あの晩起きた奇妙なこと
今の話を聞く限り、黄賢妃は健気で、真っ直ぐな性格をしているように思える。もしかするとそういうところが、後宮で浮いてしまった原因なのかもしれない。
計算高く本心を話さない人たちの中に、子供のように伸びやかで素直な人が交ざれば、皆と違うという理由だけで敵視されてもおかしくない。
しかも実家が有力で、本人はあの素晴らしい美貌の持ち主とくれば――すべてを手にしている完璧な女性ということで、なおさら周囲は面白くなかったのではないか。
敵はほかの妃だけかと思いきや、付き人の女官も忠実ではない。
桃義は明らかに、黄賢妃を嫌っている。
先ほど桃義は「黄賢妃は慶昭帝に捨てられて」と言ったが、この表現には悪意があると思った。
雪華は『黄賢妃が捨てられた』という解釈はしていない。
これは慶昭帝が悪いわけでもない……世の中にはどうにもならないことがある。
むしろ慶昭帝が情念で物事を判断する人で、黄賢妃を特別扱いしてかばったならば、そうした小さなことがきっかけで、国は崩壊していくかもしれない。
黄賢妃はそれを理解して、慶昭帝のために身を退くことにしたのだ。
ここで雪華はあることに気づいた――もしかして桃義は、慶昭帝のことが好きなのでは?
時代によっては、皇帝が下働きの女官を寝所に呼ぶこともあったらしい。
けれど慶昭帝はそういうことをしないのだろう。雪華に対しても「妃ではなく、女官とする」と明言し、彼の中で「妃」と「女官」をしっかり線引きをしているようだった。
けれど桃義は慶昭帝の気質を知らない。
彼女は華やかな見た目をしているから自信もあるだろうし、『もしかすると私は慶昭帝に見初められるかも』という期待をずっと抱いていたのかもしれない。
けれど実際に慶昭帝からお呼びがかかることはなく、期待が外れ続けた失意はやがて、あるじの黄賢妃への憎しみに変わっていった。
慶昭帝、罪作りだな……。
……だけど、あれ?
雪華は違和感を覚え、探るように桃義の小作りな顔を見つめた。
「桃義さん――あなたは黄賢妃と一緒に境内を散歩したかったのでは? 魏祥さんが何か悪さをするつもりだと言い出したのはあなたですし、すべてを見届けるつもりなのかと思いました」
雪華は内心で、『あなたが嫌っている魏祥が黄賢妃に詰められる場面ですよ、絶対に見逃したくないでしょう?』と疑っていた。
すると桃義が腕組みをして、意地悪く横目で豊紈を流し見た。
「私だってそうしたかったわ……だけどあの晩は奇妙なことが起きて」
「奇妙なこと?」
「寺院の表門で小火騒ぎがあったのです。寺院に雇われている警備兵と一緒に、黄賢妃付きの武官もひとり、確認に向かいました。出て行ったのは程汧殿のほうです。その騒動の中、ふと気づいたら、部屋から魏祥の姿が消えていました」




