黄賢妃の献身
――豊紈の証言。
「夜の食事を終えたあと、黄賢妃から『境内を散歩しましょう』と誘われました」
「散歩に誘われたのは女官の皆さん全員ですか?」
消えた魏祥の行動が気になる。散歩の時は一緒にいたのか? いなかったのか?
「いえ……私だけです」
豊紈はそう答えたあとで、何か言いたげに同僚の桃義を見遣った。『これ、話していいのかしら?』という顔つきだ。
すると桃義が片眉を上げて意味ありげな表情を作り、挑発的に口を挟んだ。
「これには事情があるんですのよ」
「事情?」
「黄賢妃は魏祥が悪いことをしていると疑って、あの晩、それを突き止めようとなさったのです」
「悪いこと、というのは具体的になんですか?」
「それは色々ありますわ。こっそり男と会うとか、寺院を抜け出して町に遊びに行くとか……とにかく魏祥はすばしっこくて、油断なりませんからね。あの女はすぐに悪さを思いつくのです」
「もしかして桃義さんが、黄賢妃に警告したのですか?」
尋ねると、桃義の口元に勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。
「ええ、そうです。私が黄賢妃に申し上げたのです――後宮内の話ならば、女官が少しさぼったとしても、内内の話で済みますわ。けれど、黄賢妃付きの魏祥が外出先の寺院で羽目を外したとなると、慶昭帝はどう思われるでしょうか――と。いつもは私が魏祥の悪口を言っても、黄賢妃は軽く聞き流していました。けれどあの晩はさすがに、顔色を変えていらっしゃいました」
「なぜ黄賢妃は顔色を変えたのでしょう?」
「やだ分かりませんか? それは慶昭帝を愛しているからです」
桃義が気の毒そうに眉尻を下げるのだが、雪華にはなぜかその顔が『黄賢妃、ざまあみろ』と嘲笑っているように感じられた。現に、彼女の唇は綺麗に笑んでいる。
「出家について黄賢妃は『これで女たちが睨み合う厄介な後宮から出られる、すっきりするわ』なんて強がっていらっしゃいましたが、実際は慶昭帝に捨てられて、身も裂かれんばかりの苦しみを味わったはずです。愛しているからこそ、慶昭帝に軽蔑されたくない――だから女の意地で、綺麗に去ろうと決めていたようです」
それを聞き、雪華は顔を曇らせた。
……切ないわ……。




