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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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彼女は消えました

 

 神出鬼没で大活躍だな、でんたん……というか単にお調子者で、お出かけ大好きなのか?

 だとしたら烏解に来た時、なんであんなに世慣れていなかったの?


「辺境の村はおそろしいところですよ、くれぐれも用心すべきです! 店の中で巴蛇はだがとぐろを巻いているかもしれません!」


 などと大騒ぎして……外出は好きだけれど、田舎の山村が嫌い、とか? 気取ったやつだな!


「どうかなさいましたか?」


 雪華の様子がおかしいことに気づいたらしく、豊紈ほうかんが尋ねる。


「以前、でんたん殿とお会いしたことがあったので、名前が挙がり、驚いてしまって」


「ああ……少し変わった方ですよね」


 豊紈ほうかんが困ったように苦笑いした。つつしみ深い豊紈ほうかんが言うくらいだから、でんたんはあちこちで問題を起こしているようである。とはいえ彼のおかげで豊紈ほうかんとの心の距離は縮まった気がした。

 ここだけの話、私はこう思いました……という打ち明けは、敵対的な相手にはしないことが多いので、話す側、聞く側、互いに好感度が少し上がる。


 さて――同行者はあと四名で、うち三名の名前が挙がった。

 まず護衛の武官が二名、そして宦官が一名――皇帝の妃が外出するのは、朝廷としては神経を使うだろうなと雪華は思った。


 おう賢妃けんぴは近々出家する予定であるが、現状はまだ高位の妃である。よって御身を護るために護衛は必要。しかし妃と女官の旅に武官だけを付けると、外出先で男女の間違いがあっては困る……だからお目付け役として宦官も同行させたのか。

 でんたんは口うるさそうだから、武官が女性たちに手を出そうとしたら、興奮した雌鶏のように騒ぎそうだ。そうなると、でんたんがお出かけ担当を務めるのは、適材適所なのかもしれない。


「同行者はあと四名とのことで、三名紹介いただきましたが、もうひとりはどなたです?」


 雪華の質問に、豊紈ほうかん桃義とうぎが顔を見合わせる。豊紈ほうかんは顔を曇らせており、桃義とうぎは冷ややかに表情を消している。可愛らしく華やかな顔立ちの桃義とうぎがこういう顔をすると、なんとも言えない毒々しさが漂う。


「……もうひとりは、魏祥ぎしょうという名の女官です」


 やがて豊紈ほうかんがおどおどと答えた。すると、


魏祥ぎしょうの実家はお金持ちなんです」


 桃義とうぎが挑発的に口を挟む。

 雪華は瞳を細めた――実家がお金持ちというのは、仕事仲間からそんなに刺々しく言われないといけないこと?


「おふたりから見て、魏祥ぎしょうさんは立場的に上ですか? 下ですか?」


 この問いに、桃義とうぎが前のめりになった。


魏祥ぎしょうは、こちらの豊紈ほうかんよりは立場が上です。でも私とは同格――それなのに彼女、三人の中で一番威張っていましたわ」


 なるほど、殺伐とした話になってきた。これは本人を呼ぶしかない。この場に波風を立てることで、誰かがぽろりと秘密を口走るかも。


魏祥ぎしょうさんにもお話を伺いたいので、お呼びいただけますか?」


 そうお願いすると、ふたたびふたりが顔を見合わせた。

 ……なんだろう?

 雪華は訝しく感じた。ふたりの様子は『面倒なことを頼まれた』という感じではない。絶対に無理なことを頼まれて、驚いた……という顔つきだ。

 そういえば先ほど桃義とうぎは「彼女、三人の中で一番威張っていましたわ」と言った。「威張っていました」……なぜ過去形なの?

 たっぷり時間をかけたあとで、豊紈ほうかんが小声で答えた。


「実は……魏祥ぎしょうは行方不明なんです」


「行方不明?」


「寺院に泊まった晩、彼女は消えました」



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