『丹丹丹あのあのあのあいやあ』殿か!
――豊紈の証言。
「一週間の旅程で、黄賢妃率いる一行は、東北部の沶竟に向けて旅立ちました。黄賢妃は近々後宮を去り、沶竟にある寺院に出家する予定がありまして、その出家先の下見というのが旅の目的でした」
豊紈は大柄でおっとりした顔つきであるけれど、少し神経質な性格をしているようだ。話しながら身に着けている襦裙の帯位置を細かく調整したり、長方卓上に置かれた茶器の位置を横並びに揃えたり、無意識に手を動かしている。
性格が細やか……いや、あるいは……隣にいる桃義を意識して、緊張しているのだろうか?
ふたりのあいだに漂う空気は温かいものではないものの、かといって不仲という感じもしない。豊紈は、桃義に気を遣っているように見える。
同じ女官であっても、横並びではなく、上下格差は明確に存在するだろう。
ふたりの役職に上下があるのかもしれないし、そうではなく、家柄に差がある可能性もある。たとえば『桃義の父は官品が六位だけれど、豊紈の父は官品が八位』……というように。
雪華はまず『誰と誰が寺院にいた』のか、はっきりさせることにした。
「寺院に泊まった人は、黄賢妃、豊紈さん、桃義さん――以上の三名ですか?」
尋ねると、豊紈が顔を強張らせる。
……どうしたのだろう?
「いえ、そのほかに四名います」
「お名前を教えていただけます?」
「護衛役として武官が二名――程汧殿と、馬蓼殿。そして宦官が一名――こちらは田丹殿という方です」
雪華は驚きで目を瞠った。
なんと――お騒がせ宦官の『丹丹丹あのあのあのあいやあ』殿か!




