不可抗力です」


「やり取りを聞いていて気づいたのですが、あなた方、今日が初対面ではありませんね? ぎこちなさがなかった」


 言い当てられギクリとした。確かにそのとおりで、雪華は初日にハク女士ニュイシと会話している。朱翠影が心配すると思い、その件は報告していなかった。

 というか飛頭蛮ひとうばんの調査に集中していて、頭がいっぱいだったというのもある。


「申し訳ありません、先日、ハク女士ニュイシと話をしたのですが、朱殿にはそのことを内緒にしていました。怒っています?」


「怒っています。御身に危険があるかもしれないのに、何も知らされていなかったとは」


「お詫びに私、なんでも朱殿の言うことを聞きます」


「可愛らしくご機嫌を取ってもだめですよ」


 普段は蜂蜜より甘いのに、硬質な物言いである。顔立ちが端正なだけに神々しさが際立ち、取りつく島もない。困ったな……。


「どうしても許せませんか?」


 雪華は両手を合わせ、懸命に詫びた。


「朱殿、本当にごめんなさい……屋敷に戻ったら、肩を揉みます」


「そんなことで誤魔化されません」


姐姐ジェジェは怒っていても、肩を揉むと許してくれました」


「私はあなたの姐姐ジェジェではない」


 ああもうだめか……雪華はしょんぼりして肩を落とした。


「じゃあ仕方ない……私は今日から安宿に泊まります。これまでお世話になりました」


 すると朱翠影が慌てて手を握ってきた。


「家出はいけません」


「家出?」


「雪華殿――私が作った点心を食べないと、あなたは元気が出ないでしょう? 家を出て行くなんておっしゃらないでください」


 雪華はそれを聞き、くすりと笑った。


「そうですね、私は朱殿が作る料理のとりこです。あなたと一緒にいないと、元気が出ません」


「それではすべて水に流して、仲良く家に帰りましょう」


 なぜか最後は朱翠影が下手したてに出て、雪華がハク女士ニュイシのことを隠した一件はうやむやになった。



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