表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/83

春餅

 

 雪華たちは沶竟いけいでひと息つくこともなく、すぐに蜻蛉とんぼ返りで都に戻ることにした。

 帰路、休憩で立ち寄った茶屋にて、ふたりで作戦を立てた。


「何から手をつけますか?」


 朱翠影に尋ねられ、雪華はよく考え、答えを出した。


おう賢妃けんぴに立ち直っていただきましょう。飛頭蛮ひとうばんの恐怖で病んだあの方が、最後を見届けるべきだと思います」


「賛成です。それが良い」


 それから状況を整理していく。

 飛頭蛮ひとうばんについてはふたりとも専門外なので、ひとまず置いておくことにした。


 まずは魏祥ぎしょうが姿を消した事件に、焦点を絞る。


 こちらは両親宛に指が送りつけられていることから、犯人は『人間』で間違いない。飛頭蛮ひとうばんは腸を食うだけで、手紙を書かないし、金銭の要求もしないだろう。


 そうなると容疑者は五人――三人女官と、宦官のでんたん、そして武官の馬蓼ばりょう

 検討の際は感情や思い込みを排除し、あくまでも冷静に可能性を挙げていく。


 あの夜寺院にいた者の中で、真っ先に容疑者から外したのが、残るひとりの護衛武官、程汧ていけんだった。

 彼は飛頭蛮ひとうばんが出た際に、人目のある表門で消火活動をしていた。小火ぼや騒ぎで寺院の人たちがまごつく中、彼が率先して場を指揮したらしい。目立つ場所にいたため、終始誰かに見られている。

 外部に仲間がいて、そちらにすべて任せていたという可能性もあるが、それでもさすがに裏門のほうを気にして、少し場を離れることくらいはあったはずだ。けれど程汧ていけんは懸命に消火活動に当たり、ほかのことを気にしている素振りはなかったそうである。だから容疑者から外しても構わないだろう。


 では残る面子めんつの中で、誰が怪しいだろう?


 宦官のでんたん――事件翌日、彼がすぐに魏祥ぎしょうの実家を訪ねたことが引っかかる。「魏祥ぎしょうが逃げ出した」と父母を厳しく責め立てたそうだが、これはでんたん自身に後ろめたいことがあり、両親を攻撃することで何かを誤魔化そうとしていた可能性がある。

 彼が屋敷を去ったあと、裏口に指の入った木箱が置かれていたとのこと。これはでんたんが帰り際、ぐるりと通りを迂回して、こっそり置いて去ったのかもしれない。


 でんたんが犯人の場合、自動的に、護衛武官の馬蓼ばりょうも共犯となる。彼らは魏祥ぎしょうが消えた夜、一緒にいたからだ。

 この場合、馬蓼ばりょうはただの使い走りだろう。俯瞰ふかんすると、魏祥ぎしょうの両親への接触など、でんたんが重要な役目を果たしているので、馬蓼ばりょうのほうは小金で買収された小悪党ということになろうか。

 彼らふたりは、女官の桃義とうぎにまんまとしてやられ、物置に閉じ込められた。ただ、頑健な武官ならば、扉を蹴破けやぶるなどして、自力で脱出が可能だったのでは? ふたりが犯人だとすると、自由に動ける時間を作りたかったはずなので、あえて桃義とうぎに騙されたふりをして、自主的に物置に入った可能性すらある。だとするとあとでふたりは、ほくそ笑んだだろう。


 ――そして三人女官。


 桃義とうぎは当日の夜、奇妙な動きをしている。一番気になるのがかかとに負ったひどい怪我だ。

 一方、豊紈ほうかん飛頭蛮ひとうばんを目撃し、おう賢妃けんぴに爪を立てられ、やはり怪我をしている。


 それから行方をくらませた本人である、魏祥ぎしょう――彼女も被害者として除外することはできない。

 魏祥ぎしょうに付き合っている男がいたなら、あの晩、駆け落ちしたのかもしれない。

 生活資金が必要だったため、自分が誘拐されたという筋書きにして、脅迫状を両親に送りつけた。

 五百貫という大金が転がり込むのなら、指を一本犠牲にする価値はあると考えたのだろうか? あるいは別人の指を送ったという可能性もある。死者から拝借したか、気の毒な誰かを襲ったか……特徴的な指の傷が一致していたそうだが、それは偽装であり、色づけなどで加工した可能性も否定できない。木箱の中の指は、すでに腐敗して骨だけの状態になってしまったので、今さら確認はできないが。


 * * *


 ――雪華と朱翠影は茶屋で話し込み、思いつく限りの可能性を挙げていった。

 疑い出すとキリがなく、段々と頭が疲れてくる。


「長居しているので、追加で何か頼みましょうか」


 朱翠影がそう提案し、


「そうですね」


 雪華は頷いた。

 給仕役の娘を呼び、果物を使った甘味と、軽食の春餅チュンビンを注文する。

 春餅チュンビンは小麦粉を使った生地をパリッと薄く焼いたもので、好みの具材をそれに載せて丸めて食べるという、手軽なわりに奥深い味を楽しめる料理である。こちらの茶屋では香味野菜、甘辛のたれ、焼いた鴨肉の細切りをつけてくれるそうだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ