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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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私、犯人が分かったかもしれません

 

 料理を待つあいだに、先ほど注文を取ってくれた娘が、盆に茶器を載せて近づいて来た。どうやら先に、お茶のおかわりを出してくれるらしい。

 目が合ったので雪華が微笑んでみせると、相手もにこりと笑みを返してくれる。


「熱いお茶を淹れましたので、よろしければどうぞ」


 その時、東の山間やまあいから、犬の遠吠えが響いてきた。

 不意を突かれたらしく、娘がビクリと肩を揺らし、よろける。


「――大丈夫ですか?」


 すぐ近くにいた雪華がさっと席を立ち支えると、娘の顔が赤くなった。


「ごめんなさい……犬が苦手で、いつもビクッとしてしまうんです」


「苦手なものは誰にでもありますよ」


 話しているうちに娘の右手が下がっていき、今度はお茶を零しそうだ。雪華は盆の裏に手のひらを回し、水平になるよう調整した。


「やだ、すみません」


 ますます恐縮する娘に『気にしないで』と微笑みかける。


「いいえ、あなたが火傷やけどしなくてよかった」


 盆が動いたのでチャプ……とお茶の表面に波紋ができる。

 それを眺めおろしていた雪華はハッとして視線を巡らせた。

 先ほど犬の遠吠えがした方角――東に見える山の稜線りょうせんを眺める。

 音の反響からして、犬がいる場所はそんなに離れていなそう。山のふもと――少し先にある木立の陰あたりだろうか。


「寺院の熊犬はなぜ……」一拍置き、雪華の顔色が変わる。「ああ、そういうことか、可哀想に」


「お客様、どうかされました?」


「なんでもありません、お茶をありがとう」


 娘から茶器の載った盆を受け取り、雪華がふたたび着席すると、なぜか朱翠影が呆れたようにこちらを見てくる。


「どうしてそんな目で私を見るのです、朱殿」


「雪華殿は人たらしですよね」


「ん? そんなことは初めて言われましたよ」


 雪華はさっぱり分からんと思いながら適当にあしらい、「それより」と朱翠影のほうに身を乗り出した。


「私、分かったかもしれません――犯人」


 犯人はひとつ、間の抜けた失敗を犯している――それに今気づいた。

 ひとつ取っかかりができると、からまっていた糸が、するするとほどけていくかのようだった。ごちゃごちゃしていたものが整理されると視界が晴れ、頭の中で、点と点がはっきりと繋がる。


 都に戻ったら、雪華がすべきことはひとつ――ぬくぬくと安心してくつろいでいる毒蛇を脅かし、巣穴から叩き出す。


 許されざる悪党――お前は地獄行きだ。



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