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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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姜道士、暗躍する

 

 そうなるとこれまでおう賢妃けんぴに尽くしてきた女官たちは、大きな影響を受ける。

 強いあるじに付いてさえいれば、右肩上がりに出世していったかもしれないのに、ここで予想外につまずいてしまったわけだ。


 ……それが原因で、目の前の可憐な桃義とうぎは、苛々しているのだろうか?

 行方不明になった魏祥ぎしょうを「お金持ちでずるい」となじっていたけれど、怒りはもっと根深いのかもしれない――立場の強い妃に付いている女官、全員、恵まれていてずるい、私こそが評価されるべき――その鬱屈が、今の険しい顔に表れているのかも。負の感情に取り憑かれている人間特有の、ねっとりした邪気を放っている。


 一方、豊紈ほうかんのほうは落ち着いていて、達観しているように見える。

 ただし幸福なわけではなく、表情に元気がないので、落ち込んではいるようだ。桃義とうぎと違って、『不条理だ』の気持ちが怒りの燃料にならず、悲しみという形で出ているのかも?


 そして一番問題なのが、消えた女官、魏祥ぎしょう

 桃義とうぎは「そのうちひょっこり戻ります。そういう女です」と語っていた。すぐに仕事をさぼるし、機会があれば規則を破ろうとしていたから、今回もその延長に違いない、と。


 けれど……魏祥ぎしょうは本当に、そこまでだらしないのだろうか?

 後宮での勤務態度が不真面目だったことと、今回外出先で姿をくらませたことは、種類がまるで違う。

 魏祥ぎしょうはこれまで適当に手を抜いて仕事をしていたようなのに、おう賢妃けんぴ付きの女官をクビになっていない。ということは家柄の良さに加え、要領も良かったのかもしれない。


 桃義とうぎはそんな同僚に対して心の底に敗北感があるから、嫉妬し、ののしらずにいられないのだ――なんであんな適当な女を、皆は高く評価するのよ、普通なら冷宮送りでしょ、と。

 つまり皮肉なことに、桃義とうぎが「あの女を引きずり下ろしたい」と強く訴えるほど、魏祥ぎしょうに価値があることを証明してしまっている。

 本当に欠点しかない存在ならば、誰かに憎まれることはあっても、誰かに高く評価されることはない。その点、魏祥ぎしょうは、『足を引っ張りたい』と同僚から憎まれるほど、高い場所に居続けたわけだ。良し悪しは雪華の知るところではないが、組織人として優秀だったと思われる。


 だとすると奇妙である――魏祥ぎしょうがそういう人物なら、適度に遊んでもはめは外しすぎないはずで、夜のあいだに寺院をこっそり抜け出したとしても、朝にはちゃんと戻ったのではないか?


 雪華としては次のふたつの可能性が頭に浮かぶのだが――消えた魏祥ぎしょう飛頭蛮ひとうばんに食われた被害者である――あるいは彼女自身が飛頭蛮ひとうばんの宿主であり、寺院でおう賢妃けんぴに正体を見られたため、とうとう人の世と縁を切ることにした――……。



桃義とうぎさん」雪華は尋ねてみることにした。


「あなたは魏祥ぎしょうさんがもうすぐ戻るとおっしゃいましたが、私は疑問に思っています。寺院で彼女は飛頭蛮ひとうばんに食べられたから、もう戻らない――その可能性はありませんか?」


 これを聞き、桃義とうぎが小馬鹿にしたような笑い声を立てる。刃物のように尖った声音だ。


「ありえませんよ、馬鹿馬鹿しい!」


「なぜ言い切れます?」


「私たちはね、あらかじめキョウ道士から、飛頭蛮ひとうばんけのありがたい数珠をもらっていたのです」


 桃義とうぎが長袖のさんをまくり上げ、手首に着けている乳白色の数珠じゅずを、得意げに見せつけてきた。


 ここでまさかキョウ道士の名前が挙がるとは……雪華は目を瞠る。

 キョウ道士は、皇后お抱えの女道士だったはず……それがなぜおう賢妃けんぴ付きの女官に数珠をあげたのだろう? 皇后は嫌っているおう賢妃けんぴのためには、指一本動かさないはずでは? 下働きの女官には罪がない、という考えなの? それともキョウ道士の独断?


「その数珠は、行方不明の魏祥ぎしょうさんも着けていたのですか?」


「ええ、そうです」


 なぜ? 時系列がおかしくないか?

 ――「女官たちはありがたい数珠を着けて寺院に宿泊したので、魏祥ぎしょうがあの晩、飛頭蛮ひとうばんに食べられたはずがない。本人の意思で消えたとしか考えられない」――それが桃義とうぎの主張である。

 しかしそれだとキョウ道士は、おう賢妃けんぴ一行が寺院に行く前から、飛頭蛮ひとうばんを警戒していたことになる。


「じゃあ――豊紈ほうかんさんは?」


 大人しい豊紈ほうかんに視線を転じると、彼女もおずおずとさんをまくり上げた。その手首にはやはり乳白色の数珠が着けられていた。


 ――三人女官は全員、キョウ道士から、飛頭蛮ひとうばんけの数珠をもらっていた。

 そしてそのうちのひとりが、寺院でいなくなった。



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