彼女は消えました
神出鬼没で大活躍だな、田丹……というか単にお調子者で、お出かけ大好きなのか?
だとしたら烏解に来た時、なんであんなに世慣れていなかったの?
「辺境の村はおそろしいところですよ、くれぐれも用心すべきです! 店の中で巴蛇がとぐろを巻いているかもしれません!」
などと大騒ぎして……外出は好きだけれど、田舎の山村が嫌い、とか? 気取ったやつだな!
「どうかなさいましたか?」
雪華の様子がおかしいことに気づいたらしく、豊紈が尋ねる。
「以前、田丹殿とお会いしたことがあったので、名前が挙がり、驚いてしまって」
「ああ……少し変わった方ですよね」
豊紈が困ったように苦笑いした。慎み深い豊紈が言うくらいだから、田丹はあちこちで問題を起こしているようである。とはいえ彼のおかげで豊紈との心の距離は縮まった気がした。
ここだけの話、私はこう思いました……という打ち明けは、敵対的な相手にはしないことが多いので、話す側、聞く側、互いに好感度が少し上がる。
さて――同行者はあと四名で、うち三名の名前が挙がった。
まず護衛の武官が二名、そして宦官が一名――皇帝の妃が外出するのは、朝廷としては神経を使うだろうなと雪華は思った。
黄賢妃は近々出家する予定であるが、現状はまだ高位の妃である。よって御身を護るために護衛は必要。しかし妃と女官の旅に武官だけを付けると、外出先で男女の間違いがあっては困る……だからお目付け役として宦官も同行させたのか。
田丹は口うるさそうだから、武官が女性たちに手を出そうとしたら、興奮した雌鶏のように騒ぎそうだ。そうなると、田丹がお出かけ担当を務めるのは、適材適所なのかもしれない。
「同行者はあと四名とのことで、三名紹介いただきましたが、もうひとりはどなたです?」
雪華の質問に、豊紈と桃義が顔を見合わせる。豊紈は顔を曇らせており、桃義は冷ややかに表情を消している。可愛らしく華やかな顔立ちの桃義がこういう顔をすると、なんとも言えない毒々しさが漂う。
「……もうひとりは、魏祥という名の女官です」
やがて豊紈がおどおどと答えた。すると、
「魏祥の実家はお金持ちなんです」
桃義が挑発的に口を挟む。
雪華は瞳を細めた――実家がお金持ちというのは、仕事仲間からそんなに刺々しく言われないといけないこと?
「おふたりから見て、魏祥さんは立場的に上ですか? 下ですか?」
この問いに、桃義が前のめりになった。
「魏祥は、こちらの豊紈よりは立場が上です。でも私とは同格――それなのに彼女、三人の中で一番威張っていましたわ」
なるほど、殺伐とした話になってきた。これは本人を呼ぶしかない。この場に波風を立てることで、誰かがぽろりと秘密を口走るかも。
「魏祥さんにもお話を伺いたいので、お呼びいただけますか?」
そうお願いすると、ふたたびふたりが顔を見合わせた。
……なんだろう?
雪華は訝しく感じた。ふたりの様子は『面倒なことを頼まれた』という感じではない。絶対に無理なことを頼まれて、驚いた……という顔つきだ。
そういえば先ほど桃義は「彼女、三人の中で一番威張っていましたわ」と言った。「威張っていました」……なぜ過去形なの?
たっぷり時間をかけたあとで、豊紈が小声で答えた。
「実は……魏祥は行方不明なんです」
「行方不明?」
「寺院に泊まった晩、彼女は消えました」




